第17話  プチ飲み会

次の日。仕事に行く前に掲示板を見てみた。すると書き込みがあった。昨日の先輩の投稿まで戻る。

最初に書いてあった投稿はほかのフロアの同期だった。”ほかのフロアはそんなに殺伐とはしていませんね。昼食なども一緒に取っている人もいますし、一人でとっている人もいますが、仲の良い人がいないというわけではなく、単に一人で過ごしたい人で、フロアの飲み会なども定期的に開催されています。”

飲み会・・・。した覚えがないな。新しい人が来たらするものと思っていたが、ただ単に飲み会というものをする習慣がなかっただけか。

"うちのフロアなんて仕事がほとんど会話で成り立っています。常に誰かとしゃべりながら進めている感じです。仕事内容にもよると思いますが、ここはよく話します。お互いの家庭事情も知っていますし、家族同士で仲がいいところもあります。"

フロアによって色もバラバラなのか。確かにしている仕事によっても、社員同士の距離は違ってくるとは思う。

その下に書いてああったのは社長だった。

"仕事上、仲良しこよしも困りますが、あまりにも公私がはっきり分かれているのも、逆に仕事がしづらくなるのではないかとも思いますが、現場はどうなのでしょうか?今のところそのフロアは売り上げは悪くはないです。"

売り上げは悪くないのか。なら、このままでもいい気はするが・・・。

そんなふうに思いながら下の投稿を見てみると

"ですが、そこまで良くもないです笑。なので、もしかしたら売り上げ向上の打開策はそこかもしれませんね。"

なるほど。さらに下の投稿には、

"切磋琢磨はしていましたが、お互いの情報交換はほとんどありませんでしたね。確かに打開策となるかもしれませんね。"

先輩のようだ。

打開策、か。

"なるほど、ありがとうございます。売り上げに関しても、悪くはないけれども、良くもないとのことで、上げていかなければ会社として生き残れなくなるので、ここに重点を置いて取り組んでいきます。"と書こうとしたところですべて消した。

具体的に行動が思いつかないのだ。いや、正しくは自分なんかが同声をかkれ葉仲良くなるのかよくわからなかった。そもそも約半年間いて、やっとしゃべれるようになったのが教育係と、中途だけだ。同じフロアの人に関して言えば教育係以外はいない。そんな状態でいきなりみんなに「さぁみなさん!飲み会に行きましょう!」「お互いのことを知るましょう!」「もっと会話を増やしましょう!」といったところで、何言っているんだあいつは。という目線を向けられるに決まっている。一番なじめていないのは自分だとよくわかっている。

帰ってから書こう。にしてもみんな積極的だな。本当にどうして自分なんかを選んだんだろう。完全に人選ミスだ。もう少し様子を見てから、どうしても難しそうなら辞退も考えよう。

通勤バックを取り、会社に向かう。

職場に行くと、なぜか中途がいた。何事か教育係と話しているようだった。横を通り過ぎようとすると中途に声をかけられた。

「ああちょっと!今日夜時間ありますか?」

「はい。ありますけど・・・。」

「それはよかった。今日このフロアのみんなでプチ飲み会でもしようと話をしていましてね、ここで仕事が終わった後にしようという話になったんです。」

「ここでするんですか?やって大丈夫なんでしょうか?」

「社長にも許可は取ってあるから問題ありませんよ。まぁ軽いものなので1~2時間くらいでお開きにするつもりです。買い出しなどもあるので、手伝ってもらえますか?」

他の人と比べると自分の仕事はほかの人よりも早く終わるので適任だろう。

「わかりました。」

「それじゃみんなに通達お願いしますね。急なので無理に参加はしなくていいですが、なるべく皆さんと話してみたいので、多くの方が残ってくれるとうれしいですね。」と教育係にお願いして中途は去っていった。

すごいな。と思った。昨日の今日でここまで話が進んでいるとは。

自分がこういうのが苦手だということが分かったいたからこそ、先手を打って動いてくれたのだろう。ありがたい。

朝のミーテイングの時に教育係から今日のプチ飲み会についての案内がされた。自由参加なので、仕事が終わったらこのフロアに残るようにと伝えた。みんなそんなに乗り気ではなかったが、中途が参加し、みんなと話したいと言っていたということを伝えると、それなら・・・という人が多かった。数時間後、仕事を終え中途と待ち合わせをして買い出しに行く。といっても缶ビールや缶酎ハイ、ペットボトルの飲み物を数本買い込んだ。つまみはポテトチップスや、スナック菓子、チョコレート菓子やナッツなど、軽めのものを買い込んだ。あと皿やコップも。

会社に帰る途中、中途に感謝を伝えた。

「こういった飲み会を開催してくださってありがとうございます。」

「いえいえい。私も皆さんと早く親交を深めたいと思っていたので。配属されてすぐ皆さんと一緒には働かなかったので。皆さん参加してくださるといいですね。」

確かに。ちょっと心配だ。

会社に戻ってみると、ほとんどの人が残っていた。なんだかうれしい。

「みなさん待たせしました。さぁ。お好きな飲み物を持ってください。」

中途がみんなに声をかける。思い思いにコップに飲み物を注いでいく。準備ができたところでまた中途が声をかける。

「皆様、お忙しい中わざわざ時間を作って御凝っていただき、ありがとうございます。短い時間ではありますが、皆様とお話しできることを楽しみたいと思います。それと・・・。」

そういって中途がこちらに向かってきた。

「最近入ってきたこの方に乾杯!」

急にみんなの視線が集まってびっくりしたが、すぐみんなの視線はつまみに向かった。お互い最初は少しぎくしゃくしていたが、だんだん近くの人と会話を楽しむようになっていた。中途はというと、色んな人に話をかけ、一対一というよりは複数人対中途のような状態で話している。人を巻き込むのが上手なんだなぁと思った。「本日の主人公、飲んでる?」

ふいに声をかけられた。教育係だった。

「はい。少しずつですが。」

「たくさん飲まなきゃ。どうやら今回はあの人もちらしいから。」

中途が今回の飲み代は出しているそうだ。至れり尽くせり。

その後も何人かと会話をすることができた。このフロアの人たちは人見知りな人が多かっただけのようだ。

プチ飲み会はお開きになり、各々片づけて帰りの支度をする。準備した手前、後片付けもしなければと思い、後片付けを行う。とは言ってもみんながそれぞれ片づけてくれていたのでほとんどやることはなかった。ゴミ出しだけ行い、帰ろうとすると中途に声をかけられた。

「お疲れ様。最後まで片付けありがとうございます。」

「いえいえ!こちらこそありがとうございます。こんなに早い段階でみんなと親交を深められることができるとは思っていなかったので・・・。あと、飲み会代?も出していただいて・・・。自分なんかがこうやって声をかけたとしてもきっとうまくいかなかったと思います。」

「いいんですよ。私も皆さんと話してみたかったですし。それにこういったことが必要だと気づいたのはあなたです。改善点があればすぐに対応するのも我々の仕事ですからね。」

行動力がすごい。

「そうだ。お手伝いしたお礼に、お願い聞いてくれますか?」

「いい、ですけど、私にできることでしょうか?」

「この後飲み直しませんか?近くに美味しい店があるんですよ。この後空いてますよね?」

「はい。空いてますけど・・・。」

朝、空いてると伝えてしまったことを思い出す。特に用事があったわけではないが、なんとなくやな感じがした。

「それではご案内します!こっちです。今日の分は私の奢りですから安心してください。」

この人は自分と違って人との距離が近いな。

そう思いながら酒屋へ引っ張られて行った。

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