26話♡:邂逅。

■□■□


 大体、二~三十分くらいかな。体感時間にして、おおよそそれぐらいが経った頃に、エキドナが戻って来た。


「ぎぅ」

「何か見つけた?」


 と、僕が問うと、エキドナは首を縦に振った。

 どうやら、何かが奥にあるようだ。

 エキドナの様子からして、道中に危険は無さそうなので、僕はその事を二段と茶メンの二人に説明し、取り合えず、エキドナが見つけたという何かを確認しに、奥へと向かう事に決めた。


「……奥には一体何があるのか。マイハニーはどう思う?」

「僕に分かるわけないじゃない。……帰る為の道があれば良いな、って思っているくらいだよ」

「そいつはそうだ。ずっと帰れないんじゃ、困る」

「――鉄、そうやって、マイハニーの意見に賛同して気を引こうとするの止めてくれない?」

「……なんかこう、面倒くせぇな」


■□■□



 しばらくも進むと、エキドナが、ふと歩みを止めた。

 僕らは、前方をジッと見つめるものの、けれども、まだ薄暗くてハッキリとは先が見えない。

 周囲を警戒しながら、徐々に近づく。

 すると、扉が――いや、扉というよりも、門と言った方が良いかも知れないような、そんな何かが見えて来た。


「これは……」

「なんともまぁ……いかにも何か居ますって感じだな」

「ふん。大丈夫だよ、俺がいるからね。マイハニーの安全だけは俺が守る」


 大きく太い閂で塞がれ重厚な存在感を放つそれは、どことなく、歴史の教科書なんかの写真で見る、城門のようなものを思い起こさせる。

 圧迫感もある。


「……入る?」


 と、僕が問うと、


「入るしかないだろう。進む先はここ以外にない」

「……鉄の言う通り」


 二段も茶メンも、進むしかない、と首を縦に振った。

 二人とも、表情に真剣さが伴い、決して気は抜かないという覚悟が見て取れる。


「取り合えず、俺のスキルをひとまず先に」


 言って、茶メンが、スキルを発動させた。

 瞬く間に一振りの刀が現れると、茶メンはそれを握り、


「まずは、あずま


 ふん、と鼻で息をする。

 普段のおちゃらけた様子が、あまり見受けられず、その姿に、なんだか僕は少しだけ驚いた。


 こうしていれば、恰好良く見えなくもないような、そんな気もしないでもないような……?


「ここで、恰好良い所を見せれば、『抱いて!』と思って貰えるかも知れないからね」


 いや、いつも通りかやっぱり。


「茶番は良いから、早く中入るぞ」


 呆れたような表情をしつつ、二段が、閂を外してゆっくりと門を押して開ける。

 僕は、二人がいるなら、後は大丈夫かなと思い、エキドナを異空間にしまい――

 

「――伏せろ!」


 それは、一瞬だった。

 僕がエキドナを仕舞い終わると同時に、二段が、目にもとまらぬ速さで振り返り、僕と茶メンの頭を掴むと、押し付けるように無理やり伏せさせた。


「ぐえっ!」

「ほぎゃあ!」


 僕は茶メンは、仲良く二人揃って、カエルが潰れた時に出すような声を出してしまう。

 うぅ、と僕は思わず二段を睨む。茶メンも、睨みような顔で二段を見やった。けれども、二段は僕らの視線はどこ吹く風と、軽く肩を竦ませる。


「……そう怖い顔をしてくれるな。一応、助けたんだぞ。あれを見ろ」


 二段が、壁を指差した。

 すると、そこには、ナイフが突き刺さっていた。


「中に誰か居る。そいつが投げて来た」


 二段の重く慎重な声音に、僕と茶メンも、真剣な表情となる。

 僕は一歩下がり、茶メンが刀を構えて前を見据えた。


「……倉橋。取り合えず一発目は俺がやる。奴さんが中から出て来た瞬間に、一撃入れる」

「俺に任せてくれても良いけども?」

「お前ナイフ見えてなかったろ。目は俺の方が良いってこった。ってことは、現状で、様子見の一発を安全に食らわせられるのは俺だけだ。……何かしらの取りこぼしがあったら、まぁ、そいつをやってくれれば良い。要はお前は勇気を守ってりゃ良い」


 不意の一撃に反応出来なかった事に、茶メンは、悔しそうに歯ぎしりはしたものの、そんな自分を理解はしているようで、眉根を寄せながらに「分かった」と二段の指示を受け入れる姿勢を示した。

 僕を守っていろ、というのが受け入れやすかった、と言うのもあるのだろうけれど。……不本意ながらに、茶メンは、どうにも僕を女性として見ていて、そして狙っているようだし……。


「さぁて……」


 と、二段が両手を開いて閉じると、ごきり、と音が鳴った。


「……」


 張り詰めたような空気がこの場を支配しはじめ、僕の額にも、うっすらと冷や汗が浮き出始める。

 十秒、二十秒……一分と、半開きになったままの門を注視する。僕も茶メンも、二段も、今立っている場所から、一歩も動かない。

 一種の緊張状態だからなのか、体感時間が異常に長く感じたけれど、しかし終わりは訪れた。


 ぎぎぎっ、と門を押す音が響く。

 その中に居る何者かが、こちらに注意を向けつつ、ゆっくりと歩みだして来て――


「悪く思うな」


 ――肉を押しつぶすような音と共に、門から一歩出て来た何者かが、吹っ飛んだ。

 二段のその一撃は、茶メンを殴った時よりも、明らかに重く、そして力が入っていた。

 本気の殴打である事が、そこから、伺い知れた。

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