夢の世界へようこそ

夢の世界へようこそ

　【エナジードリンクと睡眠導入剤を、あるレシピに従って組み合わせると、夢の内容を自在にコントロールできる明晰夢を見ることができる。そのレシピの名前を“鍵（キー）”と呼び、出来上がったモノを“扉（ゲート）”と呼ぶ。】そんな噂がSNS上で流れ、そして、“鍵（キー）”が高額で取引されるほど大流行していた。

　“扉（ゲート）”が流行し始めてから1ヶ月後、25歳の若者が死亡する事件が起きた。原因は過労死だった。警察がその原因を細かく調べていくと、その若者は件のレシピ“鍵（キー）”を所有しており、そして、“扉（ゲート）”を常用していた事が判明した。警察はこれらの情報から、明晰夢を常習的に見ていた事により、睡眠時に十分な休養を取ることが出来ず、過労死へ至ったと判断した。

　これを皮切りに、政府は即刻“鍵（キー）”の売買を法律で禁止し、“扉（ゲート）”の危険性を啓蒙し始めた。しかし、使用者はほとんど減らず、過労死する人間が続出した。テレビも、その話題で持ちきりだった。連日連夜放送され、“扉（ゲート）”の知名度は増々高まり、“鍵（キー）”はネット上に無料で公開されるようになった。その結果、使用者の数も激増した。

　あるニュース番組で、レポーターが“扉（ゲート）”を常用しているという若者にインタビューをした。

「“扉（ゲート）”を常用しているとのことですが、なぜ、死ぬ危険性を冒してまで多くの人が“扉（ゲート）”を使用するのだと思いますか？」

すると若者は答えた。

「クソみたいな現実を生きるより、幸せな夢の中で死んだ方がマシだからですよ。」

そう言った彼の目は疲れ切っていたが、確かに輝いていた。