第4話


 その写真家は各地の鉄道や駅を中心に撮影をし、錆びたレールや田舎の風景に溶け込んだ駅舎等を主な被写体としていた。

 その一枚の写真にはあの懐かしい北の入り口の駅が写っていた。そしてその線路のレールから少し離れたゴツゴツした石の間から勢いよく伸びた雑草の小さな群れがピンクの小さな灯りのような花を咲かせているのが見える。それはあの遠い日に湖のほとりで見た花と同じだった。ちらつく雪にミスマッチの風景として花にフォーカスを絞った写真だった。

 僕が写真を凝視していると写真家がやって来て話しかけてきた。

「気に入りましたか? 面白い写真でしょう? 雪が降る位の寒さにも負けずに花が頑張って咲いている、と言うより、敢えて厳しい環境を選んで咲いているようにも見えるんです。不思議な事に山に自生する植物なんですよ。それが線路脇に咲いているんです。きっと登山者の服か何かに種子が付いて、登山者が電車を降りた時に落ちたのでしょう」

 まるで向日葵が太陽を仰いでいるように、ピンクの花が雪を敬意を払って仰いでいるように咲いているのが見えた。僕はあの日キラキラ輝く黒い瞳の中に映っていた降り続く雪を思い出した。

「あの街は」と僕はつぶやいた。「昔は寂しかったけど少しは賑やかになったでしょうね」

「いえ、相変わらず閑散とした所ですけど?」

いや、そんなわけはない。と僕は思った。なぜならあのコが、あの花が咲いている。

 あのコは、あの種子は、ほんの少し僕を利用しながらも自分で自分の運命を選んだんだ。僕の心にはあの日と同じ暖かくて澄んだ光が射した。ただ一つ少しだけ心の底に少し重いような切なさがあった。それは誰かと誰かは一生違う場所で生きていかなくてはならないって自然の摂理の重さかな。

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ささやかで勇気ある旅 秋色 @autumn-hue

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