あなたに愛を
雨世界
1 きっと時間が必要なんだよ。あらゆる心の傷は時間がきっと癒してくれるよ。だからゆっくりと休めばいいんだよ。今はさ。
あなたに愛を
プロローグ
あなたはいなくなった。私の前から、黙ったままでいなくなってしまった。
本編
きっと時間が必要なんだよ。あらゆる心の傷は時間がきっと癒してくれるよ。だからゆっくりと休めばいいんだよ。今はさ。
夕焼けに染まる中学校の校庭に一人の女子生徒がぽつんと一人で立っている。少女は、なにかを深く思考するような表情をして、じっと、真っ赤に染まる夕焼けの空を、見つめている。
……私は、どんなときも、絶対に一人じゃない。
そう少女は思う。
どんなときでも、『あなた』が私のそばにいてくれる。(その通りだよ。君には僕がいる。だから君は一人じゃないよ。孤独じゃない)だから、私はこうして、一人ぼっちで、この世界の中に存在していたとしても、孤独じゃない。
異端者じゃない。……異物じゃない。
私は、邪悪な存在じゃない。この世界にちゃんと、普通の、みんなと同じ存在として、ありふれた個人として、存在していい、……命なんだ。(生きているのだ)
そんなことを少女は一人、思考する。
夕焼けに染まる校庭には、少女の影が伸びている。少女の実物の体よりも、ずっと大きくて、長く引き伸ばされた、……暗い影。
その異様な大きさの自分自身の影を見て、少女はにっこりと笑った。
私は、たぶん、天使じゃない。
でも、だからと言って、私は別に、『悪魔でもない』のだ。
そんなことを少女は思う。
それから少女は一人で中学校から下校をする。少女に友達は一人もいない。(中学校だけではなくて、小学校のときから、ずっと私には友達が一人もいなかった)だから、それは少女にとって、いつも通りの日常の風景だった。
そんな孤独な少女に、高校で初めて『本当の友達』ができた。(それがあなただった。君だった)
きっかけは些細なことだった。(席が隣同士になったことだ)
でも、それは孤独な少女にとって、まるで本当の神様が与えてくれた、(救いの手を差し伸べてくれたような、そんな)……本物の奇跡のような出来事だった。
……少女は孤独が嫌いだった。少女は本当は、ずっと友達が欲しかった。
自分が『本当の愛』を知ったのはいつのころだろうと考えてみる。
それはすぐに思い出すことができた。
あなたに出会ったときだ。
私があなたに、世界でただ一人の親友の君に出会ったのは、高校一年生のときだった。
それ以来、私の見る世界の風景は変わった。
ずっと暗かった世界に色がつき、世界は命を、輝きを取り戻した。
それはみんな、全部君のおかげだった。
君と私の家は、本当に近所だった。(そのことに私はすごく驚いた)でも、高校生になるまで、私たちは出会うことはなかった。
同じ小学校、中学校という、箱の中にいても、二人は決して混ざり合うことはなかった。
その理由の大部分は私に問題があった。
私はずっと、世界を拒絶していた。
ずっと、他人の心を遮断して生きてきたのだった。
そんな私の持っていた大きくて分厚い壁を一瞬で取り払ってくれたのが、……君だった。
君は、私にとって太陽だった。(そして、私は月なのだと思った)
そんな君が泣いている。
泣きて、高校を休んで、家に閉じこもってしまっている。
太陽は御隠れになった。
そして、また、私の世界は、色を失い、光を失い、その代わりに土砂降りの雨を得たのだ。
私は決心する。
私は、『太陽を取り戻す』ことにした。
そのために今の私にできることは一つだけだった。
それが今の私にできる、私を救ってくれた(本当に君に救ってもらったと私は思っていた。もし高校で君に出会わなければ、私はもしかしたら、今頃、世界のどこかに消えてなくなっていたのかもしれないのだ)君に今の情けない、力のない私が与えることのできる、本当にただ一つのことだった。
君が高校にこなくなった日。
その日から、私は自分の力で、行方不明になった君を探すことを、始めた。大切な君をもう一度、私の人生の中に取り戻すために……。
……大丈夫だよ。心配しないで。絶対に私が君を助けてあげるからね。
あなたに愛を 終わり
あなたに愛を 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます