第2話

 どうして俺の目の前に川がある? 今、俺はトラックにぶつかるだろうと……。というより、公園の傍に川なんてあったか? ……ていうか、おわわわ! 危ねぇ! 足元がギリギリじゃねぇか! 腕をぐるぐる回すしか――。


 ドッボーン!


 ブハッ! ……お、俺は泳げないんだよ! ブクブク……、誰か、助けて! ……グワッ、やばい! い、息が! ……くそっ、どうにかして、……岸に、ブハッ、ハァッ、……上がらなきゃ! ……何とか、……はぁ、はぁ。なんとか、岸に上がれて助かった――。


 ……どうにかして、川から這い出たけど、これは一体? 夢か? 俺は夢の中にいるのか? だとすれば、川に落ちたってことは、俺はもしかしてトイレに行きたいのか? ……ということは早く目を覚まさないと。覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! ……覚めないな。


 ていうか、手が痛い。何だジャリジャリ音がするけど、……ああ、川岸の砂利の上に手を付いて座ってるからか――、っておい、このリアルな感覚は何だ? 尻も砂利石が当たって痛い。もしかして、夢じゃないの? これ現実? ……うわっ、風が身体に当たって、寒い。体がガタガタ、ブルブルと震える。……全身びしょ濡れ。


 まじクソ寒い……、ていうかどうなってんだよ? ここどこなんだよ? 俺は確かにさっき、あのテニスやってた女の子を助けようとして道路に……、待てよ。ちょっと立って周囲を見渡して……。


 さっき落ちた川が、ほんの一メートル先にある。川幅は十メートルくらいか? で、向こう岸は草むらになっていて、その草むらの数メートル先は上に緩やかに登っていて……そこから先は見えないな。遠くに山は見えるけど。……俺のいる側は、この砂利石の川岸が上流下流方向にずっと続いていて、こっちの川岸の奥は、林? 森かな? 全くの自然――。


 ていうか、体全体が濡れていて寒い。……おっと、少し向こうに日光が当たってる場所があるからそこまで歩こう。……ふぅ、日光にあたると結構温かいな。取り敢えずこっちは砂場だし、ここで腰を下ろしせば尻も痛くないか。とにかく落ち着こう。


 そう言えば、このビショビショに濡れた服は、あの公園にいた時そのまんまじゃないか。この上着はマチナカスーパーマーケットの作業着だし。むっ? 持ってた筈のスマホがどこにもない。どうして……、あっ、あの道路に飛び出した時、確か俺、左手に持っていて……、ということは? ……おっと作業着の胸ポケットには手帳が入ってるな。


 水浸しでぐしょぐしょだけど、丁寧に開いて……、破れないように……、あっ、破れた。くっそ、もっと丁寧に……、これ、間違いない、俺の仕事用の手帳だぞ。びっしり仕事のことが書いてあるし、部長に怒られた内容とか――、しかし、間違いなく俺が書いたものだ。一体これは……、あれ? この最後のメモの日付は……、20xx年xx月xx日って、今日だな。それは当然か。これは午前中の納品メモだし……。


 うーむ。……財布もズボンの後ろポケットに入ってる。……ということはつまり、どういうことだ? そう言えば、さっき川に落ちたけど、俺って怪我一つしてないよな? こうやって顔触っても、手も足も、身体もどこも怪我してない。でも、確かにあの時トラックが――。


 もしかして、トラックに跳ねられて、奇跡的に怪我はしなかったが、意識を失って、誰かにここまで運ばれた、とか? ……いや、それはない。だって、さっきいきなり川に落ちそうだったぞ? トラックに跳ねられると思ったら、いきなり川に落ちそうだった――、ということはつまり、ええっと……。わけわからん。


 ていうか、ここどこなんだよ? 見渡す限り、自然な風景しかないみたいなんだけど。後は……、川のせせらぎと鳥の鳴き声が聞こえる程度。一体何がどうなってるんだろうなぁ? どうもここ、かなり田舎っつーか、山奥みたいな気もするし。……あ、そういや、オニギリと卵焼き一個ずつ残したお弁当箱もないな。ん? あれは?


 さっき、川に落ちそうになった時に、俺が立っていた場所になんかあるぞ? とにかく、近付いてみよう……。あっ? これは俺のお弁当箱だ! 中身も……、ちゃんとオニギリも卵焼きも一個ずつ残ってる! ……いや、それは当たり前だ。だってさっきまでこのお弁当箱は持ってた……。ともかくここはどこなんだ?


 とにかく、よくわからんから、歩いてみよう。どっちへ歩く? ……森の中は怖いから、川岸を歩くか。上流? 下流? うーむ……、下流方向に歩こう――。



 そうして、わけも分からず、1キロほど、休み休み、どんどん晴れ渡ってきた日差しに、濡れていた服を乾かしながら、砂地や岩場などを通って川岸を歩いたものの、風景は特に変わらなかった。どこまで行っても周りの風景は自然しかなく、遠くに見える山の稜線にも人工物は全く見えない。どうも妙だ、日本なら山に鉄塔や電線などが見えたっていい筈だし、ってことはここは余程の山奥なのだろうか? でもどうして俺はこんなところにいるんだ? さっきまで都心のオフィス街にいたんだぞ?


 少し喉が渇いたな、と、持っていた弁当箱を川の水汲み用に使おうと思って、その中身を川に捨てようかなと思ったその時だった。


「待って下さい。それを捨てるのなら、私に下さい」


 吃驚して、その声のする方向に振り向いたら――。



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異世界コンクリート 子持柳葉魚改め蜉蝣 @Poolside

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