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世の中の「恋愛していないと女失格」「化粧をしていないと女失格」という風潮にいつも首を絞められていた。
幼少の頃は化粧をしていなくても咎められなかったのにある日突然化粧することを強いられる。化粧をしていないと「女のくせに」と言われてしまう。わたしはたまたま女性として生まれてきたけれど、自分が女だという自覚があまりなかった。女という性別を与えられながら、女の格好をすることに違和感があった。学校で性別に分けられるとき、自分が女なんだと思い知らされた。かといって自分が男という意識もないし、男になりたいわけでもない。性別というのを考えるとき、脳がスポンジになるような感覚に襲われた。
きょうだってそうだ。こんな格好をしながら、脳は少しだけスポンジ状態だった。自分は一生恋とは無縁だと思っていたし、「恋はするものではなく、落ちるもの」という陳腐なフレーズをいつも鼻で笑っていた。だけどあの日以来、自分の中で何かが変わった。
駅ビルを出て、中央改札の前で誠司さんを待った。待ち合わせより三十分も早く駅についてしまい、二十分駅ビルの本屋で時間を潰した。本の種類は地元の本屋とそんなに変わらないのに、なぜか同じ値段で同じ形をしている本が、高そうな代物に見える。緊張しながら本を読んでいたので疲労はすでに肩にのしかかっていた。
待ち合わせの五分前、誠司さんが改札を通ってきた。彼の顔を見たら疲労感は一気に飛んで、全身の血行が良くなって体温が急激にあがって、全身が火照った。
「ごめん。待たせて」
小走りでわたしに近づき、そう言った。
「いえ、全然」
誠司さんの笑顔を見て、気絶しそうになった。なんとか正気を保って、並んで映画館に向かった。
誠司さんが好きだ。誠司さんに男性的な魅力を感じているわけではなく、人として好きだ。会えない日は息が上手にできなくなるくらい、好きだ。
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