第7話 ヘッドハンティング
「アタシ、魔女バレしたから。あ、でもこの家には住み続けるかんね。まあそういうわけで、とりあえずこれからもよろしくってことで」
魔女ハウス生活2日目の朝。昨日のように6人で食卓を囲んで朝食を取っていたところ、今日も今日とて露出度の高いギャルが、突然自分の正体を全員に打ち明けやがった。
「お、おい、リサ。それ言っても良いのか?」
「いや、別に良いっしょ。どうせ大河にはバレてんだし。じゃあ、アタシもう食べ終わったから行くね。ごちそうさまでした」
すると朝食を終えたリサは、足早にスタスタと2階に戻って行ってしまった。
「な、なんなんだアイツ。機嫌悪いのか?」
「ねぇねぇ、岩崎っち! リサっちが魔女ってどういうことなの!? 岩崎っちは知ってたの!?」
リサについて思案していると、右隣に座っている茶髪元気ガール……舞華が俺に尋ねてきた。
「え、えっと、うん。まあ、昨日の夜になんか色々あってリサが魔女だってことが分かったんだよ」
「色々? 色々ってどういうことですか岩崎さん!? 教えて欲しいです!!」
お次は左隣の芦屋さんが俺の肩を揺らしながら問いかけてくる。
「え、えっと......うん、まあ色々あったんだよ......」
「だから! 私はその色々を聞きたいのです!!」
「あはは、そりゃ困ったな......」
こりゃ誤魔化せそうにないな。やっぱここは昨日何があったかを正直に話すしか……いやいや、それはナシだ。やっぱ昨日のことは言えない。言えるわけない。『夜這いされて胸触ったらリサの方から魔女カミングアウトしてきた』とかどう説明すりゃいいんだよ。さすがに2日目で女性陣4人から変態認定喰らうのはキツい。
「……岩崎さん?」
「え、えっとね、芦屋さん。実は昨日、俺はリサから勝負を挑まれたんだ。それで、その勝負に俺が勝ったからリサの正体が分かったんだよ」
嘘はついてない。
まあ、こんな言葉を信じてもらえるとは到底思えないが……
「こらこら、凪沙ちゃんに舞華ちゃん。大河さんが困ってるじゃない。誰にだって言いたくないことはあるはずでしょ? それ以上無理に聞き出そうとしたら、大河さんに嫌われちゃうかもしれないよ?」
妖艶美女……沙耶が俺たちの会話に入ってきた。
「そうだよ。2人ともあんまり大河くんを困らせちゃダメだよ。まだ大河くんとの距離感も上手く掴めてない段階なんだし」
続いて文学少女……千春さんも会話に入る。
てか、芦屋さんとリサ以外はまだパッと名前が出てこねぇ。
だが今の2人のフォローはこちらとしてもありがたい。『これ以上詮索すると嫌われる』とか『まだ距離感を測りきれてない』っていうのは、魔女たちにとって気をつけておかなきゃいけないことだろう。俺の好感度を稼ぐことを考えているなら、これ以上『昨日のこと』について聞かれる心配はあるまい。
よし、この流れに乗って今のところは一時退散だ。この空気感のまま4人と食卓を囲んでいても良いことはないだろうからな。
「じ、じゃあ俺はそろそろ部屋に戻るね! 沙耶! 今日も朝飯美味かったよ! ごちそうさまでした!」
「うふふ、よかった。お口に合ったみたいで何よりです」
よし、飯を作ってくれた沙耶にも一言かけたことだし、さっさと部屋に戻るとしよう。
と、考えた俺は席を立って階段の方へと向かおうとしたのだが……
「そ、その……なんかごめんね、岩崎っち。別に悪気があったわけじゃないんだ」
「岩崎さん、ごめんなさいです。どうしてもリサと岩崎さんの関係が気になっちゃったんです」
先ほど『昨夜のこと』について俺に尋ねてきた2人が、心の底から申し訳なさそうな顔を浮かべながら俺を見上げてきた。
そんな顔をされると弱る。澄んだ目で上目遣いなんかされたら、2人とも魔女だって疑いづらくなる。どっちも信じたくなっちまうじゃねぇかよ。
「ごめんね、岩崎っち……」
「ごめんなさいです……」
「い、いや、別に謝らなくてもいいって! 意味深な言い方をした俺も悪かったからさ! リサと俺の間に何があったのか気になるのは仕方ないことだよ!」
「じ、じゃあ許してくれる?」
「許してくれるですか?」
「そもそも2人は謝らなくてもいいし、俺も怒ってるわけじゃないんだ。2人とも大事なシェアハウス仲間だからね。これから仲良くやっていこう」
「……ふふ、岩崎っちって優しいんだね」
「はい、優しいです!!」
2人の笑顔が眩しい。これで少なくとも2人のうち1人が魔女なんて信じたくない。どんだけ演技上手いんだって話だ。
あー、チクショウ。やっぱ人を疑いながら生活するっていうのは最悪の気分だな。
「じ、じゃあ俺は部屋に戻るから。また昼飯の時会おう。まあ、なんか用事があったらいつでも部屋に来ていいからね。それじゃ、またね」
「うん! またね、岩崎っち!!」
「また後で、です!!」
そして2人のテンションが戻ったことを確認した俺は食卓を後にし、2階の自室へと向かった。
階段を上がり、そこそこ長い廊下を歩き終えてようやく自室前に到着。『ふぅ、やっと落ち着けるな』なんてことを思いつつ、俺は鍵を開けてドアをオープンしてみたのだが──
「お、おかえりー、邪魔してるぞー」
なんと部屋の中には俺のベッドを占領して漫画を読んでいるギャルが居た。
「あのー、リサさん? なんで俺の部屋で優雅に漫画を読んでるんですかね?」
部屋の入り口で立ち尽くしつつ、ギャルに問いかける。
「いやー、だって1人で部屋に居てもつまんねーし? そんで、昨日アンタの部屋に来た時に結構漫画あるなーって思ってさ。だから昨日みたいにちょちょいとピッキングして部屋に入れてもらって、漫画を拝借してたってわけ」
ガッツリ不法侵入じゃねぇか。
「はぁ。俺の漫画が読みたいなら普通に言ってくれれば貸すっつーの。あと気軽にピッキングするのやめてくんない? 一応犯罪だからね?」
「え、なに? 部屋ん中に見られたくない物でもあんの? あ、分かった! エロ本隠してんだろ!!」
「いいからさっさと自分の部屋に戻ってくれ。漫画は何冊でも持っていっていいからさ」
「えぇ〜、自分の部屋で1人ぃ〜? そんなの、寂しいぃ〜」
「いや、嘘つくんじゃねぇよ。お前はそういう台詞から1番かけ離れてるタイプの女だろ」
「えー、でもアタシがここに居ても何の問題も無くない?」
「んなわけあるか! そんなの問題だらけ……」
いや、待て。よくよく考えたら別に部屋にリサが居たところで大して問題は無いかもしれない。
他の4人と違ってコイツは既に魔女ということが分かっている。別に俺の近くに居たところで気を遣う必要なんか一切無い。むしろ部屋で1人で変に考え込むくらいなら、適度に話せるヤツが
うーん、しかし、タダで自分の部屋に居座らせるのもなんか
よし、ここは1つリサと交渉してみるとするか。
「おいリサ、お前はなんで
「え、だって1回アタシの部屋に戻ったらさ、借りた分を読み終わった時に続きをわざわざアンタの部屋までまた取りに来ないといけなくなるでしょ? それが面倒なんだよね。読み終える
いや『ドリンクバー取りに行く』みたいな感覚でピッキングしようとするのやめてくんない? 普通にノックしてくんない?
「つーか、え? リサって漫画の続きを取りに来るのが面倒だから俺の部屋に居座ってんの? マジで? そんだけの理由で?」
「ふふ、マジだよ」
なにわろとんねん。
「はぁ……まあ、分かったよ。じゃあ俺の部屋にこのまま居てもいいよ」
「え、マジ?」
「マジだ。ただしベッドの占有権は俺に譲ること。それともう1つ条件がある」
「ん? 条件……? ハッ! た、大河! まさかアンタ、この期に及んで『昨日の続き』をさせろとか言うつもりじゃないだろうな!?」
「いや、ちげぇよ! 俺もさすがにそこまで頭ン中ピンク色じゃねぇっつーの! 条件っつーのは『お前が俺の魔女探しに協力する』ってことだよ!!」
まったく、このギャルはどんだけ俺のことを変態だと思ってんだ。
「え? 魔女探しに協力? アタシが? え、なに? スパイ的なことをしろってこと?」
「いや、別にそこまでしなくても良いよ。ただ俺の相談とかに乗ってくれれば良いだけ。まあ端的に言うと、魔女側の味方をせずに俺の味方をしてほしいってだけだ」
女のリサは俺とは違った視点を持ってるだろうからな。魔女候補を絞っていく上で、自分と違った考えを持つやつと相談できるっていうのはそれだけで価値があることだ。本音を言うと敵味方をハッキリさせたいっていうのが、この交渉の1番の目的なんだが。
「で、どうだリサ? お前は魔女側の味方でもなければ俺の味方でもないんだろ? 今ここで『魔女側の味方をしない』って言ってくれれば、お前は好きな時に好きなだけ俺の部屋で漫画を読むことができるようになるんだ。そんなに悪い話ではないと思うんだが?」
まあ仮に交渉が決裂したところで、別に俺に大したダメージは無い。ここは気楽にリサの返事を待つとしよう。
「ふーん。アタシがアンタ側につけば部屋を自由に使わせてくれる、ね……ふふ、面白いじゃん。よし、その話乗った。そもそもアタシは他の魔女に味方するつもりは最初っから無かったからね。まあ、アンタの味方をするのも別に嫌ってわけじないよ。誰も信じられないっていうのはさすがにチョット可哀想だし」
「俺を可哀想だと思うならピッキングして部屋に入るのはやめてほしかったんだが……まあ、いい。とにかく交渉成立だな。つーわけで、これからよろしくな、相棒」
「……ふふ、なんだよ相棒って。変なのっ!」
「あ? なにニヤニヤしてんだよ。相棒は相棒だろ。これから魔女3人に立ち向かっていくんだから」
「ふふ、相棒ね……まあ悪くない響きじゃん」
そう言って微笑みながら体勢を整え直したリサ。その瞬間、脚を組んだ彼女のスカートの中に綺麗なピンクの三角形が形成されたのを俺は見逃さなかった。
「パンツ見えてるぞ」
「ごめん、やっぱアンタの相棒とかナシだわ」
こうして俺はパンチラギャルを仲間にすることに成功した。
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