最後の行ってきます

 あ、電車が来る。


ーまさかとは思うけど、もしかして...?


 うん、この電車でいくことにするよ。君には本当に感謝してるよ。感謝してもしきれないほどに。


ー僕は何もしてはいないさ!


 そんなことないよ。君のおかげで...あ、もう来ちゃう。


ー本当にいくの?


 うん、決心がついたの。もう悔いはない。本当だよ。


ーそっか...。


 ンフフ、悲しいの?


ーそりゃあ悲しいさ!でも、君がそのつもりなら、もう止めるつもりはない。


 ありがと。じゃあね。




 どうしよ、足の震えが止まんない...。どうしよ...。


ーやっぱり、まだ死にたくない?生きていたい?人生、辛いことだらけじゃないって気付いた?これから生きていく中で、辛いこともあるだろうとは思うよ。でもそれを乗り越えて、今みたいな楽しい時間もある。


 分かってる...分かってるよ...そんなこと。それも承知の上で死ぬことを決めたの。でもなんでか分かんないけど、怖いの。死にたい、けど怖い。生きたい、けど死にたい。考えてたら、震えが止まんないの...。


ー死にたく...ないんじゃない...?だから死を前にして怖くなってるんじゃない...?


 違うの、死にたいの。もうイヤなの。でも生きていたいの。


ー泣いてるの...?


 あれ...?なんで、私泣いてるんだろ...?


ー無理しなくてもいいと思うよ。まだいっぱい、やりたいことあるんでしょ?ほら、これ。椅子に置き忘れてたハンカチ。話に聞いた通り綺麗なバーベナの刺繍じゃないか。これで涙拭きな。妹さんにもらったやつなんでしょ?それとも、わざと置き忘れて死から逃げる言い訳にしたかったの?


 違う...。でもやっぱり...死にたくない...。


ー今すぐに決めなくてもいい。ほら、一緒に帰ろ?


 ううん...。もう大丈夫。決めたもん、死ぬって。何もかも全部、0からやり直せば、きっとうまくいくって信じてる。ねぇ、手...握ってくれないかな?そうすればきっと、震えも止まると思うの。


ー...うん。これでいい?


 ありがと。やっと気持ちが落ち着いたよ。


ーやっぱり死ぬの?


 うん。今度は本当の本当に後悔はないよ。もう怖くもない。清々しくもあるくらい。ねぇ、一緒に死んでみない?


ーなんてこと言うんだ君って人は!


 アッハハ、冗談だって、冗談!私の人生最後のブラックジョークだよ!


ー...でも、案外悪くないかもね。


 え?


ー死んで0からやり直せるなら、生きることに積極的な君に、来世で出会えるかもしれない。こうやって手をつないで一緒に死ねば、神様もきっと、僕たちを結び付けてくれるさ。


 本当に言ってるの?私は止めないよ~?


ー止めてくれなくてもいい。僕が今決めたことだ。もう今から来世が楽しみだ!


 フフフ、私もだよ。じゃ、いこっか。手、離さないでね。


ーうん。もちろんだよ。


「それじゃ、またね。」







 

 〇〇〇〇年〇月〇日〇時〇分、〇県〇市〇〇駅にて、人身事故発生。

被害者は、10代の女子高生と見られる。なお、○○駅の椅子には、被害者のものと思しき、バーベナの刺繍の入ったハンカチが置かれていたという。





 






  

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