最終話♡:それは秘密。
二段の本気の一撃に、思わず僕は息の呑む。
「……ごくり」
なぜか、僕に釣られるようにして、茶メンも息を呑んだ。
守るよマイハニー、見たいな事を言っておきながら、何を君まで驚いているのか。
まぁ茶メンは、ひとまず横に置くとして、それよりも僕は二段の反応が気になった。ちらりと表情を読んで見ると、二段が、何か納得いかないという感じの顔をしていたのだ。
「……手ごたえが無い。おかしいな」
あれで手ごたえが無い……?
凄い音がしていらしたと思うのですが……。
「おかしいも何も、今ので沈んだのでは……」
「音だけだった。肉だけ叩いたような感覚だ。骨身にまで響いた感触じゃない」
何で、骨にまで衝撃が行き渡った時の感覚を知っているのだろうか?
「どうした?」
「な、なんでも……」
「そうか」
と、ともあれ、二段の言う事がその通りであるなら、相手にダメージがまるで届いていないという事になる。
僕と二段とあと茶メンの視線が、拳によって吹っ飛ばされた何物かに向く。
うつ伏せに倒れていた何物かは、落ち着いて改めて見ると、人の形をしていた。
薄汚れたような、深い茜色のローブを身に纏っていて、両の手には短刀を握り締めている。
「人型の魔物なのかな……」
「さぁな。――知らん」
肩を竦めながら、二段はそいつに近づくと、頭部を思い切り踏みつけた。
ぐちゃ、っと音が鳴る。
容赦も迷いもない迅速な攻撃は、二段の性格を考えれば驚く事ではない。のだけれど、思わず僕の顔が引きつった。
「……ふ、ふっ。俺の出番は無かったようだ」
茶メンは、吐き出す言葉の威勢は良いものの、その両脚がぷるぷると小刻みに奮えている。
無慈悲な二段の一撃に、恐怖を感じたのかな。
茶メンとは、あんまり感覚を共有はしたくないけれど、でも気持ちは分からないでもない。
ぶっちゃけ、僕も少し怖かった。
にしても、凄く良い感じの音がしていた。
これで、終わりなのだろうか……? いや、よく見ると、まだだ。
二段の足が、相手の体に沈み込んでいるだけである。言うなれば、柔らかいゴムの塊を踏みつぶしているような感じだ。
警戒心が産まれたのか、二段が少し距離を取る。
すると、茜色のローブのそいつが、ゆっくりと起き上がった。それから、上から下まで、確認するように見やるとローブについた土埃を手で払った。
「……いきなり攻撃してくるなんて、とんだ野蛮人だこと」
どうやら、知性を持つ存在のようだ。
喋った。
ゴムのような体のようだから、あるいは、スライムの亜種なのかも知れない。
今まで、頻繁にスライムの魔物と出会って来たけれど、それらと比較してもかなり異質な相手に見える。
「いきなり刃物を投擲してくるヤツに、とやかく言われたくは無いな」
「そこは男と女の違いよ。女が男に襲われるのは恐怖でしか無いけれど、逆の場合は男として嬉しい限りでしょう?」
「少なくとも俺は違うな。惚れたワケでもねぇ女に襲われたら、うっかり殴り殺しちまう自信がある」
冷静に、落ち着いた表情で、二段はゆっくりと一歩を踏み出す。その後ろ姿を、僕と茶メンが見守っていた。
■□■□
結論から言えば、この魔物は、この階のボス・モンスターであった。それも、悲しい過去をも持っていたのだ。
その事については、また後で述べる機会があれば話すとして――突然だけれど、ひとまず、僕の物語は一旦ここで締めたいと思う。
これから先にも、色々な事が起きて、僕も大変な目には遭ったりはする。それでも、この女の子の体で、僕はなんやかんやと上手くやって行った、という事だけはお伝えしておこう。
ちなみに、最終的に僕が誰と一緒になったのかについては、それは秘密だ。
でも、きっと、あなたが「あいつかな?」と思った相手と、一緒になったんじゃないかなぁと思う。
それじゃあね☆。
僕だけ女になるとかおかしいでしょ。 陸奥こはる @khbr_ttt
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