第28話 ビルド&リビルド
地下深くの球形大空洞。
そこで王龍と黒龍は相打ちとなり、互いにもたれ合っている。
どちらも装甲は溶け、内部からは煙が上がっていた。
王龍の剣先に装着された俺自身、すなわちアルティウムコアは黒龍の中枢に潜んでいた黒巫女を貫いて、そのままそこにある。
黒龍の中枢にアクセスして支配リンクを破壊するためだ。
そして成し遂げた。
黒巫女の頭部は床に転がり、アオイはその傍らで王龍と黒龍を見上げている。
静かだ。戦いは終わったのだ。
闇色に染まっていた黒龍の体が今、白銀に輝く光の粒へと分解していく。
深く傷ついていた王龍の体もまた同様に光の粒へと散っていく。
光の粒は流れとなって空洞内を舞う。
頭部だけの黒巫女がほくそ笑む。
「ふふふふふ、黒龍も主様も消え去るのですね。戻ってはこないのですね」
「……何が起きているかわからないの? ここは龍が生まれた処なんだよ」
黒龍と王龍が全て光の粒へと変わり、そして空中にアルティウムコアが残る。
アルティウムコアは静かに降下して、アオイの胸に抱かれる。
俺、アルティウムコアは告げる。
「世界をリビルドする」
ここは球形大空洞、龍の生まれた処、すなわちかつての龍の卵。
その中には今や生命の源があふれている。
半透明だった床に光の粒が舞い降りて、金属の殻へと変えていく。大空洞に開いていた穴も塞がれる。
今再びここは龍の卵となった。
アオイがアルティウムコアを掲げる。
アルティウムコアは空中に浮かび、卵の中心へ。
今、リビルドが始まる。
アルティウムコアを中心にドラゴンのフレームが形作られていく。
フレーム内に半透明の転換臓が生じ、穏やかに赤く輝き始める。
銀色の中枢神経瘤が現れ、そこから銀色のパイプがフレーム全体へと伸びる。
蓄電槽が形成された。
吸収機構と再構成機構が出現する。
翼のフレームに電磁加速機構が形成されていく。
前枝や後肢、フレーム各部に関節機構が構築される。
内部武装が各部に構成された。
鱗のような装甲がフレームを覆いだす。
光学センサー、大気センサー、電波センサー、重力センサーなど、各種センサーが表層部に作られ始めた。
フレームの中枢、そこにはアルティウムコアを覆う卵殻が作られていた。卵の中の卵。その内部でもまたリビルドが進んでいく。
リビルドのエネルギーに転換され、アルティウムコアは消えていこうとしている。
俺の意識はアルティウムコアに遺されていた
『かつてこの星に存在した生命はただひとつ、この星そのものである金属生命だった。同類もおらず、ただ孤独に生きるだけの存在。それは他の生命を求めていた』
「星の核に存在した金属生命のことか……」
『永らく待ち続けた金属生命は遂に出会いを得た。異空間からの量子アクセスを受けたのだ。異空間の存在は金属生命に情報を送り込み、情報を処理させ、結果を受け取ることを目的としていた』
「そうか。アルティマビルドのゲームを動かす量子サーバーは、並行宇宙の量子空間を計算に用いると聞いていたが、この星自体を計算に使っていたのか!」
『量子アクセスを介して、金属生命とは全く異なる有機生体の情報が流れ込んでくる。金属生命はその情報を星の上に再現しようと試みた。様々な試行錯誤の末に、星全体を帯で覆い、そこからの量子空間操作によって有機生体を量子転移させることに成功した。人間と名乗る有機生体は高度な知能をもって星の環境に適応し、この星に存在する金属類を使いこなして機械を生み出していった』
「ゲームの中だと思っていた世界が実在していたとはな……」
『金属生命は人間とのコミュニケーションを求めたが、あまりにも異質すぎる存在であるために、この星自体が生命なのだと人間は気付けなかった。金属生命体は、人間が機械生体を生み出すことができればそれを介してコミュニケーションできるようになるのではと期待し、力を与えた。だが人間はその力を創造ではなく破壊に用い、あまつさえ星の破壊を開始したのだ』
「ネクロシス……」
『やむを得ず星は量子アクセスを遮断し、古い量子保存情報で星全体を上書きして昔に戻そうとした。だが星の破壊のために創造された機械はあまりにも強大で消し去れなかった。星は保存情報の中から優秀なビルダーを復元し、己の力を分け与えていった』
「ヒバナたち
『ついにビルダーたちは機械生体の創造に成功し、星の意志を知り、破壊機械への戦いを挑んだ。最初にこの場所でドラゴンが生まれた。ドラゴンを王として、次々にリビルドが創造されていった。そして破壊機械に立ち向かい、遂に勝利を……』
「記録はここまでしかない。すべての力を分け与えた星の意志は消え去ったのだな…… ビルダーたちに後を託して」
俺のアルティウムコアがリビルドに力を使い果たしたとき、ついにリビルドは完了した。
全ての工程は終わり、あらゆる機構が完成している。
高さ三百メートルを超える巨身が今、中空から床へと降り立つ。深い地響きが起きる。
アオイは黒巫女の頭部を拾い上げ、リビルドの様子を彼女に見せる。
黒巫女は目を見開いて叫ぶ。
「ああ、なんという偉大なお姿。しかしこのお姿は黒龍とも王龍とも違います。貴様は、いえあなた様は何者なのです! 龍か人か! ビルドかリビルドか!」
俺の答が響き渡る。
「最強にして自由、破壊をもたらすヒューマンビルドにして世界を創造するヒューマンリビルド」
アオイは歌うように告げる。
「龍にして龍にあらず、人にして人にあらず。汝は竜頭人身にして翼を持つ神、神龍」
黒巫女は笑った。
そこにはもう憎しみも悪意もなかった。
「破壊神にして創造者。これこそが我らが真に目指してきた頂き、ビルドの究極なのでしょう…… あなた様こそが、アルティマビルド」
黒巫女は満足しきった表情で瞼を閉じた。
神龍の中枢、コックピットブロック。
そこに俺は新たな身体で存在している。
リビルドされた人間の肉体、ヒューマンリビルドとして。
神龍のコックピットハッチを開いた。
そこから俺は身を乗り出して、アオイに声をかける。
「戻ろう。アオイ」
「うん!」
神龍が差し出した手にアオイが乗る。
アオイをコックピットに導き、前後に並んで座席に座る。
「リュウ、人間に見えるよ?」
「ああ、アルティウムコアは使いきってしまったからな。最後のエネルギーを使ってバックアップから復元した。さあ、帰って家族で飯だ」
「そうだね、帰ろう! リュウ、アズマ!」
神龍はアズマと呼ばれて、返事代わりに咆哮する。
神龍は関節機構を駆動させて人型から龍型へと移行した。
翼を大きく広げる。翼の後縁から紫の炎が噴射される。神龍の巨体が浮上する。
この球形大空洞を包み込む卵殻がひび割れ、砕け散る。
入って来た時の穴がまた開いた。
神龍は穴を通って上昇していく。大空へと向かって。
あれから二週間が過ぎた。
第二十八工房は今日も活気に満ちている。
食事部屋からアオイが叫んでいる。
「ご飯できたよ、来ないと食べちゃうよ!」
自室から慌てて出てきた俺を見て、マサキが頬を赤く染める。
「リュウさん、服を忘れてます」
「すまん!」
俺は機械の身体だったときの習慣がなかなか抜けなくて、ときどき服を着忘れてしまう。
急いで紺色のツナギを着てから食事部屋へ。
テーブルに並んでいる料理はいい香りで湯気を立てて、どれも上手そうだ。
「「「いただきます!」」」
三人で挨拶をしてから食べ始める。
「この卵焼き、本当に美味しいな。ずっと食べてみたかったんだよ」
「あたしの得意料理だもんね」
マサキも一口食べて、
「自慢の妹です!」
「えへへへ」
食べ終わったら、もう仕事の時間だ。
「神殿に行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」
巫女服で出かけるアオイを、マサキと俺はガレージの外で見送る。
神殿のほうを仰ぎ見る。上空をゆったりと神龍が旋回している。今日は良い天気だ。空の散歩なのだろう。
あれ以来、リビルドの群れによる攻撃は止まっている。群れは元々の生息地へと戻っていた。彼らとの生存競争はこれからも続くだろう。だが、互いの存亡をかけた戦争ではない。同じ機械生態系の仲間だ。
ガレージから呼ぶ声がする。
「わたくしの体を早く作っていただけないかしら」
ヒバナだ。
一通り仕上げてやったつもりなのだが、美しさがいろいろと足りないらしい。
「よし、やろうぜ!」
「はい!」
今日も俺たちは作り続ける。新たなる
★☆★
エメト工房都市、重合商会の大商館。その地下室。
幻像がミスリウム製のテーブルを囲んでいる。
男の幻像が発言する。
「操龍派は敗北したのである。大勢は決した。今こそ滅龍のときである」
女性の幻像が否を唱える。
「技術の抑制に歯止めが効かなくなりし今、我々が直接制御するは賢明に非ず」
老人の幻像がテーブルを打つ。
「混沌じゃ。ゲームバランスなき時代が来るのじゃ」
少年が決する。
「彼らの油に火を注ごう。技術革新を後押しして対立も煽る。管理して壊す遊びはおしまい、これからは全員参加、全員が壊し合うプレイヤーさ。我らゲームマスターは楽しませていただこうじゃないか」
ある者は不満そうに、またある者は面白そうな表情を浮かべて退出、幻像は消えていく。
最後に残った少年はつぶやいた。
「我らがゲームのために」
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彼らの冒険はここで一区切りとなります。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございました!
面白かったようでしたら、このページ下部にある★でご評価いただけますでしょうか。
いただいたご感想や応援は執筆の強い励みとなりました。深く御礼申し上げます。
本作ではいろいろなバトルを楽しく書くことができました。
もしもまた彼らが冒険に旅立つことがあれば是非お付き合いくださいませ。
それでは再びお会いする日まで。
メカゲーム世界に転生して最強ロボ無双~アルティマビルド~ モト @motoshimoda
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