第3話 5人中4人が金目当て!?

 現在時刻は午前8時。『魔女ハウス』1階の食卓にて。


「やっぱり皆で食べる朝ごはんは美味しいです! そう思いますよね! 岩崎さん!!」


「え、ああ、うん。そうだね……」


 俺の右隣には元気な合法ロリッ子。


「ねぇ、なんか岩崎っちのテンション低くなーい!? あ、そうだ! ウチが『あーん』で朝ごはん食べさせてあげよっか?」


「い、いや、遠慮しとくよ……」


 俺の左隣には茶髪&短髪の活発美少女。


「あらあら、大河さんったら食欲が無いのかしら? それとも私の料理がお口に合わなかったかしら……」


「いや、味噌汁も卵焼きもおいしいっす。でも、その、今日は二日酔いであんまり食欲が無くて」


 テーブルを挟んで俺の左斜め前に居るのは、雰囲気と身体つきがやたらと色っぽい美女。


「ほ、ほら、大河くんは今日来たばかりだから多分緊張してるんだよ。ごめんね、大河くん。私以外の4人は皆いっつも元気過ぎるの」


「いや、いいんだよ。元気なのは良いことだから……」


 テーブルを挟んで俺の右斜め前に居るのは、少し大人しめの文学系少女。


「あー、今お前チラッとアタシの胸見た? ふっふっふ、やっぱり大河も男の子なんだねぇ。まあ、アンタになら何回でも見せちゃうけど?」


「なっ……!」


 そしてテーブルを挟んで真正面に居るのは、やたらと露出度の高い金髪褐色ギャル。


 ──そう。現在、俺は5人の美女たちに囲まれながら朝食を摂っているのである。


 どうしてこうなった?


 いや、おかしいだろ。なんで異世界転生をしたわけでもなく、食パンを咥えた美少女と曲がり角でぶつかったわけでもないのにハーレムっぽくなってるんだよ。いきなり女の子5人と同居? なんだよ、そのラブコメ。聞いたことねぇぞ。


 ていうか、マジでこれはアカン。こう、ふわふわした空気感に耐えられない。


 というわけで、俺は1度彼女たちとの距離を置くべく、席を外すことにする。


「そ、その、俺トイレ行きたいんだけど……誰か場所を教えてくれない?」


「あー、トイレなら階段上がったら、すぐ真正面に見えるよ」


 よし、ナイスだ、おっぱいギャル。まさか君がトイレの場所を教えてくれるとは思わなかったよ。見た目に反して意外と優しいんだな。まあ、まだ名前すら知らないんだけど。


「ごめん、じゃあ俺ちょっと席外すから!」


 そして俺は彼女の気遣いに感謝しつつ、2階へと急ぐのであった。



 トイレへ到着。大した情報も持たず、いきなり『魔女ハウス』とやらにブチ込まれた俺は、とりあえず足りな過ぎる情報を補うためにウチの執事ジジイに電話をかけることにする。


「あー、もしもし、じい? 今、手空いてるか?」


「おー、これはこれは御曹司。どうされましたかな。何か急ぎの用ですかな?」


「いや、どうされましたかな、じゃねぇよ。お前には聞きたいことが山ほどある。なんなんだ? いきなり女の子5人とシェアハウス? そんなの聞いてねぇぞ」


「まあ、そりゃー、御曹司には伝えていませんでしたからなぁ」


「はぁ……まぁ、いい。とにかく今回のシェアハウスの件について詳しく説明しろ。まずは状況把握が最優先だ」


「おぉ、さすがは岩崎グループの1人息子。冷静沈着でいらっしゃる」


「うるせぇな。世辞はいいからさっさと説明を始めろよ」


「承知いたしました。では御曹司が巻き込まれた今回のシェアハウスの件について、僭越ながら私から説明をさせていただきます」


「あぁ、頼む」


「まず、はじめに。今回、御曹司が行うシェアハウスは世間一般で認識されているシェアハウスとは異なる点がいくつか存在します」


「まあ、なんとなくそんな気はしてたよ」


 そもそも男が俺1人っていう時点で一般的じゃないからな。


「このシェアハウスには社長と奥様の意思が深く関わっておられます。そしてその意思とはズバリ! 『そう遠くない将来、御曹司が我が社を継いだ時にハニートラップに引っかからないようにすること』でございます!」


「は? ハニートラップとシェアハウスに何の関係があるんだよ?」


「いや、まあ、ぶっちゃけますと、今御曹司がいらっしゃる家の中には御曹司を騙そうとしている女狐が4人ほど居るわけですな」


 なん……だと……


「その4人の女は『魔女』と呼称される者であります。『魔性の女』を略した呼び方でありますな」


「なるほど。だからこの家は『魔女ハウス』ってわけか……」


「お察しの通りでございます。あ、ちなみに5人のうち、唯一魔女ではない御方は御曹司が夢で何回も見ている『あの子』でございますので。まあ、言うなれば今回のシェアハウスのコンセプトは『本物の愛を見極めろ』でしょうな」


 え? 今なんて……? 


「お、おいじい! お前、今『あの子』って言ったのか!?」


「えぇ、言いましたとも。顔も名前も覚えていないのにも関わらず、御曹司が未練がましく10年以上もお慕いしている方でございます。今回は岩崎家の人員を総動員して探し当てました」


 いや、すごいな。昔に1度会って、それ以来俺の夢の中に出てくる女の子ってだけだぞ。どうやって探し当てたんだよ。


「つーか、未練がましくて悪かったな。でも仕方ねぇだろ。俺はどうしても『あの子』にもう1度会いたいって思ってしまうんだからよ」


 ていうか、あの5人の中に『あの子』が居るのか。一体誰なんだ? 今の段階じゃ、全く見当がつかん。


「しかし、御曹司。いくらもう1度会いたいからといって、人生で1度たりとも恋人を作っていないのは少々愛が重過ぎるのでは?」


「うるせぇな。それよりアレだアレ。ルール! 魔女ハウスにはルールがあるんだろ? それをさっさと説明しやがれ」


「はぁ、御曹司は相変わらずせっかちですねぇ。分かりました。では今回のシェアハウスにおけるルールについて説明させていただきます」


 なにが『せっかち』だよ。まったく。相変わらずこのジジイは一言多いな。


「えー、魔女ハウス内のルールは大きく分けて3つでございます。

1つ『女性陣は御曹司に告白してはいけない』、

2つ『御曹司は大学卒業までに誰かに告白しなければならない』、

そして3つ『御曹司が魔女に告白してしまった場合、御曹司は岩崎家の財産を一切使わずに魔女へ1000万円支払わなければならない』

ですな」


「え。なに。情報量が多過ぎるんだけど。頭がフリーズしそうなんだけど」


「あ、もし御曹司が魔女に告白してしまったら、その時は岩崎家の雑用やアルバイト等で自力で1000万円稼いでくださいね。ふぉっふぉっふぉ! まあ、10年も働けば1000万円くらい稼げるでしょう!! 心配はご無用でございます!!」


「いや、だから、ちょっと」


「あ、ちなみにこのルールは後ほどメールでそちらに送りますので心配はご無用ですよ」


「いや、だからさ。1000万円ってなんなんだよ?」


 じゃあ、なにか? つまり俺は1000万円目当てでシェアハウスに参加している『魔女』の誘惑を見極めて、『あの子』に告白しなきゃいけないってことなのか……?


「申し訳ございません、御曹司。今私から説明できることはこれ以上ございません。仕事もありますし、今日はこの辺りで失礼させていただきます」


「あ、ちょっと待てよ爺! 俺にはまだお前に聞きたいことが……!」


「あ、魔女ハウスで暮らしていく上で必要なものが何かありましたら私にメールでお伝えください。それでは、よい1日を!!」


「おい爺、俺はまだ……! チッ、切りやがったか」


 まぁ、最低限必要な情報は手に入ったから良しとするか。もっとも、今回の件が家の方針だということが確定した時点で俺は魔女ハウスの生活から逃げられなくなったわけだが。


 5人中4人が金目当ての魔女、そして残る1人は『あの子』か。まったく。とんでもないことになっちまったな。いくら俺の将来を見据えたハニートラップ対策とはいえ、頭おかしいだろ。なんでこんな事思いつくんだよ。


 だが、いつまで嘆いていても現実が変わるわけでもない。こうなったら金目当ての女共を一網打尽にして『あの子』を言い当てるしかないか。


 そう、これはチャンス。あくまでチャンスなんだ。俺が『あの子』と再会を果たす唯一にして最後のチャンスなんだ。いつまでもクヨクヨしてたってしょうがねぇ。


「あー、でも……」


 もし芦屋さんが魔女だったら、俺は人間不信になってしまいそうな気がする。

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