龍門館の慎之介・幻の手裏剣
近衛源二郎
第1話 慎之介だけど何か
人口170万人というと、けっこうな大都市。
観光客は、年間に5000万人を越える。
世界最大級の観光都市である。
鳴くよウグイスと、桓武天皇によって遷都されて1200年の昔、日本の首都だった都。
平安京。
平安時代には、様々な謀略が廻らされ。
藤原種継暗殺事件に連座させられた早良親王の憤死等、様々などろどろした事件が多く、日本三大怨霊と呼ばれる崇徳天皇・菅原道真・平将門も平安時代の人物。
保元の乱等、皇室貴族の内乱権力闘争により、安定したとは言い難い時代。
怨霊と魑魅魍魎の暗躍によって度々燃え上がっても立ち上がってきた街衆。
そんな京都の街中。
今出川通りより南に向かう寺町通りの六角通りを数件越えた辺り、服部家。
腕白小僧の慎之介。
ガキ大将という感じではない。
というより、似合わない。
芯は強いが、気は優しくて力持ち。
というようなタイプでもない。
しかし、片時もじっとしていない。
活発なのは間違いない。
寺町通りも、御池通りから南の四条通りまでは繁華街ということもあることから、アーケードになっている。
そのアーケードの下を、短めのスカートをヒラヒラさせながら、猛スピードで走ってくる女の子。
短めのスカートに茶色のブレザーは、学校の制服。
慎之介と隣に並んだノッポの男の子は緑系タータンチェックの半ズボンに、女の子と同じ茶色のブレザー。
『まったくよぉ・・・
また寝坊したんか、雅。』
ノッポの男の子が、女の子に怒ったように言う。
ノッポの男の子。
桑原歳三。
走ってくる女の子。
望月雅。
3人は、幼なじみの同級生。
慎之介が、アーケードの柱に近づいて、柱に取り付けられた梯子に左手をかけ、ぐいっと引っ張ると、慎之介の身体は軽々とアーケードの上に飛び上がった。
歳三と雅も後から着いてきた。
アーケードの上に飛び上がった3人。
近くに建てられているテントのようなものに入って行く。
虹のような景色が流れ、湖の畔の草原に出た。
目の前には、天守閣が聳えている。
3人の周りには、同じ制服姿の少年少女が多数。
そして、子供達は城門に入って行く。
この城は、忍者の子供達が忍術を学ぶために通う学校。
龍門館道場という。
城門では、すでに遅刻管理の先生が出ている。
『こーらー・・・
そこの3人・・・
また、こんなギリギリか。』
ひげ面の六角佐善先生が怒鳴ってくる。
『くぉ~ら~・・・
慎之介~・・・。』
毎朝追い掛けっこになっているようなもの・・・
『これこれ・・・
六角先生・・・
一年生にそこまで厳しく。』
六角佐善を静かにたしなめた白髪白髭の老人・・・
『おはようございます。
校長先生・・・
他の2人は、いいのです。
慎之介は・・・。』
白髪白髭の老人、戸澤白雲斎。
龍門館道場の現校長で、実は、慎之介の母親の父。
つまり、祖父である。
白雲斎、慎之介が可愛くて仕方がない。
『慎之介は、一流ではダメな
のです。
超一流に育ててほしいと。』
『半蔵から頼まれた。
んじゃな。』
途中で、白雲斎が話しを遮った。
慎之介達が天守に入ったので、話しを終わらせた。
六角佐善先生は、慎之介の父服部半蔵とは、竹馬の友である。
慎之介が産まれた時に、雨が降っているにもかかわらず、東の空に明けの明星が輝いたのだという。
本来、雨空で、星が見えることはあり得ないのだが。
『たしかに、大変なことじゃ
がのぉ・・・。
まだ幼い子供じゃから。』
白雲斎は、まだまだ腕白小僧の慎之介でいてもらいたい。
慎之介の父、服部半蔵。
伊賀忍者を束ねる頭領である。
『その昔、戦国の世に。
一度だけ、星の奇跡があ
った。
戦国最強、いや日本の忍者
史上最強の忍者。
霧隠才蔵が産まれた時と
同じ。』
という。
400年も昔の伝説でしかない話しなのだが。
六角佐善にしてみれば、服部半蔵という名前も、大きな名前である。
現在の皇居にその名が残るほどの貢献を徳川将軍家に対して行った、戦国最後の英雄。
明智光秀による本能寺の変で、日本が再び乱れかねないその日、織田信長の依頼により、大阪にいた徳川家康が、徳川の領地、三河・駿河に帰る道を切り開いたとされる。
徳川幕府にとって、江戸城にその名を残すほどの貢献をした英雄の子孫なのだ。
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