第2話 ガマガマガマ

ある日、慎之介達3人は、天守閣裏にある龍神池という湖の周りを散歩していた。

湖といっても、周囲5km程度の小さなものだが、深いことから、定義に照らすと湖になる。

水深は、軽く100メートルを越えると思われる。

したがって、湖底に、どんな生き物が潜んでいるのか謎が多い。

湖の畔の広場で、異常に大きいガマガエルを慎之介が捕まえた。

仔犬ほどもありそうなガマガエルに、仔犬用のハーネスを着けて、大切に可愛がっている。

数ヶ月後、カエルは慎之介を乗せられそうなほど成長した。

カエルを湖で泳がせている間、腰をかけてカエルが浮かんでくるのを待っている慎之介のもとに、ガマが何かを咥えて帰ってきた。

『どうしたガマ介。』

慎之介は、このガマガエルにガマ介と名付けて、寝食を共にするほど可愛がっている。

ガマ介が咥えていた物は、七色に色を変化させることができる手裏剣であった。

城に戻って六角佐善先生に見せると、先生はあわてて白雲斎を呼び、手助けを頼んだ。

『校長先生・・・

 大変な物が見つかってしま

 いましたね。

 これは、まさしく。

 幻の湖底手裏剣。

 そうか、ガマガエルが。

 しかし、ガマガエルがそん

 な深く潜るとは。』

何かを考えていた戸澤白雲斎。

何を思ったのか、虚空に向かって呼びかけた。

『聞いての通りだ。

 出ておいで慎之介。』

壁際に、白い煙が立ち上がって、ガマ介に跨がった慎之介が現れた。

口に巻物を咥えている。

六角佐善は、教授でありながら驚いた。

慎之介は、まだ年端も行かぬ1年生。

虚空に姿を隠す術を使えるとは思ってもみなかった。

慎之介、虚空に身を潜めていたのではなく、実は龍神池の畔で待っていたのだが、白雲斎に呼ばれたので移動したのだ。

六角佐善が、気配を感じなかったのももっともで、いなかったのだから当たり前。

慎之介は、白雲斎の呼び出しに応じて移動してきただけである。

しかし、遁術ではなかった。

実は、この方がおおごとであるのだが。

六角佐善、不覚にも気づいていなかった。

この時、慎之介は、あまりに多くの奇跡的なことをやっていたため、わけがわからなくなってしまったのだ。

『佐善よ・・・

 儂と慎之介は、意識交信し

 ていたのだが。

 気づいておらんな。

 しかも、慎之介は瞬間移動

 までやってのけよった。』

そこまで言われて、はじめて六角佐善は、あらためて驚いた。

意識交信、つまり、テレパシーである。

瞬間移動は、テレポテーションである。

忍術ではなく、超能力とか魔法と呼ばれる世界である。

忍術は、あくまでも、人間技である。

つまり、慎之介は魔法使い、又は超能力者ということになる。

霧隠才蔵が、そうだったという言い伝えであるので。

慎之介は、霧隠才蔵の生まれ変わりと言われ始めた。

この話しは、京都の服部半蔵に伝わった。

『お頭・・・

 幻の湖底手裏剣が出たと。

 ほんで、見つけた子が。

 意識交信と瞬間移動した

 とか。

 えらいこっちゃなぁ・・・

 霧隠の再来か。』

駆け込んで騒いでいるのは、望月五助、雅の父親である。

服部半蔵の隣の丸椅子には、すでに桑原歳三の父親俊彦。

2人の前に、鴉と呼ばれる伝令係が報告の真っ最中。

『おぅ・・・

 五助・・・

 今、その伝令を聞いてる。

 けど、ホンマにえらいこっ

 ちゃなぁ・・・。』

まだ、真相を聞く前なので、3人とも余裕綽々。

『実は、その・・・

 やったのは、若君でして。

 白雲斎様のお話しでは。

 念動力も、お使いになられ

 るとのこと。

 慎之介様は、すでに霧隠と

 しての能力を身につけてお

 られるそうです。』

3人の父親は、丸椅子から落ちそうなほど、驚いた。

『さすがは、我が息子。』

半蔵は、鼻高々。

五助も、手を叩いて喜んでいる。

『よぅ頑張ったなぁ慎之介。』

桑原俊彦が、空に向かって不用意に誉め言葉を言った。

次の瞬間、壁際に白煙がボワっと上がって、ガマ介に跨がった慎之介が、巻物を咥えて現れた。

『ありがとう、おっちゃん。』

驚いたのは俊彦。

『儂は、テレパシーなんて使

 えねぇぞ。』

『関係ないよ、おっちゃん。

 心で呟いたら聞こえる。

 伝令の鴉さんが、繋いでく

 れるから。』

これには、鴉が驚いた。

『若君様・・・

 私には、そのような凄い能

 力はありませんが。』

『良いの良いの・・・

 鴉さんの思考に、僕が勝手

 にアクセスしたんだから。

 校長先生から、鴉さんが伝

 令に走ってくれたって聞い

 てから、アクセスして。』

それこそ、とんでもない話しでだった。

慎之介が知っている相手なら、誰彼なく意識にアクセスできるという。

その昔、戦国時代にその能力があって、敵の大将の意識にアクセスすれば、先回りして作戦が立てられる。そんなことになれば、連戦連勝間違いない。

霧隠才蔵が、戦国最強となったのも理解できる。

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