第15話 私と特訓の日々

 *特訓0日目……



 「あっ、姐さんたち! 待っていましたよ!」


 「……本当に受付の前で待ってたし……」



 昨日カルマが言ったように、アルタイル・バトルの登録をしに私を含んだいつもの4人は、喧嘩を売られた次の日の朝に受付カウンターまでやってきた。そこで、律儀に私たちを待っていたキングと遭遇する。



 「そりゃあ来る時間がわからなかったですからね! 朝かもしれないし、放課後かもしれないし。でも、ここで待っていればいつか姐さんたちに会えるはずだと思って、ずっと・・・ここで待ってました!」


 「……一応聞くけど、いつからですか……?」


 「日の出前からです!」


 「わーお。これはバカの世界チャンピオン」


 「…………ともあれ、これで全員揃ったわね。早速登録しに行きましょう」



 カルマの一言で、私たちは受付カウンターへと足を運ぶ。そしてカウンターで参加したい旨を受付のお姉さんに伝えると、1枚の署名用紙を目の前に出された。



 「こちらの参加者一覧の欄に本人の署名を、そして一番上の欄にチーム名を書いてください」


 「……そう言やチーム名考えてなかったな。アリシア、おめぇが決めて良かよ」


 「え、えっ?! チーム名?! いきなり言われてもなぁ……じゃあ、アサガオ(仮)っていうのはどう?」


 「アサガオ? なんだそりゃ?」


 (あれ、この世界にアサガオは無いのかしら)


 「えっとまあ、私の屋敷で育ててる花の名前で(嘘)、花言葉は『友情』とか『結束』とかそんな感じなんだよね(本当)……」


 「ふーん……ま、あたしは異論無かよ」


 「それじゃあ、チーム:アサガオ(仮)で登録するわよ」


 「……はい、ありがとうございます。これでチーム登録は完了いたしました。大会が終わるか敗退するまでチームメンバーの変更はできませんのでご注意ください。そしてこちらが今大会のルールと宣誓書になります」



 と言われ、2枚の紙が皆に渡される。



 「宣誓書……ですか?」


 「はい。こちらに本人の同意のサインをしていただき、大会当日に本部に提出してもらいます。それによって、本部で出席状況等が確認できるというわけです」


 「……出さなかった場合はどうなるのですか?」


 「その場合は残念ながら、大会不参加及び未出席という扱いになりますね。と言っても、ただ宣誓書にサインするだけですので難しいことは何もございませんよ」


 「なるほど、わかりました……皆聞いたわね? 今日は帰ってすぐこの宣誓書にサインをすること。そしてルールと宣誓書によく目を通しておくこと」


 「は〜いっ!」


 「あぁ、わかった」


 「ブ、了解ラジャー!」


 「……あのこれ、あっしも見ておかないとダメ……ですよね?」


 「………………ジーッ(無言の圧力)」


 「…………ででで、ですよね! ももも、勿論、姐さんに言われずともわかってますよ! えぇ!」


 「……今日一日は資料の読み込みの時間にしましょう。特訓は明日からでいいかしら、アリシア?」


 「うん、それがいいと思う。じゃあ、解散!」




 そして放課後、授業を終えて自室に戻ってきた私は、早速朝貰った書類を自分の机で確認した。



 「え〜っと、どれだったっけ……あ、あったあったこれだ。できればこの書類はリナちゃんと確認したかったけど、まだ帰ってきてないからなぁ……先に1人で確認しとくか。っとその前に誓約書にサインだっけ」


 (スラスラスラスラ……)


 「……よし書いた。じゃあ次にルールの確認だね。えーっと……?」



 私は自分のベッドに座り、大会のルール書を注意深く確認する。



 『剣の持ち込みは可能。ただしチームメンバーの人数以上の剣は持ち込めない。また、刃の材質は木・石・鉄に限る』


 「えっ、鉄剣持ち込めんの? 危なくね?」


 『剣以外の道具は、1チームにつき3つまでなら持ち込み可能。ポーション類も道具に含まれる。ただし自身の体躯以上の大きさのものは持ち込み不可。また弓も道具の1つとしてカウントするが、矢や矢筒はこれに含まないものとする』


 「ということは、弓+矢で1セット、さらに矢は基本無制限と。なるほどねぇ……」


 『3つの道具を組み立てて自身の体躯以上の大きさになるようなものは、3つの道具それぞれが自身の体躯以下の大きさであれば持ち込み可能』


 「体躯が絡んでくるとなると、体の大きい人が有利だなこれ。極論を言えばハルk……緑の大男ならなんでも持てそうだね」


 『かばん類を持ち込む場合、試合前にその中身を確認する。鞄含めて4つ以上の道具があった場合、3つになるまで道具を減らさなければ試合に出られない』


 『試合前に身体検査を行い、それによって何かしらの道具が出てきた場合はこれを持ち込み道具として扱う。そして道具が4つ以上の場合、3つになるまで(以下略)』


 『現地で調達した道具は、持ち込みの道具には含まれない。現地の道具で剣を作る場合、剣の合計がチームメンバーの人数以上にならないようにする』


 『試合開始後の、外部からの支援は禁止。発覚した場合、そのチームは失格となる。観客が敵チームに妨害した場合も、その観客側のチームを失格とする』


 「真剣勝負に水をさすなってことですね。この辺結構しっかりしてるんだなぁ……」


 『試合開始後になんらかの不正があった場合(例:試合中に4つ目の持ち込み道具が判明する等)、ただちにその試合を中止にした後にそのチームは失格となる。失格になったチームの対戦チームは無条件で勝利したものとする』


 「これはなんと言うか……騙し合いと言う名の“人狼ゲーム”が始まるな……」


 『なお、不正等の監視は全て大会組織委員会が行っております。ご不満な点は大会組織委員会まで!』


 「…………ひとまず注意点はこんなもんか。でもまぁ、『バレなきゃ不正じゃな』……いやいやいや。さすがにスポーツマンシップは守んないと。で次は、基本的なルールの詳細確認だな……」


 『試合中、参加者は特殊な魔法アーマーによって守られるため、本体に直接ダメージが通ることは無い。ただし各部位のアーマーを攻撃した場合、ダメージによって本体の動きが制限される』


 「えと……つまり、体に傷がついたりはしないけど、頭を殴ればピヨって、足を殴れば動けなくさせられると……これは戦略の幅が広がるな……」


 『頭上に設置される魔法球は、ある程度魔法攻撃に耐性がついている。また、アーマーや魔法球は保有者とかけ離れたものなので、そこから魔力を供給することはできない』


 『魔法球が破壊されると、即座に自チームの再起リスポーンエリアへと転送される。この際破壊された魔法球は復活し、全体的に保有者の能力が向上する。ただしアーマーの防御力や魔法球の耐久力も同時に低下する』


 「なるほど。2回目完全にこれ狂戦士状態バーサークモードだな。『まだ私のバトルフェイズは終了してないよ!』とかできるんだろうか」


 『チームリーダーのストックを全て消費した時点でそのチームの勝利となる。ただしチーム内の初被撃破がチームリーダーだった場合、他のチームメンバーに能力ボーナスと、リーダーに耐久ボーナスが与えられる』


 「最初にリーダーを倒すと皆強くなっちゃうから、まずは周りのメンバーからやっつけてねってことか。これはいい調整だな」


 『チームメンバーからの攻撃により、自分の魔法球やアーマーがダメージを受けることは無い』


 「まあそりゃ、身内誤爆フレンドリーファイアで自分のリーダー倒して、それでチームが無双するってのが簡単にできるからなぁ……」


 (ぶっちゃけこの戦法は実際にやろうかなって思ってたけども)


 『チームにはそれぞれ、定められた自陣区域がある。この区域に敵チームは侵入できず、また特殊な魔法壁によって敵チームの攻撃が区域内に入ることは無い』


 「所謂いわゆる、“再起リスポーン狩り・リスキル”を封じる処置だね。こういうのを封じておかないと、一気にクソゲーになるからね、しょうがないね」


 『制限時間を超過すると、全参加者の魔法球は徐々に縮小していき、最終的に自壊する。またこの時のストックは強制的に1となるが、能力の上昇は無い。さらにサドンデス時の魔法球の耐久力は、限り無く低くなる』


 「…………んーと、こんなもんかな」



 私はルール書をそっと自分の机に置きに行く。



 「明日からの特訓は、主に立ち回り重視で教えるのが良さそうだな。とりあえずリナちゃんも帰ってこないし、やることも無いから寝よ……」



 再び自分のベッドに戻り、ゆっくりと寝転がる。そのまま目を瞑った私は、夜ご飯の時間にリナが起こしてくれるまですやすやと眠っていた。


 大会本番まで、残り14日。




 *特訓1日目……


 学校が終わった放課後、私たちは校庭で特訓をしていた。


 特訓……と言っても基本は立ち回りを考えたり、新しい技をじっくり開発していただけだったが。



 「……アリシア、その“魔法で作った動物みたいなやつ”、一体なんなんだ?」


 「これ? 文字通り『魔法動物マジックアニマル』って言う魔法だよ。もしかしたらこういうのできるかもな〜って考えてやってみたら、なんかできちゃって」



 と言って、水で作ったわしねずみを3人に見せる。


 この『魔法動物マジックアニマル』、実は『浄水龍ウォーター・ドラゴン』を作ろうとして偶然できた産物で、まさに「怪我の功名」である。



 「それ、何に使うと?」


 「ん〜……今のところはまだ攻撃用にしか作ってないんだよね。せめて『魔法動物マジックアニマル』が見ている視界がわかれば、これも偵察用として使えるんだけど……」


 「……『千里眼』のスキルなら、偵察用としても使えるんじゃないかしら」



 不意にカルマが口を開く。その言葉に、私はすぐ疑問を抱く。



 「でも、『千里眼』って魔法で作った動物にも使えるの? 無理だと思うけど……」


 「体の構造がしっかりしていれば、おそらくは機能するはずよ」


 「……本物に近ければ使えるかもってことね。うーん……」



 私は、『魔法動物マジックアニマル』で作った鷲と鼠の姿を消す・・・・



 「あれ、アリシアちゃんもう魔法解いちゃうの? もっと見ていたかったな〜」


 「ん? 解いてないよ?」


 「え? でもだって……」


 「見えないでしょ? ということは“テスト”成功だね」


 「テスト??」



 私は消した動物たちの姿を映す。するとそこには、姿を消す前の鷲と鼠の形そのものな『魔法動物』が現れた。



 「ど、どういうこと……?」


 「これはね、光学迷彩……じゃなくて、『霧隠れ』っていうスキルなんだよ」


 「き、『霧隠れ』? カルちゃんわかる?」


 「いいえ……少なくとも私は初めて聞いたわ」


 「これはね、自分から分離した魔法を限り無く透明にすることのできるスキルなんだよ、ほらサノちゃん、前に『蜃気楼』ってスキル教えてくれたでしょ?」



 『蜃気楼』というのは簡単に言えば残像を生み出すCスキルで、大気に映った幻が本物のように錯覚するが実際は別の場所にあるというもの。


 この『蜃気楼』、カルマから『トラップ』を教えてもらった時に、(もののついでで)サノから教えてもらっていたもの。使い勝手はまあまあ。



 「た、確かに教えたけど……?」


 「それで『蜃気楼』の研究をしている時にふと思ったんだ。『あれ? “無いものをあるもののように見せられる”んだったら、理論上は“あるものも無いもののように見せられる”んじゃない?!』って」


 「そ、それで技を仕上げたの?!」


 「できるかも、で普通いちから技を作るなんてそうそうできないわよ」


 「あぁ、あたしも最初に見た時は驚いたばい。やっぱアリシアは凄かよ!」


 (あれ? 私、また何かやっちゃいました?)


 「あー…………と、とりあえず、『私こういう技がやりたい!』っていうのがあれば、可能な限りは教えてあげられる……と、思う」


 「随分曖昧なのね」


 「そ、そりゃだって、私全部知ってるわけじゃないし……」


 「……ひとまず、私は今のところ特に無いわね。思いついたら、また相談するわ」


 「私もー! 強いて言うなら、アリシアちゃんが今やってる『魔法動物マジックアニマル』を覚えたいなーとは思うけど、なんかなんとなくわかっちゃったんだよね〜。こう……ムムム、ピカーン! って感じで!」


 (サノちゃん、相変わらずの天才っぷり……)


 「あたしも、今は特に無か。むしろ、アリシアに見てもらいたいもんがあっけどな」


 「見てもらいたいもん?」


 「えと……剣をこうやって自分の左後ろに置いて、でオーラを出すんだっけか?」


 「そ、その構え、もしかして『龍尾撃ドラゴン・テール』?」



 そこで私は驚きの光景を見た。リナは私が以前見せた『龍尾撃ドラゴン・テール』の構えを、なんと右手だけでやろうとしているのだ。



 「か、片手でやるの……?」


 「あぁ。両手でやんのは、なんか鬱陶しかったからな。それよりほら、おめぇら離れとけよ」


 「え、あ、うん……」


 「よし……行くぜ、『龍尾撃ドラゴン・テール』ぅぅっ!」


 (ブォォォォンッ!!)



 その掛け声とともに、凄まじい龍の尻尾を模したオーラが辺りを薙ぎ払う。この光景を、私たちはただ呆然としながら見ていた。そしてリナは、静かに笑っていた。



 (しーんっ……)


 (ポカーン……)


 「……っと、まあこんなもんやな!」


 (……マ、マジか……こやつもまた、2人と同じように天才じゃったかぁ……リナ・ベラングリフ、なんて恐ろしい子っ!)


 「なあアリシア、どうやった?」


 「……え、あ〜…………ま、まだまだだね。それ未完成なんでしょ(震え声)」


 「あー、やっぱアリシアにはわかっちまうかぁ。確かに、アリシアのやつにただ真空波・・・を入れただけのやつじゃまだ未完成だよな」


 「…………しん……くうは……?」


 「いや大したことじゃ無か。『龍尾撃ドラゴン・テール』を繰り出す時の剣の振りが真空波を作れることに気づいたから、そのまま技に組み込んだだけばい」


 「あっ、そう…………ふーん、やるじゃん……(引きつった笑み)」


 「……なぁ、そう言やずっと気になっとったんやけど、あいつ(キング)どこだ?」


 「あ、えっとね、キング……さんは、ちょっと頼みごとをしてもらってる」


 「ああ、そうなんか。まあ別にあいつが何かしないならそれでいいんやけどな」


 「あ、あはは……」




 *特訓4日目……


 休日ではあるが、きちんと怠けずに特訓をする。そういう日課。


 その日の特訓が終わった帰り道、私たち4人(キング抜き)は重そうに荷物を寮に運ぶ寮母さんに遭遇した。木箱の中に、様々なガラクタらしきものが入っている。


 それを見た私はすぐさま彼女へと駆け寄り、彼女が持っていた荷物のその内の一つを抱えて、彼女を手伝うことを表した。


 その後に続いて、私の後ろにいた3人が彼女の下に集まり、そして皆で彼女を手伝うことにした。



 「いや〜、皆ありがとう。助かるよ。このそこそこな量の廃材を1人で寮まで運ぶのはさすがに辛かったからね」


 「いえいえ、これぐらいなんのそのですよ! にしても……これなんなんですか?」


 「基本学校で出たゴミばっかさ。ウチの寮からも出るゴミと合わせて一緒に捨てるべきだ、って校長が言うもんだからさ。ま学校側も忙しいようだし、こればっかりはね」


 (うーん、さすがあの校長と言うべきか……)


 「……あの、一度この箱の中に何が入ってるか、見ていいですか?」


 「別に構わないけど、面白いもんなんて無いよ」


 「ありがとうございます! よいしょっと……」


 (ドサッ)



 私は持っていた箱を地面に下ろし、箱の中身を確認する。


 その中には、何に使われたのかわからない金属の棒、刃の無い剣の柄、使い古された大きめのアタッシュケース、木材等が入っていた。



 「……まだ使えそうな素材、いっぱいありそうですけど……?」


 「使えそうでも、使えない・使わないというのがほとんどさ。ここにあるやつは皆、捨てられるか分解されて別のものに使われる、そういうもんだよ」


 「なるほど……」


 (んー……こういうの見てると、凄く“もったいない精神”が湧いてくるんだよなぁ……)


 「……あの寮母さん。これ、使っていいですか?」


 「構わないよ。こっちとしてもゴミが減るのはありがたいからね。このガラクタは、全部寮の裏の廃材置き場に置いておくから、使いたければ使いな」


 「ありがとうございます!」


 「アリシアちゃん、それ何に使うの?」


 「んーとね……大会までにここにあるやつで、なんか“武器”が作れたらな〜……って」


 「武器?! それってどんなの?!」


 「まだ決まってないけど、こう……強い武器?」


 「それはざっくりしすぎでは……しかし、強力な武器というのは、確かに1つは欲しいわね」


 「なぁアリシア、その武器完成したらさ、あたしにも使わせてくれんか?」


 「いいよ。ただし手伝ってくれたらね」


 「うっし! 絶対やからな!」


 「うんうん、仲がいいのは良いことだね! それはそうと、早く荷物運んでくれない?」


 「「あっ……すみません……」」




 *特訓6日目……


 いつも通りの放課後にて。



 (バチバチバチ……)


 「ア、アリシアの“それ”、もしかして電気の魔法かしら……?」


 「うん、そうだよ。ほら、申し込む前の日に浮遊していた奇術師を見たでしょ? あの日から先生と相談してて、1人で地道に特訓してたんだ。それがやっと様になったから、今日はその初お披露目ってところかな」


 「すごぉ〜〜い!」


 「自分の適正外の属性魔法を、しかもたった7日でここまで仕上げるなんて、やはり貴女は最高ね」


 「さっすがアリシアやな! これなら優勝も間違い無かよ!」


 「何度も言ってるけど、優勝したいなら私だけの力に頼らないこと! これ(電気魔法)だってまだ未完成だし……」


 「未完成でもできるんならいいやん! なあ、電気:属性付与エンチャント……あー、『雷:属性付与エンチャント』ってできるんか?」


 「どうなんだろ。多分できr」


 「姐さぁ〜ん! 頼まれてた“もの”、取ってきました〜!」



 キングが手を振りながらこちらに向かって走ってくる。私たちは、一瞬彼のほうを見た。



 「チッ、うるせぇやつが帰ってきやがった」


 「(タッタッタ……)姐さん、これが依頼の“品”です! どうぞ!」


 「うむ。よきにはからえ」


 「ははーっ」


 「……ねえアリシア、彼に何を頼んでたのかしら?」


 「“出場選手のデータ”だよ。『情報を制する者は勝負をも制する』ってどっかの誰かも言ってたからね。これで少なくとも対策はできるはず」


 「確かに対策は必要ね。魔法対策ならこの間習ったばかりの、障壁バリア系の防御魔法を完璧に仕上げたほうがいいと思うわ」


 「えー? 私守るの嫌ーい。だったらまだ新しい攻撃魔法を覚えたほうが良くない? 例えばカッター系の魔法とか!」


 「サノ、貴女はいつもそうやって……」


 「でもね、サノちゃんの言うこともあながち間違いじゃないんだよね」


 「あら? そうなの?」


 「うん。『攻撃は最大の防御』とか、『先手必勝』とか言うからね。まあでも、無理に攻撃魔法を覚えろとは言わないよ。そこは個人のプレイスタイルと相談だね」


 「なるほど……アリシア、やはり貴女の言葉は参考になるわね」



 と言いながらカルマは深く関心する。褒められて悪い気はしないし、むしろ役立ってくれてるのなら嬉しい限りだ。



 「ねぇねぇ、そう言えば武器はどうなったの?」


 「現在進行形で制作中だよ。作るのにだいぶ苦労してるから、今は手が空いてる時に校長に手伝ってもらってるとこ」


 「何作ってるの? 大剣? クロスボウ?!」


 「ちーっちっち〜。そんな生温い武器じゃなくて、もっと大それたものだよ」


 「大それたもの? もしかして変形する双剣とか?!」


 「もっともっと上だね。まったく、サノちゃんは単純なやつばっかり。想像力が足りないよ」


 「むぅ〜……ねぇなんなの、なんなの??」


 「それは、当日のお楽しみ」


 「んむぅ〜……」


 「……ところで、リナはどこに行ったのかしら?」


 「えーっとね、リナちゃんなら『てめえを見てっと苛つくんだよ。ちょっとつら貸せや』って言ってキングさんと組手に行ったよ」


 「いつの間に……」


 「まああっちはあっちでなんとかするでしょ。それより今日の特訓は、新しい技の開発と研究、あとは接近戦についてやるよ」




 *特訓10日目……


 放課後、私は部屋でリナと一緒に立ち回りの確認をしていた。



 「……つまりあたしは、撃たれた魔法攻撃をできるだけ切り払う。で足を重点的に攻める、と。つまりそういうことやな?」


 「そう。つまり、そういうことさ」


 「それはわかった。でも肝心の連絡手段はどうすんだ? 魔法機なんてここじゃ買えねぇし……」



 魔法機……まあ簡単に言えば、魔法で稼働するこっちの世界バージョンの携帯とかカメラのことだ。



 「そうなんだよね。狼煙のろしも、伝書鳩もやるのに手間がかかるし……」


 「のろ……なんだそれ?」


 「あっ、気にしなくていいよ。こっちの話。ともあれ、連絡手段が無くてまずいのは事実だし……何かいい方法は無いかな?」



 と考えていると、ふと私たちの部屋の扉がノックされた。そして次の瞬間には、サノとカルマの2人が入ってきていた。



 「アリシアちゃん、リナちゃん、遊びに来たよ!」


 「サノちゃん。カルマちゃんも」


 「2人とも、何をしていたの?」


 「えっとね、本番の立ち回りとか、連絡手段はどうしようかって話をしてたところなんだけど……カルマちゃん何かいい方法知らない?」


 「……立ち回りは知らないけれど、有用な連絡手段なら知っているわ」


 「えっ、ほんとっ!?」


 「ええ。“共鳴貝”……ハウリングシェルと呼ばれるものを使えば、離れた2点間での連絡が可能になるわ」


 「おっ、それ知っとるよ! 『ある特殊な手順をふめば、一方の貝殻に聞こえた音が、もう一方の貝殻にも伝わって聞こえる』ってやつやろ?」


 「そんな便利なものが……それって、この近くで売ってるの?」


 「売ってはいるわ。ただ……」


 「お金が高い、と」


 (ぶっちゃけ家の人に頼めば買えそうではある。ただ今後の連絡用として使うにしても、なんか違う気がするんだよなぁ……)


 「……ちなみに聞くけど、共鳴する前の共鳴貝って売ってる?」


 「そっちは安価で売っているわ。でもただの貝と同じよ? それに共鳴貝にするには、かなり特別な魔法が必要だと聞いたわ。素人がやるのは無理よ」


 「へぇ〜……」


 「まさか自分で作るつもりなの?」


 「んー、やれるだけやってみようかなって。できなかったら、その時はアクセサリーとかにするよ」


 「そう……?」


 (特別な魔法、ね……現物をまだ見てないからなんとも言えないけど、その特別な魔法……もしかしたら私知ってるかもしれない)


 「あっそうだ! せっかくサノとカルマの2人がいることやし、こいつらにもアリシア流の立ち回りを教えてやったらどうだ?」


 「うん、それもそうだね。それじゃあ2人の基本的な立ち回りなんだけど、サノちゃんは攻撃と運動重視、カルマちゃんは防御重視のスタイルだったよね? それなら…………」



 話している内に時間はあっという間に過ぎ去っていき、気づいた時には既に辺りは暗く染まっていた。


 サノとカルマの2人と解散した後、私はその夜近くの売り場にて、共鳴する前の共鳴貝を3セット購入した。




 *特訓11日目……


 この日は校長から共鳴貝の作り方を聞いただけで、特にこれと言った特別なことは無かった。


 そしてやはり私の思ったとおり、共鳴貝の仕組みは“現代の人にとってかかせないあるもの”とほぼ同じだった。


 確かにこれは、異世界の人からしてみれば特別な魔法だと言える……かな?




 *特訓13日目……


 いよいよ大会を明日に備え、大会参加者の雰囲気がだいぶ緊張した感じになってきた。かく言う私たちもそうだ。


 大会の前日というのは人によってまちまちだけど、私たちは明日に向けて近所の野原で最終調整を行っていた。ついでに言えば例の“武器”も完成しているし、もう実用段階にまで入っている。



 「アリシアちゃん、それが例の“武器”?」


 「そう。その名も……“超電磁砲レールガン”!」



 と言って、廃材で作った超電磁砲レールガンを3人に見せる。


 この超電磁砲レールガンの特徴として、まず全てのパーツが連結しているため、道具制限で無駄に消費しなくてすむ。取っ手は刃の無い剣の柄。


 砲身となる2本の金属の棒は長く、そして平行につけられており、また囲いもつけられている。その下には固定台座が付いているが、ぶっちゃけこれが無いと割と辛い。


 驚くべきことに、この超電磁砲レールガンはなんと畳むことができ、全部畳むときっちりしっかりとアタッシュケースの中に入る。


 つまり普通のアタッシュケースを開けて中身を展開すると、お手軽に超電磁砲レールガンが作れるのだ!



 「れーるがん? 何それ?!」


 「ふっふっふ、ふが3つ……これは校長監修の下作った、私だけの超電磁砲レールガン! “only my railgun”……」


 「で、どう使うと?」


 「まあ見ててよ」



 弾を打ち出したその瞬間、凄まじい音とともに1本の太い木が倒壊する。



 (メキメキメキメキメキ! ……バターンッ!!)


 「す、すげぇ……これが“超電磁砲レールガン”……!」


 「は、速くて弾が見えなかったわ……アリシア、一体何をしたの……?」


 「教えたところで、多分わからないと思うけど……」


 「と、とにかく、これがあればどんどん勝てちゃうよっ!」


 「あー……うん。私としても連続使用したいのはやまやまなんだけど、これ使うと疲れるんだよね……」


 「そっか〜。でもその分私たちが頑張ればいいんだよね!」


 「理解が早くて助かるよ……」


 「その超電磁砲レールガンは確実に私たちの切り札になるわ。ここぞという時に使うべきかもしれないわね」


 「うん、そうする……」



 準備は整った。あとは本番に臨むだけ。


 大会本番まで、残り1日。



 「対策もした、調整もした、仕上げもした。もう、何も怖くない!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オタクな俺は異世界では女勇者として生きていく @2kaidyoru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ