第3話 チキンの決意
僕らは何の変哲もない関西の街のとある小学校で出会った。
小学校の頃、男子と女子は異なる民族のように、教壇に立つ先生の「みんな仲良く」という言葉を無視していがみ合った。
お互いが大人になりきろうと背伸びすらしない時期に、僕らは出会った。
僕は男子として、彼女は女子として、お互いのグループに所属し、飽きることなくいがみ合う。
いつからだったろうか忘れてしまった。
だが、僕は彼女に恋をした。それは、僕がいがみ合っていたことを頭から忘れ去らせた。
彼女は泣いていた。ただ、すぐに泣き止み毅然とした顔をしていた。
その頃の僕はマセていたのだろう。恥ずかしいことに、カッコいい。と思ってしまった。
そこからだった。僕の心の歯車は、彼女を意識することを止めはしなかった。僕は歯車に従うように、意識から恋に変わっていく心を心地よく思い、彼女とのいざこざもなくなり、普通に話せるようになっていった。が、僕はもうそこから時間が無くなった。
転校だ。
珍しいことではない。ただ、僕は自分の気持ちを伝えることはできなかった。伝えようと思った。
ただ、怖かったんだ。
争いが終わり、友好関係を築けたのに、僕らの関係が大きく崩れることに。
僕は言い出す勇気のないまま、彼女に連絡先を交換し、去った。
ある日、僕は意を決して気持ちを伝えた。
だがそこはお互い幼かった。
お互い、その告白を有耶無耶にした。
僕は結局、一歩踏み出すより、友達として自分を護ることを選び、彼女もそれを選んだ。
選択は時に残酷だ。選ばれなかった二分の一を後悔し、選んだ二分の一を後悔する。
人はそれを延々と死ぬまでそれを繰り返し、繰り返しては、後悔する。
僕も、有耶無耶にしたのを後悔した。思いを有耶無耶にせずに伝えれば良かった。
そして、彼女は僕の気持ちを知っている。
だが幸いなことに中学までは僕らは何度か二人で出掛けることができた。恋人としてではなく、友達としてだが。
彼女は僕の想いに気付いていたけれど、それでも変わらずに接してくれたことに感謝している。
加えて、今にして思えば小学生や中学生で遠距離恋愛はできっこないと思う。それならば、僕はあの時の有耶無耶にした自分を恨みこそすれど、心の底からは恨めない。
そして、高校に上がって、お互いバイトや部活、受験で連絡は取っても会うことはなくなった。
僕自身、あまりの忙しさに目の前のことで手一杯だった。だから時折の連絡すらも段々と減っていった。
ただ、自然と気には留めなかった。
なぜだかは分からない。ただ、僕らはお互いが連絡を取れないだけで崩れる友情ではないと思っているからだ。と、思いたい。
きっと、僕らは少し変わっていると思われるだろう。
だが、誰から何を言われようとも、
それでも僕は、彼女を想い続けていることには変わりなかったーーー。
「なるほどな。まぁ大方予想通りだな」
祐介はそう言ってのけた。
日付けをまたぎ、窓から見える景色の街の灯りもまばらになり、ポツポツと光るのみだ。
そんな中でも僕を被告人とした魔女裁判は続けられている。
「話としては面白かったな。三文小説ぐらいだったぞ」
祐介はこう言った。
酷い言われようだ。腹が立ってきた。
だが、僕は成長し大人である。これぐらいで腹を立てていては子供と変わらない。僕は平静を取り繕ってこう言った。
「うるせぇよ。お前の人生は三文小説程の楽しみもないだろうけどな」
僕は大人ではなかったようだ。
口から出た怒りの弾丸はどうやらお役御免になることを拒んだようだ。
しかし、祐介は素知らぬ顔をしていた。踏んでもいいだろうか?
「あぁわかっているさ。お前が真面目な話をしていることくらいな。だったら、君には
“やるべきこと“があるんじゃないのかな?」
「余計なお世話だ」
僕は断る。今この話をしたら、大抵の人は告白をすればいいじゃないかと言う。
僕だってしたいが、三年のブランクがある。
三年のブランクとは相当に大きい。およそ千日だ。
一日にして長いと思える。そのはずなのに千日だ。
僕としてはそこまでして勇気を振り絞るのも恐怖ですくんでしまう。
だが、僕の葛藤を無視して祐介は続ける。
「今のままでいいのか?」
僕は言葉を詰まらせる。
別に、詭弁を弄するための最初の一字が分からなくなったとか、頭に抵抗するための考えがなかったわけではない。
止められたのだ。紛れもない、僕の理性を、僕の衝動が足蹴にした。
しばらくの間沈黙が続く。
僕の頭の中では大人である僕の理性が子供である衝動によって勢力図を塗り替えられつつあった。
そして更に深い沈黙する。
別に答えが決まってないわけはなかった。
ただ、今度は答えを上手く言葉として引き出せなくなってしまったのだ。
「それで?」
祐介の一言が沈黙を破った。刹那、僕は言葉を見つけ出した。そして、何をするべきかも………
僕は
誇りと利益。どちらを選ぶか。
誇りに関しては、コイツらと僕の間柄ではあってないようなものだった。
そして、重要なのは利益だ。
僕は啓、彼女がいたことのない一番役に立たない誠二を一つ飛ばして、祐介を見る。
確かに、コイツらは彼女がいた。
なら、少しは助けになる。
僕はそう淡い期待をする。
愚問と言って差し支えないだろう。
僕は躊躇することなく頭を地面に付けた。
「お願いします!どうやったら付き合えるのか教えてください!」
全力の土下座と心からの叫びである。プライドはどこか荒野に起き去ってしまった。
「綺麗な土下座だ。いっそ清々しいな」
「なんか、大切な物を失ってもいるけどな」
「汚い花火だ」
僕は歓声が来るのかと思ったら来たのはイマイチな声だった。少し悲しくなってきたが、そろそろ頭が疲れてきたので顔を上げよう。
「それじゃ、今から隼人のリア充化計画を始めるとしようか!」
ニコニコしながら笑みを浮かべる。そう言って祐介はスマホを手に取った。
僕は顔を引き攣らせた。
助けを求める相手を、もしかしたら間違えたかもしれない。そう思っても、もう遅かった
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