第6話 晩餐会
馬車の路線となった虹が降りたのは、龍神池の砂浜横の公園。
芝生が広々として、すぐ横に漆黒の天守閣が聳えている。
天守閣から、白い大きなゴンドラが下りて来た。
『爺ちゃん、手抜きだ。』
慎之介は呆れ顔だが、雅はお構い無しで、ゴンドラに乗り込んだ。
ゲートを開けて、皆を招き入れる。
『皆様、どうぞこちらにお乗
りください。
慎ちゃんは、飛ぶんでし
ょう。』
見抜かれている。
どこの家庭でも、ご主人の思考等は、奥方様にはバレバレなものだが、慎之介と雅の場合、生後数ヶ月からいつもいっしょに育ってきたのだから、なおさらだ。
慎之介は、いわゆる垂直跳びの要領で、両足で地面を蹴った。
フワッと浮き上がった慎之介は、天守閣の最上階の外回廊にまで飛び上がってしまった。
もちろん、人間技ではない。
忍術でもない。
陰陽術の武空である。
龍門館の天守外回廊は、五層の最上階で、約38メートル。
西洋では、魔法と呼ばれる術である。
ただ、慎之介の場合、箒もマントも必要としない。
本当なら、芝生公園から5メートル程度の天守閣玄関前で良かったのだが。
慎之介は、五層目から、駆け下りて来る。
飛び上がったのだから、飛び下りれば良いと雅は思うのだが。
慎之介には、ある企てがあった。
天守閣2階にある大広間に用意されている晩餐会の料理を覗きに寄ったのだ。
食いしん坊ではあるが、つまみ食いするほど意地汚くはない。
ましてや、月山宗幸と都籠源之丞をもてなすための料理。
イタズラ等、絶対にできない。
イタズラ好きを自負する慎之介だが、自分の客である宗幸と源之丞に対するマナーは守っている。
それにしても、宴会場となる大広間の広さはいつ入っても呆れるほど広い。
畳600畳。
よほど大人数の晩餐会でもない限り、使えない。
『まったく、何でこんな部屋を。』
慎之介は、祖父戸澤白雲斎の気持ちがわからない。
月山宗幸と都籠源之丞をもてなすだけにしては、準備が大袈裟過ぎる。
通りかかった係員に問い質した。
『今日は、桑原歳三様の風磨小太郎名跡襲名と、あなた様と雅様の祝言もご披露するとお聞きしました。』
冗談ではない。
もちろん、雅を妻にすることは、自分が希望したことだが。
いくらなんでも早いと思った。
せめて、後2年、待っても良かったのだが。
雅の父親が、事を急いだようだ。
だが、慎之介は、自分自身をまだまだ子供だと思っている。
雅を妻として、守って行けるほどの力が身に付いたのかが自信がない。
周りからすれば、忍術はどんどん体得し、陰陽術や幻術・妖術の類いまで使い始めているのである。
立派な、日本忍軍の総大将になっている。
慎之介本人が、自分自身を一番過少評価している。
天守閣玄関に、慌てて走った慎之介は、皆に合流した。
龍門館の慎之介・幻の手裏剣 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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