俺達の夏は、まだ終わらない
続く打者がタイムリーヒットを打って、俺はベンチに帰ってからも、声を上げてチームを応援した。
ヒットにエラー、フォアボールを繰り返し、ついには九回ツーアウトから逆転に成功。ランナーが返ってきた時は、球場全体が大いに沸いていた。
とは言えまだ一点リードしただけ。気を抜いたら簡単にサヨナラ負けになってしまう。
ここが最後の、頑張り所、気合入れていかねーとな。
俺はピッチャー、投げるのが本業なんだから。
「それじゃあ行ってくるか。おっと、帽子は……」
「はい、これでしょ」
「お、サンキュ」
マネージャーから差し出されてた帽子を、深くかぶる。
ここまできたのに暑さでバテたら、シャレにならねーよ。
「さっきのスリーベースヒット、凄かったね……。ごめん、諦めたのかなって、勘違いしちゃってた」
「……お前がそれを言うか? まったく、誰のせいで諦めが悪くなったと思ってるんだ」
申し訳なさそうに謝るマネージャーを見て、思わず呆れてしまう。
リトルリーグにいた頃、あっさりエースの座を奪っていったライバルがいた。
中学に上がると同時に、俺もそいつもチームも卒業したけど、腐れ縁ってやつかな。高校生になっても同じチームにいて、そのライバルは今、マネージャーをやっている。
そう、俺に何度も挫折を味わわせた張本人。それがこの女子マネージャーだ。
一度も勝たせてくれなかった憎たらしい奴だけど、そんなライバルとしていてくれたから、俺はより強く、諦めが悪くなったんだ。
ウイルスのせいで大会そのものが危ぶまれたのに、モチベーションを下げずに練習を続けられたのも、九回ツーアウトまで追い込まれたのに心が折れなかったのも、全部お前のおかげなんだからな。
お前が容赦なく味わわせてくれた敗北に比べたら、これくらいなんてことねーよ。
「さあ、せっかく逆転したんだから、後はきっちり抑えねーとな」
「頼りにしてるよ。夢だった甲子園に、連れて行ってね」
ニコッとした笑顔を向けられて、一瞬見惚れてしまった。
なんだよ。急に可愛く笑うから、不覚にもドキってしちまったじゃねーか。いや、それよりも……。
「違うだろ。連れて行くんじゃなくて、一緒に行くんだ」
大事なところを訂正して、コツンとおでこを小突いてやった。
他力本願なんて、お前らしくもない。
高校野球ではリトルリーグと違って、女子は選手としてグラウンドに立つことはできない。だけど試合には出れなくても、マネージャーとして皆をサポートしてくれている。
胸を張れよ。お前は立派な、チームの一員なんだから。
「待ってな。今度はしっかり抑えて、勝ってみせるから」
「うん、期待してるよ」
ライバルにして頼れるチームメイトに見送られながら、俺はマウンドへ向かって歩いて行く。
空は吹き抜けるような青空。
俺達の夏は、まだ終わらない。
了
負け続けた男の甲子園 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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