第2話 負けられない戦い
時に、賢明な読者諸君のことだ。
ポーカーのルールについて詳しく語る必要性を僕は考えなくても良いと思っている。もし、分からない人がいたら、適当にアスク・ザ・グーグルをして欲しい。
きっと、僕はこう言ってポーカーをしていただろう。いや、そこまで僕は追い詰められていた。
話は京都のホテルに戻る。僕は祐介からポーカーで賭けを挑まれた。祐介から提示された条件は以下の通りだ。
一、祐介がポーカーにおいて四連勝すれば、僕は写
写真の少女について話す。
一、三人のうち一人が一回でも連勝を止めれば僕は
少女について話さなくても良い
一、もし祐介が負けた場合、祐介は彼女に愛を囁く
一、以上の三つを伝えずに誠二と啓には共にポーカ
ーをさせる
これ以上ない、シンプル極まりないものだった。
そして、確率的に見るなら、僕は非常に優位な立場にいた。
単純計算で二百五十六分一、つまり、およそ0,4パーセント、よっぽど引きが悪くはない限り僕の優位性は絶対的になり、そこから祐介を見下ろし、叩く。
完璧だ、完璧に近いものだ。僕が勝ってもなぜ祐介のカップルのノロケを聞かなければならないのか、そこだけが納得いかないがそこは妥協しよう。
というよりは、これをエサにもし祐介が別れて新しい彼女が出来た時にリークしよう。
そう考えれば、おおよそ良かった。
そして、帰ってきた二人を迎えて、僕らはポーカーに興じることにした。
だが、現実はいつも残酷だった。
僕は、このゲームを提案した奴が性格がひねくれていたのを忘れていた。
僕はこのゲームにおいて
僕は曲がりなりにも男だ。
言い訳をしない。
端的に言おう、
三連敗を僕は今している。
しかも、タチの悪いことに、ギリギリをついてきている。
ほんの一役差で僕らはいつも負けていた。
「いやぁ、今日は祐介はやたらと強いな」
「ホントだよ。始めて三ゲーム、ずっと祐介が勝ってるな」
この賭けをしらない二人は呑気そのものだった。
だが、ルールを知っていたら僕の味方になるどころか敵に回る。そう考えたらまだ気分の収まりもいいように思える。
僕はラストに賭けることにした。
残念なことに、このトランプは祐介の自前の物だからこそ、トランプの手管がバレてしまっている。
キズを入れようと思えば簡単に入れられる。
勝負の詳細については、ここまで言えば分かるだろう。僕らは祐介に屈したのだ。だが、ここで引いてしまうのは、僕はできなかった。
「イカサマだ!こんなの!出来試合じゃないか!」
僕は声高に二人の
「もう一度言おう!僕はこのゲームにおいて、祐介はイカサマをしていると思う!」
「証拠は?」
はてな。と言わんばかりに祐介は尋ねる。
「証拠はない!そもそも、お前から賭けを提案した時点で考え…………」
僕は自分の誤りに気付いた。が、もう遅い。
僕は逃げようとドアの方に向かおうとするが、二人の聴衆は僕の肩を掴んで話さない。
「「賭けって、何?」」
二人は酷い人相をしていた。本当に酷すぎるので、ここは一度整形とは言わず、精神科に行ってくることを勧めたい。
これ以上詳しく思い出すのは、僕の『女の子達に囲まれたい』という野望にそぐわないので割愛したい。
そして、そのまま僕は二人に引き摺られて、
メロスは身勝手にも王様に喧嘩を売って、友であるセリヌンティウスを彼自身に預かり知らないところで人質に出すというこれ以上ない酷いことをしたにも関わらず、何だかんだ言って王様との約束を守り、友情を形として示した。
だが、今この状況において、どうやら僕はメロスにはなれそうもなかった。より正確に言い当てるならば、僕がメロスになれないのでなく、セリヌンティウスが不在だったのだ。
僕を地べたに正座させて、残りの三人は部屋の椅子やベッドに座って高い位置から僕を見下ろす。
僕は手元に
「と言うわけで!教えてもらおうか。」
元気いっぱいな声で祐介が詰め寄り、それに続き二人も詰め寄る。
これはただの魔女裁判だ。僕は残念なことにとっさにウソがつけるほど器用でもなければ、ここから三人を力ずくで抑えてだんまりを決め込もうという男気もない。よって、選択肢は…………
「あぁ、もうわかった。話す!話すよ!」
僕は不本意ながらも諦めた。そして、しばらく気持ちを落ち着かせるために間を置いて、それから
「僕の……、僕の好きな人だよ!」
「やはりな」
祐介はニヒルな笑いをこぼした。無性に殴りたい気持ちを抑えて僕は尋ねた。
「1つだけ聞かせろ。どうやって画像を手に入れた?」
「そこは企業秘密だな」
「そんな企業、あったら潰されてしまえ」
僕はよく理性を落ち着かせつつ、毒づいてみせたが、次に放った祐介の一言は、僕のその落ち着きを意図も容易く崩壊させてみせる。
「そう言えばこの可愛い子は幼馴染みらしいな。」
僕は反射的に睨みつける。
コイツはどこまで知っている?
いや、それどころかあまりいい気分ではなかった。そこに関して言うなら、僕の踏み入れるべきでない聖域とでも言おうか、つまり、僕の触れてほしくない所をコイツは土足で踏み込みやがったのだ。
「んで、いつコクるんだ?」
僕の気も知らないで祐介はこう尋ねた。
「いつヤるんだ?」
誠二も啓も続く。正直、あまりいい気はしない。
だが、ここで僕が怒るのもあまりにもガキだと思えてしまった。
「コクってもないし、告白もしない!そうだ!何か悪いか!」
「「えぇー!?」」
祐介を除き、二人は意外そうな声を上げ、僕はそして開き直っていた。
ここまで来たら調子を僕の方に合わさせてやろう。そう思っていると、
「そうそう。お前がチキンだからな」
おもむろに祐介は僕らにツイッターのツイートを見せた。そこには、新人モデルとしての彼女の姿が映っていた。
「最近、デビューしたてなんだろ?」
僕は警戒心を強めた。
「本当にお前どこまで知ってんだ!?」
思わず声を荒らげた。ここまで知られてしまったのは予想外だった。コイツ、正直気色悪いな。そう思って距離を取ろうとした。それは二人も同じだった。
声には出さないが、コイツ気持ち悪いな。そう思っていて、僕らはいつの間にか立場を忘れて顔を見合わせていた。
「おい、そんなあからさまに避けるなよ」
祐介はそれでも軽いやり取りを交わそうとする。
「いや、だって!そりゃそういう態度しか取れないだろうが!」
「おいおい、お前ら。もしかして、俺がそんなハイスペックな奴に見えるのか?」
「いや、見えねぇな」
「普通にバカだと思ってる」
「なんなら頭のおかしい奴だな」
僕ら三人は祐介を、肯定してあげた。
きっと、真の友情はこういう所から芽生えると信じたい。
「癪だけど、ほら、よく見ろ」
そう言って僕らに画面を見せる。
『ナルミーさんにこのツイートはリツイートされています。』
と、画面にはあった。ちなみに、ナルミーというのは僕のツイッター上でのアカウントだ。
しばらくの沈黙の後、僕は啓からは尻に蹴りを、誠二は僕の頭を叩いた。
面倒くさくなった誠二は祐介に尋ねた。
「それで、いつからコイツのこと、気づいてたんだよ?」
「まぁ、コイツがざっと高校に上がる前には知ってたな」
僕らは口を揃えた。
「「「こっわ!」」」
「とゆうよりも、なんで祐介はそんなことを知ってるんだよ?」
啓は尋ねた。
「よく、祐介が一人になって、俺らが合流する時に少しニヤついてた時があっただろ」
「あー、あったな。あれは気持ち悪いの具現化だったな」
「世界有数のキモさだったな」
口々に罵倒が横行する。
友情はどうやら枯れたようだ。
「それはな、コイツがその女の子とラインをしてたからなんだよ。んで、俺もその顔面のキモさを不思議に思ってスマホを見てみたら、その結論に至ったわけだ」
どうやら、僕の隠蔽能力がザルでバレてしまったようだった。次は気を付けよう。
僕はそう思いながら、肩を落とすのだった。
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