第5話 富士の樹海の奥深く

天空を駆ける馬車は、慎之介がペガサスを操って、客席に月山宗幸と都籠源之丞が乗っていて、慎之介の横には雅が乗っている。

その状態で、富士山麓の樹海の奥深くに隠れた館の庭に向かって飛んでいる。

ガマ介の能力の高さには、慎之介が一番驚いている。

『ところでさあガマ介・・・

 あのペガサスって、いつも

 龍神池で見かける子馬だ

 よな。』

知らない者が見たら、慎之介の足元に佇んでいるガマガエルとしゃべっているとしか見えない。

『やはり気付いたか。

 青龍じゃよ。』

単なる馬車にしては、スピードが速い。

客席の宗幸と都籠源之丞は、目を白黒させている。

一方で、富士山麓樹海の奥深くに潜んでいる館では、甲州の武田配下の忍者が集まっている。

甲州忍者といえば、武田信玄の時代より戸澤白雲斎の配下であり、いわば伊賀とは親戚のような関係。

その甲州忍者館に、慎之介の虹が降りたから大騒ぎ。

『お頭・・・

 こんな大きな虹は、見たこ

 とがありません。

 いったい何なのでしょう。』

お頭と呼ばれて振り向いた少年。

慎之介と雅の幼なじみで親友。

桑原歳三である。

つい最近、風磨小太郎の名跡をついでいた。

『お頭・・・

 何かが、こちらに。

 何だあれは。

 羽がある馬が馬車を。』

歳三が馬車を見て笑った

『皆の者・・・

 安心して良いぞ。

 我ら日本忍者の御大将じゃ。

 霧隠慎之介と雅。

 客車には誰が。

 月山宗幸殿と都籠源之丞。

 何にしても最強の味方。

 安心して良い。』

慎之介達が風磨館の庭に降りた。

『何だ、歳三。』

『あれ、歳君。』

『おう、慎之介・雅。

 元気か。』

『バカ野郎・・・

 昨日、龍神池でいっしょに

 遊んでたじゃん。』

馬車から降りた月山宗幸と都籠源之丞は、きょとんとするしかない。

『宗幸殿、ようこそ風磨館へ。

 慎之介と雅は、幼なじみの

 仲間で。

 いつも、この3人に三雲楓

 というくノ一が加わって遊

 んでいるのです。』

『小太郎殿・・・

 ご無沙汰してました。

 そうでしたか。

 幼なじみの間柄で。』

月山宗幸と都籠源之丞は、不要の労力を使っただけになった。

『まぁ、良いではありませ

 んか。

 ここに、日本忍者の最高峰

 の連中が集い、結束する。

 ということで。』

歳三は、あっけらかんとしている。

『歳さん・・・

 お茶が入りましたよ。

 あらっ・・・

 慎ちゃんと雅ちゃん。

 それにお客様。』

三雲楓が、割烹着姿で現れたものだから、雅が冷やかしにかかった。

『楓ちゃん・・・

 しっかり女将さんだね。

 よっ・・若奥様。』

楓は、真っ赤になってはにかんだ。

『楓・・・

 出羽羽黒山の月山宗幸殿と

 家老の都籠源之丞殿だよ。』

『それは失礼を。

 いつも主人がお世話になっ

 ております。』

まだ、祝言は上げていないが、楓も雅も、すでに奥方として務めている。

『あらっ・・・

 あの馬。ペガサス。』

今さらながらに、楓が嬉しそうに言う。

ペガサスが、煙と共にガマガエルに戻った。

『あら・・・

 ガマ介のお仲間。

 少し小さいわね。』

青龍のガマは、ガマ介の口に隠れてしまった。

『ガマ介の子供なの、』

いよいよ楓は、意味不明に陥った。

『違うよ・・・

 ガマ介配下の青龍だ。

 馬車を牽くのに、ペガサス

 に化けてただけ。』

月山宗幸と都籠源之丞は、ようやく、ペガサス馬車の速度の理由を理解できた。

それと同時に、慎之介の力の大きさに、あらためて驚いた。

月山宗幸と都籠源之丞・慎之介と雅・歳三と楓の6人。

富士山麓樹海の風磨館で、しばしのお茶休憩と談笑。

龍門館に向かうこととなった。

ガマ介が、先程の馬車とペガサスを用意して、歳三と楓と宗幸と源之丞の4人は客車に乗り込み、馭者席に慎之介と雅。

慎之介の足元に、ガマ介がうずくまった。

客車の4人には、先程の虹と同じに見える虹だが、慎之介はかまわず駆け上がって行く。

ペガサスは、先程より一回り大きくなったような気がする宗幸。

『のぅ、源之丞・・・

 ペガサスが、先程より大き

 くないか。』

『若殿も、そう思われますか。

 私の見間違いかと思っており

 ました。』

等と話しているうちに、虹は下がり始めていた。

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