エピローグ
燻る火種
『
お父様に呼び出された
小さく手を振りながら
「や、依智に狒々愧じゃないか。久しぶり」
「統逸……なんで貴方がここに?」
「親父に呼び出されたんだよ。おそらく君たちと同じ用だ」
「聞いたぜー、『
「元はといえば、君たち二人がしくじったのが悪い。僕が尻を
「お父様は――」
「おい、
怒りを
しかし黒い前髪と口布の間から
「あの人は血筋を
「血を引いていないからって、お前と俺たちの間に優劣があるわけじゃねぇだろ」
依智と狒々愧の反論に、統逸はやれやれと肩をすくめる。
「そうだね、僕らは対等だ。その上で考えてごらん。僕は
負け惜しみもここまで来ると
「失態続きの君たちを追い抜くのも時間の問題だ。もしクビになって路頭に迷ったら……そうだな、依智なら僕の下で可愛がってやってもいいよ。君は愛想は悪いが、顔が良い」
不快に顔を歪めた統逸の視線の先、手首を
「なんだ、大好きなお姉ちゃんを取られたくなくて必死か?」
「
「それはこっちの台詞だ……
「——騒がしいな」
「無駄話はいいから入って来い」
「失礼しました、
電撃的な速度で正座した依智によって、からりと開いた襖の向こう――上座で
傷んだ白髪を左右に分け、覗く額から右頬にかけては、斜めに走る一筋の刀傷。
深い
彼こそ幕府老中にして三人の父、そして暗殺部隊『天照』の創設者――葦切総斎。
視線を水平に滑らせて下座に並んだ子どもたちを眺めた後、
「お前たちを呼んだのは他でもない……元『天照』の連中についてだ。
その横で、統逸は
「おい、親父。僕は
「話の腰を折るな統逸。お前に
ぴしゃりと言いすくめられ不満そうにしていた統逸だったが、『昇格』という単語が出たあたりから
姿勢がわずかに前のめりになっている彼に、姉弟はまたも怪訝な視線を注ぐ。
「この半年の間で、元部隊員の半数が表立って動き始めた……単なる偶然とは思えん。この件については彼らを
伸びた白い
「組織的な行動が出来る奴らではないが……もし一斉に
ひび割れた唇から発せられる
・・・・・・
「——手伝う、だと?」
とっぷりと日が暮れた頃、『醜落』のとある廃屋。
「そうだ。お前の復讐の手伝いをしてやる」
不気味に照らし上げられた黒塗りの狐面からくぐもった声が響く。
「乗らん。……お前の素性も、狙いも分からぬ」
「じゃあ――これでどうッスか?」
人影が狐面を外した瞬間、声色が切り替わった。軽はずみな調子はそのままに、高く澄んだ声へと。
秘されていたのは十代の少女の顔。
細い
わずかな動揺に見開いていた模倣犯の目が、それを見てさらに胡乱な冷たさを増した。
「からかってるのか小娘。俺も時間が惜しい、
「釣れないッスねー、せっかくこの
「俺に手を貸す理由は?」
「やだなー、可哀想な人を助けるなんて、人として当然のことじゃないッスか」
言葉の意味を
「人を殺し続けるだけで殺人鬼と対等の立場に立てるだなんて、片腹痛いッスよ。おめでたい頭してるんスねぇ? そのためにわざわざ遠回りして、時間切れが迫ってるなんて――」
軽薄な笑みが、
「いやーほんと哀れッスねー、救いようがないッス。あんまりにも
「……ほう?」
模倣犯の嗄れ声が興味に
「自ら贄になりたいとは、
「わーっ!! ちょちょちょ、ちょい待ち!! 冗談、冗談。
「アタシはただ、
ランタンの光に照らされ、血のこびり付いた刀身が赤く光る。
突き付けられた切っ先に――己を神と自称する尊大さはどこへやら――すっかりへっぴり腰の稲荷は
「取引?」
「そッス。なんとなんとー、アタシは本物の『仏斬り供臓』の居場所を知ってるッスよ」
「……なに?」
「んでんで、それを教える前にちょっと
言いながら、稲荷は
「そいつ殺してくれれば、アタシは『
「囚人どもを解き放って、なにをするつもりだ?」
「アタシはなにもしないッスよ、自由になった『
沈黙を続けていた模倣犯は、
口元を押さえる指の隙間から血が漏れ出すのを見て、
「このままだとー、間に合わないんじゃないッスか? ——
「クソ……分かった、乗ってやる……ッ」
刀を
『大江都万街』に降り掛かる新たな騒乱――その火種は
シロクロコントラスト ニッケル @Nick_el
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