和菓子研究部の日常
来栖 奏
下準備 オモイデ
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「よろしくね、輝っ!」
風月 暦が彼、霜月 輝と初めて会ったのは、暦が自分の料理とそれに対する評価に納得がいかずちょっとしたスランプ状態に陥っていた時であった。
その日は最近元気のない暦を元気付けるべく、良かれと思って暦の兄が勝手に申し込んだコンテストの日であった。
結果的にその兄の行為は逆効果であったのだが、思いがけない出会いがあったため、余計なお世話と思いつつ、感謝していなくもない。
、、、、、で、そのコンテストの結果なのだが。
暦は、当然のように金賞であった。
スランプ状態の暦がどうして当然のように金賞など取れるのか。
、、、、とても引っかかるところだとは思うが、実際はなんて事ない理由てある。
暦のスランプは、技術的な問題ではなく気持ちによるものであったから、だ。
もともと才能のある人間が努力に努力を重ねて来たのだからその結果も当然と言えば当然だった。
言っておくが、別に自惚れている訳ではない。
才能のある人間が才能のない人間に対し"私よりもあなたの方が、"と言われる方がよっぽど頭に来ないか?
___________っと思っての発言である。
、、、話を戻そう。
暦は別に技術が劣っている訳ではないと言ったな。
では何故今暦はスランプ状態にあるのか。
説明すると長くなるので、まぁ手短に。
原因は周囲の反応にあった。
周囲の反応。
それは、家族に限らず、だ。
むしろ赤の他人の方が大半かもしれない。
暦には、自分で無意識のうちに作っていたルールがあった。
______自分の状態が完璧でない時は他人に料理を振る舞わない。
自分がイライラしている時に作った料理など、味に迷いが生じて美味しい筈がない。
そう考えていた暦は、基本的にそういう時は料理を誰かに振る舞う事を避けていた。
しかし、一度だけどうしてもと頼まれて中途半端な気持ちで料理を出したことがあった。
それが、どうしたことか。
その人の反応は以前と変わらず、今まで作った料理に対する時の反応と全く同じだったのだ。
その後も気になって、適当に作ったものを度々人に出してみた。
やはり反応は変わらず。
その時、暦は思ってしまった。
"今まで褒められていたのは私の料理の腕ではなく、レシピの方だったんだ"と。
レシピのさえあれば、皆私と同じ物を作ることができるし、レシピがなければ私は他の人と同等なのだ、と。
以降、何度大会やコンテストで一位の座をとっても、暦の心が満たされることはなかった。
、、、そんな時であった。
暦は兄がお節介で申し込んだコンテストで、霜月輝との出会いを果たすこととなった。
その出会いは唐突で、あまりロマンチックな物ではなかったけれど。
けれど、暦は確かにその時の出会いに救われた。
「ねぇ、君が風月暦?」
コンテスト終了後、ひとりベンチに座っていると、男の子に声をかけられた。
「そうだけど、何?」
放っておいて欲しかった暦は、やや強い口調で言う。
「いや、あんな酷い物出す奴ってどんなかなーって思ってね、」
一方で、男の子は明るい口調で返した。
「_________酷い?」
しかし、暦は口調よりも内容が気になった。
、、、、、、今、確かに酷い物、と聞こえた。
「うん。もー最悪だよ。
作り手に心を感じないし、機械が作ってるの?って感じ。」
聞き間違いではないらしい。
そのまま男の子は変わらず笑顔で話す。
それはもう凄い勢いで。
「何、文句言いにわざわざ来たの?」
「いーや、ちょっと違う。
最悪の品に負けた僕の品は最悪以下。
次は絶対君に勝つから、勝ち逃げとかしないでねって言いに来た。」
、、、この子も参加者だったのか。
「________何でわざわざ?」
にしても、ライバルなどたくさんいるだろうし。
それにわざわざ出向いてくれなくったって辞める気はない。
「えー、そう?
でも言わないと辞めちゃいそうな雰囲気だったからさ、君」
辞める気なんて、ない。
一体何の冗談だ、やめて欲しい。
「有り得ない。
やめる訳ないじゃない、今面白くなったところなんだから、」
初めてだったのだ。
酷いとはっきり言われたのは。
それがライバルだときているのに、辞めるなど考えられない。
「僕は霜月輝、」
!!
確か、銀賞の人がそんな名前だった。
この男の子がそうだったのか、、、、。
「よろしくね、輝っ!」
初めて酷いと言われたというのに、当時暦は初めて認められた様に感じていた。
何故か分からないけれど、きっとそのせいなのだろう。
___________あの時ほど、気分が晴れやかだったことはない。
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和菓子研究部の日常 来栖 奏 @makaron66
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