最終話 俺と世界と転生と

「ハジメ、今よ。『くっ、殺せ!』って」

「言ってたまるか。」


 あれから俺たちは変わらず転生の準備をしていた。

 今は敵に捕まった時の予行演習をしている。そんなことになってたまるか。


 女神の転生計画の事、アンジェたちのこと、それから俺のこと。

 アンジェたちだけじゃなく、他の同僚さんたちも入り乱れて話をした。

 俺が何かをするわけじゃないが、託された想いは忘れずに持って行こうと思う。





「いよいよかぁ、早かったなぁ。」

「そうですね。あれからあっという間でした。」


 今は始めてアンジェと出会った空間にいた。

 俺たちは色々思い出を作った、とはいってもどこかに行ったわけじゃないが。

二人で話して、みんなで話した。それだけの大切な思い出だ。


「最初はなにやろうかなぁ、やっぱ多少は旅行して冒険したいよな。」

「まだまだ手付かずの島々もあると思いますし、スリリングの冒険が期待できそうですねぇ。」

「スリリングはちょっと勘弁なんだけど。」


 二人で話すのはこれが最後だ。とりとめのない会話もこれで最後。

 だめだなぁしんみりしちまう。


「そうだ、ずっと聞くのを忘れてたんたけど、俺の新しい名前はなんだっけ?」

「そういえばそうでした。ふふ、ずっとハジメさんと呼んでいましたからね。

ハジメさんの新しい名前は……。」


 そして旅立ちの時がやってきた。

 


「ハジメさん、準備はできましたか?」

「あぁ、問題ない。」


 俺の周りにはアンジェやカルディナの他、俺に想いを託していったアンジェの同僚たちもいる。

 彼女たちともこれでお別れだ。


「ハジメさん。以前言いました通り、ハジメさんはご自身の思うとおりにお過ごしください。

計画の事はどうかお気になさらず。」

「わかってるよ。俺は俺の人生を好き勝手生きるさ。

アンジェ、みんな、お世話になりました。」


 俺はみんなに頭を下げる。別れは湿っぽくなってはいけない。

 明るく別れるのだ!


 アンジェの用意した扉の前に立ち、深呼吸。


「それじゃあ、行ってきますっ!!」

「いってらっしゃい!!」


 扉が開き前へと進む。

 眩い光が俺の視界を包み込み、一瞬ふわりと宙に浮いたような気がした。

 そして目を開けるとそこは……。







「行ってしまいましたね。」

「そうね。楽しかったわ。」

「ふふ、私もです。それでは私たちも準備をしましょう。」


 命は廻り、世界は廻る。その姿を変えながら。







 薄暗いような、眩しいような、そんな不思議な空間で目が覚めた。

 まるで寝起きのようなふわふわした意識のまま辺りを見回す。


 何もない。


「夢、かな。」


 ふとおかしくなり笑みをこぼした。

 どこか既視感のある風景を見つめ声をかける。


「ただいま、アンジェ。」

「お帰りなさい。また、会えましたね。」



 世界は生まれ、育ち、また新たな世界が生まれていく。

 女神は見ていた。

 楽しそうに、愛おしそうに。



 END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女神の転生計画 ~なかなか始まらない転生物語~ ミネストローネ @minestrone

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ