第16話  観察

さて。どうするか。

自身のフロアに戻り、自分の持ち場に戻るまでの間、ほんの少しの距離だが、みんなの様子を見てみる。

それぞれがそれぞれの仕事をしている。話をしていても、手短に済ませており、談笑している人は見かけない。

自分の持ち場に戻りいつも通り仕事をする。少しイレギュラーなことがあっても対応できるくらいのスキルは持てるようになった。

また、そのおかげで少し周りを見る余裕もできていた。

中途はもしかしてこれも狙っていたのか・・・?

そんなことを思いながら周りにも目を配りながら仕事をする。


 休憩時間になり、それぞれが思い思いに昼食の準備をし始める。

自身の持ち場でお弁当を食べるもの、社食に行くもの、外に買い出しに行くもの・・・。

しかし誰一人として誰かを誘って昼食をとりに行くものはいなかった。少なくともこのフロアを出るまでだが。

仲、悪いのか?

念のため帰ってきている様子も観察してみた。

やはり誰かと一緒に帰ってくるものはいない。他のフロアの人たちと食べてるのかもしれない。そもそも絶対誰かと食べなければいけないわけではないのだが、こうも揃いも揃って食べにいかないものだろうか。


若干の違和感を覚えながら、午後の仕事を始める。


今日一日しか観察できていないが、このフロアの人たちはもともと仲が悪い、とまでは言わないにしてもお互いの心のソーシャルディスタンスが広いように感じる。

業務としては滞りなく行われていると感じるが、人の熱をあまり感じない。

"仕事"面ではドライな付き合いでもいいのだろうが、どうなんだろうか?


疑問を持ちながら帰路に着く。


そういえばと思い、掲示板を開く。

書き込んでみるか。


"今日1日観察した結果なのですが、なんとなく社員同士の距離が遠いような気がします。仕事の進捗度としては全く問題ないと思うのですが、もう少し観察してみます。"


家事をあらかた済ませて掲示板を覗く。


すると何件か書き込みがされており、中身を見てみると、そのうちの一件が自分の書き込みに対してのようだった。

"社員同士の距離が遠いとは?どんな感じですか?"

中途の書き込みだ。

"他のフロアがどうなのかはわかりませんが、昼食を取るのも皆それぞれですし、仕事中も雑談などはほとんど聞かれず、聞こえる話し声は業務内容のみのようです。他のフロアもこんな感じなのでしょうか?"

この掲示板は社長も見ているらしく、結構な頻度で書き込みがされている。

過去に戻ってみて分かったことだが、どうやら自分みたいに最近この業務を頼まれた人と、以前頼まれていた人がいるようだ。

ここの掲示板の利用者はおそらく八名。

自分と、自分と同じ時期に任された二人、前任の三名、それに中途と社長。

掲示板は定期的にアドレス自体も変えられているようで、数年前のものですら残っていない。大体一年くらいで切り替えているようだ。前任の三名はアドバイザーのような立ち位置で、実際には動かないが、時々アドバイスをしているようだ。

そうこうしていると新たな書き込みがあった。

"そのフロアは以前からそういう感じで、あまり仲の良い感じではないですね。仲が悪いというわけではないのですが、プライベートでの関わりはほとんどないです。もともとそういう人たちが集まってるフロアなんだと思います。仕事はきっちりする人が多いですね。"

どうやら同じフロアにいた先輩のようだ。

そうなのか。以前からこんな感じなのか。みんながこのままでよければこのままでもいいのかもなと思う。

画面を見ていると目が乾燥して来た。睡魔が襲ってきたのだろう。今日はこの辺で、布団に潜り込む。

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