第4話 羽黒忍者月山一族
鴉天狗と慎之介がやり取りしていても戸澤白雲斎は気にも止めない。
白雲斎だけでなく、白雲斎の側近までもが知らんぷり。
鴉天狗、本名を都籠源之丞という。
れっきとした、出羽羽黒山忍軍の正式な使者として来ている。
『拙者・・・
月山宗幸様の使者として、
霧隠慎之介様に、我が若君様
にお会いいただきます様、
お迎えに参上しました。』
戸澤白雲斎、元々知っていた節がある。
慎之介、行く気になっている。
横にいた雅に。
『オヤジに言っといてくれ。
オイラが、羽黒山に行った
って。』
そんな簡単な距離ではない。
しかし、慎之介、屁とも思っていなかった。
『んじゃ都籠殿。
案内願えますか。』
と幻の湖底手裏剣を口に咥えた。
するするっとガマ介が現れて、慎之介が跨がると同時に、天空高く飛び上がった。
雲の帯を残して、猛スピードで飛んでいってしまった。
鴉天狗こと都籠源之丞ですら着いていくのがやっとの速度。
音速をはるかに越えて飛んでいる。
生身の人間ができる技ではない。
出羽羽黒山の神社脇に建っている月山館の庭に、突然降ってきた慎之介に館は大騒ぎになっている。
中心の立派な神主服の若君に慎之介はお辞儀をした。
他の者は、皆、山伏の装束を纏っているので、一目でそれとわかる。
『月山宗幸様とお見受けいた
します。
拙者、伊賀の服部半蔵が
一子。
霧隠慎之介でございます。
都籠源之丞殿のお招きに
従い、京より飛んで参りま
した。』
鴉天狗の源之丞、ようやく追い付いて、ハーハーゼーゼー。
『冗談ではありませんぞ。
慎之介様。
なんという速さで飛ぶので
すか。』
月山宗幸が源之丞を見て。
『源之丞・・・
大義であった。
しかし、その方より速い
とは。』
都籠源之丞は、出羽羽黒忍軍随一の飛行速度を誇っている。
『慎之介様は、巨大なガマガ
エルに乗って飛ばれますが。
あのガマガエルに何かある
とお見受けしました。』
鴉の飛行服をかたずけた源之丞が慎之介に問いかけた。
『あれは、ガマ介と言いま
して。
普段はガマガエルの姿をし
ておりますが、実は皇龍の
化身なのですよ。
私の命令で、龍神にも戻り
ます。』
説明を聞いていた月山宗幸と都籠源之丞以下出羽羽黒忍軍の忍者達は、ひれ伏してしまった。
忍者にとって、龍神は絶対的な信仰の神であり、その龍神を操っていると聞いて、慎之介の位を体感した。
月山宗幸は、家臣になろうとしたが、慎之介は断った。
『家臣など滅相もない。
友人になって下さいませ
んか。』
慎之介にしてみれば、家臣は伊賀忍者である。
この立場は、生まれながらの立場であるので、仕方がない。
それだけでも、10万人を越えている。
そこに、つい数日前に、望月雅との婚約が整った。
望月家は甲賀忍者の筆頭。
家臣8万人。
それと、戸澤白雲斎と父服部半蔵が頼まれて承諾した。根来衆と雑賀一族と柳生の合わせて3万人が加わったばかり。
すでに20万人を越える巨大忍者軍団になってしまっている。
同盟できればありがたいということである。
月山宗幸からすれば、戸澤白雲斎と服部半蔵という日本を代表する2人の伝説的忍者がついているとはいえ、幼くして20万人の忍者を束ねる大頭領である。
慎之介に付き従うのは、かなりの得策である。
そして、その軍門に繋がることを画策する忍者がもう1人いるという。
『拙者が、今からご案内致し
たいところです。
拙者自身も、しばらく先方
と会えておりません。
しかし、拙者は空を飛べま
せんので。』
それを聞いた慎之介が、障子を開けると、羽衣をひざの前に折り畳んだ美しい少女がひれ伏していた。
『月山宗幸様・・・
お初にお目にかかります。
私、霧隠慎之介の妻、雅と
申します。
旦那様、お祖父様より旦那
様に渡すのをお忘れになっ
た物をお届けするように申
しつかりました。』
戸澤白雲斎、慎之介が出発する時に渡す物を渡し忘れて、雅に届けさせた。
『おいおい雅・・
妻って、気が早い。
その羽衣は、俺じゃなくて
お前の物だよ。』
慎之介は、笑顔で幻の湖底手裏剣を咥えると、印を結んだ。
すると、出羽羽黒山月山館から巨大な虹が立ち上った。
そして、雅の羽衣が美しい馬車に変わり、ガマ介が、天馬ペガサスを連れてきた。
『さぁ宗幸殿・・・
天空を駆ける馬車です。
遠慮なく、乗って下さい。』
月山宗幸と都籠源之丞、出羽羽黒山忍者の面々は、呆気にとられている。
月山宗幸と都籠源之丞が、馬車に乗り込み、慎之介と雅は馭者席に座った。
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