第179話 復讐者

「開門!!」


 残ったアデマス軍の兵によって、城の門が開かれる。

 そして、ラトバラたちは城内へと入って行った。


「懐かしいな……」


「えぇ……」


 城の内部に入ったラトバラは、感慨深げに呟く。

 その呟きに、リンドンも同意する。

 元々、この城はアデマス王国のものだった。

 それを奪い取り、敷斎王国建国を宣言した重蔵は、この城をそのまま利用していた。

 アデマス王国の時に何度も登城したを思い出し、懐かしく感じているのだろう。


「……いつまでも物思いにふけっているわけにはいかぬ」


「左様ですね……」


 懐かしい思いは尽きないが、今はそうしている場合ではない。

 城の内部には、他にも敵が潜んでいるかもしれないからだ。

 そのため、ラトバラとリンドンはすぐさま気持ちを切り替えた。


「者ども! 内部の調査に向かへ!」


「敵が潜んでいる可能性がある! 気を引き締めて行動に当たれ!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 内部の敵を一掃してこそ、城の奪還成功となる。

 まだそれが済んでいないうちに、勝利したと思うのは油断にしかならない。

 そのため、ラトバラとリンドンは城内の調査を指示し、兵たちはそれに従って行動を開始した。






「…………どうなっているんだ?」


「……さ、さあ……?」


 城の内部の調査を開始してすぐ、ラトバラたちは兵から玉座の間の異変を報告された。

 その報告を確認するため玉座の間に入ると、ラトバラとリンドンは少しの間固まった後に疑問の声を漏らした。


「こちらは分かるが、これは……?」


 ラトバラたちが固まった理由。

 それは、玉座の間に2体の死体が転がっていたからだ。

 そのうち1体は分かる。

 敷斎王国国王を名乗った重蔵の息子で、王太子と言われていた天祐だ。

 しかし、もう1体の方が良く分からないため、ラトバラは首を傾げるしかない。


「なんで魔物が……? しかも、リザードマンが……」


 転がっているもう1体、それは魔物のリザードマンだ。

 玉座の間に、何故魔物の死体が転がっているのか。

 理由が分からず、リンドンも首を傾げる。


「っっっ!? まさか……」


「んっ? 何か分かったか?」


 少しの間首を傾げていた2人のうち、リンドンの方が何かに気付いたような反応をする。

 驚いている様子のリンドンに対し、ラトバラは何に気付いたのかを問いかける。


「こ、この衣服、王を名乗った重蔵の服装のような……」


「何っ!? 何故重蔵が魔物になんか……!?」


 姿形はリザードマン。

 しかし、着ている服はかなり高品質の物に見える。

 そして、重蔵がこの服に似たものを着用していたことに思い至った。

 そのことを口にしたリンドンに、ラトバラは戸惑いの声を上げる。

 自分たちも利用したこともあり、魔物に変化する薬があることは分かる。

 だが、王である重蔵が、どうして魔物になったのかが理解できない。


「この部屋を見る限り、何者かと争った形跡があります。追い詰められた重蔵が魔物化の薬を飲んだのでは……?」


「そんな人間がいるわけ……」


 重蔵と天祐は敷斎王国の中でも一番の脅威で、残った数百人で仕留められるかは微妙なところだと思っていた。

 それが、天祐だけでなく魔物化した重蔵まで倒すなんて人間業ではない。

 そんな人間がこの世にいるわけがない。

 リンドンの考えを聞いてそう思ったラトバラだったが、ある者たちのことを思い出し、途中で言葉が止まった。


「いたな……」


「えぇ……」


 王都の防壁を突破する時、敷島兵を大量に打ち倒した者たちがいた。

 ラトバラとリンドンは、その者たちが密かに城内に侵入し、重蔵と天祐を殺したのではないかと考え始めた。


「何者かは分からないが、こいつが重蔵なら感謝しかないな……」


「そうですな……」


 結局、ラトバラとリンドンはその者たちのことが分からない。

 しかし、何となくだが味方なのだと考えている。

 アデマス軍の勝利に大貢献してくれた者たちだからだ。

 そのため、ラトバラたちは誰かも分からない者たちに感謝した。


「ラトバラ様! リンドン様!」


「どうした!?」


 王の重蔵と思われる魔物と王太子だった天祐は死んだ。

 これで最大の脅威が去り、更に勝利に近付いた。

 そのことを喜びたい気持ちでいたラトバラたちに、またも兵から声が掛かる。

 慌てた様子の声に、緩みそうになっていた気持ちは一気に失せ、表情硬く兵に問い返した。


「地下で魔物が暴れています!!」


「何っ!!」


「行きましょう!!」


 まだ始末しなければならない敵がいる。

 気を引き締めなおしたラトバラたちは、最後となる敵を倒すため、報告に来た兵と共に地下へと向かって行った。






◆◆◆◆◆


「終わったようですね?」


 城から、大勢の歓声が聞こえてくる。

 少し離れた場所からその声が聞こえてきた。

 アルバの背に担がれ、それに気づいたレラは限に話しかける。

 限が魔力回復薬を与えたことで、思っていたよりも速く意識を取り戻したようだ。


「そうだな……」


 歓声には限も気づいた。

 どうやら、の敵を倒したようだ。


「悪かったな。オリアーナの始末を勝手に決めてしまって」


「いいえ。あの女が魔物になって死んだと分かって、なんだか嬉しいです」


 オリアーナの始末方法を思いつき実行した限だったが、復讐資格のあるレラは気を失っていたため、勝手に決める形になってしまった。

 そのことを謝罪すると、レラは気にしないとばかりに返答した。

 レラとしては、むしろオリアーナが一番嫌がる方法で葬り去ることができたことに嬉しさの方が優っていた。 


「これでひと段落だな……」


「そうですね……」


 復讐は何も生み出さない。

 よく言われることだが、それは復讐する相手がいない人間の綺麗事だ。

 限とレラは、復讐ができてスッキリしている。


「……限様はこれからどうなさるのですか?」


 スッキリしすぎて、次に何をするか思いつかないところだ。

 自分以上にスッキリしているだろう限のことを思うと、レラには今後のことが気になった。


「……俺の復讐は終わった」


「そうですね……」


 世に出ている物語などだと、復讐が終わった人間は廃人のようになり、自ら命を絶つことが多い。

 限の反応を見ると、レラにはそんな結末が見えてきた。

 しかし、それならそれでいい。

 どこにでも、どこまでも、自分は限について行く。

 そんな思いから、レラは限から出る次の言葉を待った。


「次は教会だな」


「……えっ?」


 この大陸には、聖女を生み出すための教会が存在している。

 限の中では教会とは名ばかりの、金集め集団という印象しかない。

 そう言うのも、回復魔法の才能のある少女を集めて教育し、回復魔法を使って金を集めている集団だからだ。

 この世界では、男性よりも女性の方が回復魔法の使い手の割合が多い。

 性別的な理由によるものなのだろう。

 男性と女性で回復魔法が使える割合は、2対8といったところだ。

 それが、協会が少女だけを集めている理由だ。


「俺は終わったから、次はレラの復讐だ」


「……そうですね♪」


 自分の復讐は終わったが、レラの復讐相手はまだ残っている。

 ならば、次の標的は決まったも同然だ。

 短絡的にそう考えた限だったが、レラは自分のことを考えてくれての言葉なのだと曲解する。

 それが嬉しくて、レラは元気に返事した。


「行くか?」


「はい!」


「ワウッ!」


「キュウ!」


 限の言葉に、レラ・アルバ・ニールの順で返事をする。

 その返事を受け、限はその場から歩き出し、レラたちは後を付いて行く。






 どうやら、彼らの復讐の旅はまだ続くようだ。


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復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!! ポリ外丸 @porisotomaru

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