第3話 リコリー、やってみて

 しばらく真剣に悩んだ結果、アリトラはひとつの仮説に至った。その仮説を証明するにうってつけの人物がいるのだが……


「いやあ、よかった。マリアさんが用意して待っていて下さったよ」


『鳥籠の花』の扉が再び開き、リコリーがそう言いながら戻ってきた。その背後には『鳥籠の花』で店番をしている黒髪の女性が付いてきて、アリトラに会釈した。清潔な真っ白なブラウスと、それに負けないきめ細やかな白い肌。そして青い瞳の眼差し。どれを取ってもため息が出るほど美しい女性は、いまリコリーが言ったマリアである。皆からはマリーと呼ばれ、アリトラもそう呼んでいる。

 恐らくはアリトラにも挨拶を、と思って店先まで出てきてくれたのであろうことは想像できた。しかしそんなマリアも、店から出るなり店先で行われているシホとケイカの怪しげな儀式に目を奪われていた。


「……あれ、し、シホさん?」

「どうしようか、アリトラ。用事は済んだけど、声かけないのもなんだか……」

「リコリー」


 アリトラはリコリーに向き直り、真剣な眼差しを向けた。強い意思を宿す紅い瞳の力強さに、リコリーが気圧される様子があった。


「な、なに?」

「ちょっとさ、あの二人の隣でスキップしてみて」

「え? スキップ?」

「いいから。ちょっとやってみて」


 仮説を証明するにうってつけの人物。それは他ならぬきょうだいのリコリーだった。アリトラの仮説が正しければ、リコリーがスキップをした時、シホと白い幼女の怪しげな儀式の謎が解けるはずだった。


「ええー……スキップ……スキップって……ええと……」


 リコリーはなにやらぶつぶつと言いながら、シホとケイカの横に並んで、『スキップ』を始めた。始めたのだが……


「え、リコリーさん……?」

「やっぱりそうか。シホちゃんも、リコリー寄りなのかな?」


 アリトラの隣に並んだマリアが驚きの声を上げ、アリトラは納得したようにほくそ笑みながら頷いた。

 リコリーは運動音痴である。スキップしてみて、と頼んだところで、一般的なスキップの形にならないことを、アリトラは以前に見て知っていた。きょうだいでありながら、ほぼ全ての運動を一流にこなすアリトラには信じられないことで、リコリーのスキップを初めて見た時には、ふざけているのかと思い、その通りに指摘してしまったほどだった。

 いま、目の前ではアリトラの記憶の通りに、リコリーがスキップのような何かをしていた。そしてそれは不思議なことに、シホが踊っている不気味な踊りと示し合わせたように同じ動きになっていたのだ。


「え、ええー! リコリーさん!?」


 シホが驚き、動作を止める。そしてリコリーの動きを見て言った。


「リコリーさんすごい! それも感情表現の動作ですか!?」

「あー、うん、シホちゃん」


 アリトラの声に反応し、弾かれたようにアリトラの方へ向き直ったシホは、とにかく笑顔だった。


「アリトラさん! わたし、スキップ、できるようになったんです!」

「うん、えーと、とりあえず、お茶でも飲もうか」


 そう言ってアリトラは振り返る。マリアに無理を言って、お茶を一杯出してもらおうと考えたのだが、振り返ったところにいたマリアが、ごく小さな動作で、シホの踊りを真似ているのを見て、言葉を飲み込んでしまった。


 本当に、シホは不思議な子だった。何をしていても、こうして誰かに好かれてしまう。他ならぬ、あたしにも。


「あ……お茶、ご用意しますね」


 アリトラに『練習』を見られた気恥ずかしさに顔を伏せたマリアが、そそくさと店の中へと入って行った。


「ありがとー」

「シホちゃん、これ、何て言う踊りなの?」

「え? ケイちゃんさんは、お分かりになるのでは?」


 アリトラがマリアに続いて歩き出した時、後から続いて来るケイカとシホの会話が聞こえ、その噛み合わなさに、アリトラは思いがけず吹き出してしまった。



ー閑話休題「スキップできました!」ー END


お借りしたキャラの出典:


『anithing+ /双子は推理する』


https://kakuyomu.jp/works/1177354054882269234


『nothing-』


https://kakuyomu.jp/works/1177354054885222204


 作者様: 淡島かりす 様


『鳥籠の花』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883263218


『鳥籠の紅茶屋』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895618500


 作者様: 夢裏徨 様

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お茶にしましょう せてぃ @sethy

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