第9話 雪女の正体

 翌日は前日とは打って変わってた晴天になった。太陽の光がまぶしく差し、雪に反射してキラキラ光っていた。


 二人は昨日目の前に現れた女のことが気になり、再び神社へ行ってみた。神社の鳥居をくぐり雪の中から女が現れたあたりに立って周囲を見回したが、何事もなかったかのようにしんと静まり返っている。陽ざしだけがまぶしく雪に反射していた。


「一体女はどこから現れたんだろう? 君が見た女は幻だったんだろうか?」

「絶対そんなことはないわ! だって私はどうしてあんなところに倒れていたの? 

誰かに連れられて移動したと疾患が得られない。 確かに廊下に二人で座っていたはずなんだから」

「不思議なことがあるものだなあ」


 そこへ神社の神主が、雪かきをするためにシャベルを手に持って鳥居をくぐり近寄ってきた。後ろには、杖をつきながら老婆が歩いてきた。神主は参道に積もっていた一メーター近くある雪をシャベルですくい横へ払いのけていった。


「ねえ、昨日の事を話してみようか。何かわかるかもしれない」


 ゆづきが俊にいった。こんな話信じてもらえるだろうか。勇気を出して俊は話してみた。


「ねえ神主さん、昨日突然吹雪に合いここに避難させてもらったんです。そしたら、雪の中から女の人の姿が現れたんです。悲しそうな顔をして、じっとこちらを見ていたので声を出そうとしたのですが、声を出すことも動くこともできなくなってしまいました」


 それを聞いていた老婆がゆっくりと、腰に手を当てながら歩いてきた。


「おやまあ、驚いた」


 ゆづきも話を続けた。


「私は知らないうちにその女の人の後をついて、石碑のところまで移動していたのです。しかも気が付いた時には、その前で倒れていました。それまでの事を全く覚えていないんです」


 老婆は再びにっこりとほほ笑み、俊の方を向いた。


「昔ね、江戸時代の終わりごろのことらしいんだけど、雪の降り始めた頃に他の土地からとても美しい女の人が来たそうだ。その人はここの土地の若者と恋仲になったのだが、その矢先男に庄屋様から縁談話が舞い込んできたそうだ。男はその縁談話に従ったそうだ。女は悲嘆にくれて自分の国に帰ろうと旅支度をし歩き始めたんだ。しかし出発したその晩猛吹雪に見舞われて、命を落としてしまったのだ。気の毒に思った村の人たちは、その娘の碑を神社の裏に作り供養したそうだ。お嬢ちゃんが倒れていたのは、その女の碑の前だったようだ」

「へえ、そうだったの。この神社は二人にとって何かいわれのある場所なんですか?」


「とっても大切な場所だ。ここはね、二人がいつも逢引きをしていた場所だったんだ。昔のことだから、お参りするのを口実に来ていたんだろう」


 老婆は二人を交互に見つめ、にっこり微笑んだ。


「数年後、男は吹雪の日にこの神社の境内でじっとうずくまっているところを発見された。眠るような顔をしていたのだが、もう息はなかったそうだ。なぜそんな日にここにいたのかは、誰にもわからなかったそうだ」

「とても、悲しい話ですね。切なくなります。聞かせてくれてありがとうございます、おばあさん」

「私も先代のおばあさんから聞いた話だ」


 雪かきをしていた神主は、老婆をたしなめるように言った。


「おい、ばあちゃん。その話はやたら人にするなって言っただろう。怖がって神社に来なくなっちまうじゃないか」

「はいはい、わかったよ。なんだか二人が困っていたようだから話したくなったんだ。それにあの女の亡霊を見てしまったようだから」


 再び、ゆづきと俊は雪の中に現れた哀れな女の碑のところへ行った。


「ゆづき、俺がゆづきに出会ったのは偶然じゃなかったのかもしれない。雪の精がゆづきをここへ連れてきたんだと思う」

「そうね、そして俊は私にとってここで最初にできた友達。大切な人」


「離れてしまうことがあっても、またいつか会える。この人に誓うよ」

「必ず会えるから」


 俊は、石碑に手を置いた。その手の上にゆづきの手が重なった。


 真っ白な粉雪が木々の間からさらさらと舞い落ち、それが光の帯となってあたりを照らした。大切なものは絶対に離してはならないのだと、石碑が語りかけているようだった。

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初雪と転校生 東雲まいか @anzu-ice

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