第14話 私と元不良とお嬢様

 ある日、サノ、カルマ、そしてリナと登校していた時のことだった。



 「姐御あねご! 鞄をお持ちいたしやす!」



 目の前で膝をついて私の鞄を持とうと手を向ける、黒髪丸刈りでピシッと服の整った年上男子と、その様子に困惑を隠せないでいる私。



 「……一体どういうことなの……」



 この状況に、すっかり仲良くなったサノ、カルマ、リナたちも驚いたり困惑したりしていた。


 いやまさか、寮に入ったその日の夜、つまりリナとの組み手の後の共同浴場でこの4人が一堂に会するとは思いもしなかったな。「その内紹介する」の「その内」がこんなに早くなるなんて、普通は想像つかない。


 そういうこともあり、現在に至るまで私たちはお互いに親交を深め合い、仲良くなって初めての登校日に寮から一緒に登校していたのだった。



 「そちらにいるのは、姐御のお友達でございますよね? 教室に着くまでの間、あっしが全員の鞄をお持ちいたしやす!」


 「いやいやいやいや、その前にあの……貴方誰ですか?」


 「え? もしかして、あっしのこと忘れたんですか?」


 「忘れたも何も初対面なんですけど」


 「……まあ初めましての方もいるようですし、改めて自己紹介をば……あっしの名前はキング、姐御に喧嘩売った不良のリーダーでございやす」


 「私に喧嘩売った不良のリーダー…………? って、えぇぇぇぇぇっ!? もしかして、私に2回挑んで負けた、あのチャラチャラしてた不良……?」


 「はいっ! その通りでございやす!」


 「それがこれって……待って待って頭の処理が追いついてないんだけど……」


 「…………貴方がもし本当にあの不良のリーダーだとしても色々聞きたいことがあるのですが、まず1つ。なぜ貴方はしばらく学校に来ていなかったのですか?」


 「あっしは姐御に2度も負けて、やっと気づかされたんです。いくら自分の力を誇示していようが、勝てないものには勝てないと。いくら他人より優れた力があろうが、それを有効に扱えないのでは意味が無いと。そして、今までのあっしたちはまさしく悪の権化だったと。それらを知ったあっしは」


 「なぁ、それいつまで続くと? いい加減本題を話せや」


 「……あっしは姐御の強さ、精神、人柄に惹かれたんです。そんな姐御の役に立ちたい、しかしこのままでは姐御の傍に相応しくない。だからあっしは、修行して心を入れ替えて戻ってきたんです」


 「…………うん、ひとまず経緯はわかった。とりあえずその、“姐御”呼びはやめてくれます? なんか嫌なので」


 「そ、それじゃあ、“姐貴”はどうですか?」


 「それも駄目。と言うか貴方って私より年上なのに、私に対して“姐”っておかしくないですか?」


 「どこもおかしくないですよ! 姐貴に対して“姐貴”と言うのは、至極当然のことでございやす! しかし“姐貴”が駄目となると……いっそ“ねえさん”というのはどうでしょう?」


 「…………もう(めんどくさいから)それでいいよ……」


 「なぁアリシア、こいつ放って先に行こうぜ。構うだけ時間の無駄ばい」


 「うん、そうだね……」



 リナの一言で、今まで止めていた足を動かして私は歩き始めた。その後ろを軽快な調子のリナと、少し困惑した様子のサノとカルマが着いてくる。


 しかしキングのことが気になったので後ろを振り返ってみると、やはり彼も私たちに着いてこようとしていた。



 「姐さん! あっしもお供させてもらいやす!」


 「せからしか! てめぇ着いてくんなやぁ! 痛い目に逢いてぇんかぁ?!」


 「まぁま、そう言わずに……」


 「……アリシア、私この人が嫌になったわ。だから」


 「……あー、うん、なんとなくわかった。私は何も見ないし、何も聞かなかったことにする」


 「アリシア、ありがとう…………ごめんなさい、『凍結フリーズ』……!」



 この状況に耐えかねたカルマが、彼の足元に向けて『凍結フリーズ』を放つ。すると見る見る内に彼の足元は凍りつき、そのまま動かせなくなった。



 「おわっと!?」


 「さんきゅーカルマ。こいつが動けん今の内に、早く学校に行くぞ!」


 「「う、うん!」」

 「え、えぇ……」



 こうして私たちは、リナに促されて駆け足で学校まで向かった。案の定カルマが途中息切れで動かなくなったりもしたが、なんとか全員学校に着くことができた。




 昇降口を過ぎると、何やら掲示板の周りで人だかりができていた。気になった私たちは、その人だかりに近づく。



 「……これ、なんの騒ぎ?」


 「えっと…………『第14回アルタイル・バトル開催決定!』だって!」


 「あら、もうそんな時期なのね」


 「アルタイル・バトル?」


 「最近始まった学校の一大イベントで、2年に1度この時期に開催されるチーム対抗トーナメントのことよ。優勝チームにはとてつもなく豪華な景品がメンバー全員に送られるの」


 「とてつもなく……ってことはお金とか?」


 「確かにお金が景品の年もあったけれど、それよりもさらに凄いものがあったわ。そりゃもう、一度には言えないくらいのね」


 「そ、そうなんだ……」


 「ちなみにアルタイル・バトルは5人1組でチームを組んで出場するんやけど、優勝チームには景品の他にも、王都ドライエクで開催される冒険者バトル大会にも出場する権利が貰えるたい! そこに出れば、そりゃあ一気に有名になるやろうな」


 「へ〜、そうなんだ。ちょっと興味あるかも……」


 (ドライエク……?)


 「おっ? アリシア、これに興味あると? ばってんこげんもんに出んくても、おめぇは十分有名やけどな! ま確かに、これにはあたしも興味あるけどよ」


 「……基本誰でも無料で参加できるし、参加賞だって貰えるわ。だから参加して損は無いけれど……サノ、その紙に何か書いてあるかしら?」


 「ん〜とね……んんーーー、人が多くてよく見えないよ〜!」


 「……放課後にでもまた確認しましょう」


 「やったら放課後、ここに集合な! じゃあたしは、校舎反対だからそろそろ行くわ」


 「うん、また放課後ね」



 そう言ってリナは剣術科の校舎へと歩き出し、この場に魔法科の3人が残った。



 「そろそろ私たちも行きましょう。ほらサノ、貴女も行くわよ」


 「あっ、ちょっと待って〜」



 2人の後を着いていくように、私も教室へと向かう。道中他愛もない会話で盛り上がったりもした。


 しかしこの時の私は、密かに私を傍観する影たちに気づかないでいたのだった。




 やがて何事も無く放課後になり、再び私たちは人の少なくなった掲示板の前に集まる。



 「えぇっと、なになに……? 『今回のバトルは総力戦。広大なフィールドを使ったチームバトルを勝ち抜き、頂点を目指せ!』……だって!」


 「総力戦?」


 「チームのメンバー全員が戦うバトル形式で、先に大将を倒したほうが勝ちっつうルールやな。スキルや魔法を駆使して、相手の頭上にある競技用の魔法球を壊せば相手を倒せるってだけの、単純なルールたい」


 「なるほど……」


 (うーん、説明だけ聞くとサバゲー(サバイバルゲームの略)のルールみたいだな……)


 「あっ! 今回『ストック2制のサドンデス有り』みたいだよ!」


 「ストック2……ってことは1人につき残機が2つあるって感じに捉えていいのかな? サドンデス有りは、制限時間内に決着がつかないと極限モードに突入する…………でいいんだよね?」


 「詳しくは知らんが、まあそんな感じやろ」


 「う〜ん……聞いた感じ凄く面白そうだなぁ。自由に参加できるんだったら、私たちも参加してみる?」


 「今ここにいるメンバーでチームを組んでも、あと1人足りないわよ。そこはどうするつもりなのかしら?」


 「んー、なんとかなるでしょ。探せば1人ぐらいすぐに見つかるって」


 「アリシアの言う通りやな! 1人見つかればもう出られるんだ。やったら参加するしかなかよ!」


 「……それもそうね。いいわ、2人がそこまで言うのであれば、私もこれに参加するわ。サノはどうかしら?」


 「……うんっ! 私も参加したい!」


 「決まりね。問題は残りの1人を誰にするかだけれど……」



 とカルマを中心にアルタイル・バトルの話をしていると、突然後ろから「お〜っほっほっほっ!」と高笑いが聞こえてきた。


 気になった全員が後ろを振り向くと、そこには見慣れぬ3人の、それも私たちより年上ぐらいの女子が立っていた。


 1人は明らかに高飛車お嬢様な縦ロールの子で、他の2人は明らかにその縦ロールを中心とした取り巻きだった。



 「貴女……アリシア・クーゲルバウムさんですわね?」



 縦ロールの子が私に向けて口を開く。問いかけられた質問に、警戒しながら私は答える。



 「え、えぇ……そうですけど、貴女は……?」


 「あら? わたくしのこと、憶えていらっしゃらないんですの? これでも貴女の家のライバル侯爵の娘ですし、3年程前にもお会いしていますのよ?」


 「お、憶えてないです……」


 (と言うか初対面です)


 「あら残念。やはり、わたくしたちのことは貴女の眼中には無いのかしら?」


 (眼中に無いっつうか初対面なだけなんだよなぁ……)


 「フローラ様、折角ですし、アリシアさんとそのお友達の方々に、フローラ様のことを教えてあげてはいかがですか?」



 取り巻きの1人が口を開く。取り巻き……と言うよりもフローラと名乗る彼女の玉の輿になりたい内の1人、と考えるほうがいいのかもしれない。



 「えぇ、それもそうですわね。では、アリシアさんとそのお友達の皆さんも、よぉ〜くお聞きになりなさい」



 縦ロールがそう言葉を発すると、ほんのしばらく私たちの周りが静かになった。そして静かになったタイミングで縦ロールが喋り出す。



 「……わたくしの名前はフローレンス・スフィーナ。貴女のお父様と同じ侯爵である、ネスト・スフィーナの娘で、『7−A』クラスの学級長ですわ! わたくしのことは、フローラと呼んでいただいても構いませんことよ」


 「は、はぁ。それで、あの、フローラさんは私になんの用なんですか……?」


 「貴女がた、アルタイル・バトルに出場されるのでしょう? 実はわたくしたちもそれに出場しますの。そこで1つどうでしょう? この戦いでどちらの侯爵家の実力が上か、はっきりさせようじゃありませんの!」


 「……侯爵家に上も下も無いのでは……?」


 「いいえ、おおありですわ! わたくしのお父様は、商売や影響力といった様々な所で、貴女のお父様に一歩及ばず負けているんですの。お父様は気にしておられないけれど、一番の侯爵家はわたくしたちスフィーナ家ですわ! その為にも、アルタイル・バトルで貴女を負かしてスフィーナ家が上だと証明するんですわ!」


 (つまり対抗心で私に勝負を挑んできたと。うん、普通にくだらないね。同じような理由でも、ノインのほうがまだ納得できたよ)


 「……もしかして、その為だけにこれに出場するんですか? そんなの、理由が凄くどうでもい……じゃなくて、不純じゃないですか?」


 「勿論それだけではありませんわ! 今回のアルタイル・バトルは、あのアーサー様が来られるんですの! そしてわたくしは、激戦を勝ち抜いてアーサー様のパーティーに入れてもらうんですのよ!」


 「アーサー様?」


 「……あっ! ポスターの下のほうに、こんなことが書いてあるよ! 『今回、なんとあの超有名パーティー:セイクリッド・ランスがやって来る! とても頑張れば君もセイクリッド・ランスに入れるかも?!』だって!」


 「セイクリッド・ランス……確かこの王国の王子であるアーサー様をパーティーリーダーとした、自身も含めてSランク冒険者中心で構成されている超有名なパーティーじゃない! そんなパーティーがなぜ……」


 (じょ、情報が多い……にしても、王子様自身もSランク冒険者って凄いな……と言うかそうか。だからあんなに人が集まってたのね)


 「理由はどうであれ、あのアーサー様がこの学園に来られる。そしてそこで認められれば、アーサー様のパーティーに入ることができる! これはまさしく光栄の極みで、末代まで語り告ぐことのできるとても誇り高き自慢話なんですわ!!」


 「やけど、あたしらまだランクを貰うどころか冒険者にすらなっとらんし、んなもん参加を促すだけの口実に過ぎんやろ!」


 (おおっ、リナちゃんがまともだ。真っ先にこういうのに惹かれそうな感じなのに……)


 「いいえ、きっとアーサー様の下でお抱え冒険者になるんですわ! 仮にそうだったとしても、わたくしはアーサー様のパーティーに入りますわ! そしてクーゲルバウム家に完全勝利するんですわぁ! おーっほっほっほっほっほっ!」


 「その意気ですわフローラ様!」


 「頑張りましょうフローラ様!」


 「ありがとう、リンクさんにレイツさん。そういうことですのでアリシアさん……本番を楽しみにしておりますわ」



 そう言い残して、フローラたちはどこかへと行ってしまった。



 「……行っちゃったね」


 「これはつまり、喧嘩を売られたと解釈していいのかしら?」


 「良かたい良かたい。あっちが喧嘩を売るってんなら、あたしはきっちり買ってやるばい」


 「もうー、程々にね〜? でも……いくら私たちより年上でも、アリシアちゃんが負けるはず無いよねっ!」


 「ええ、そうね。アリシアなら、あの人たちなんて目じゃないわ」


 「そうやな! アリシアは強かけん、あいつらなんか瞬殺やろ!」


 「あ、あはは……(苦笑)」


 (うぅ、期待の眼差しが痛い〜。それに私だけが頑張っても勝てるわけじゃないんだよなぁ……とは言え勝つ理由は特に無いんだけど、負けた時にあれに見下されるのはなんかしゃくだしなぁ…………あ、そうだ!)



 唐突に1つの閃きが私の頭を過ぎる。



 「……ねぇ3人とも、折角こうして集まったんだし、作戦会議がてらどこか遊びに行かない? リナちゃんが加わってから、まだどこにも行けてないでしょ?」


 「あ、確かにそうだね! じゃあどこに行こっか?」


 「それなら、やはりチカモク堂かしら。この時間ならちょうどテラス席で食べられるはずよ」


 「良かね〜チカモク堂! あたし一度行ってみたかったんだよな〜」


 「私、久しぶりにバニラトッピング食べたい!」


 「よし、じゃあ早速チカモク堂に行こっか!」


 「「おーっ!」」


 「……もはや行くことが目的になっていないかしら……?」



 こうして私たちはチカモク堂のパンケーキを目指した。




 チカモク堂に着き、各々がパンケーキを注文してテラス席で皆と食べる。食べている間、軽い世間話や相談をしたり、談笑して盛り上がったりしていた。


 話が落ち着いた頃合いを見計らって、私はようやく本題を口にする。



 「……そろそろいいかな。本題のアルタイル・バトルについて、作戦会議をしたいんだけど……」


 「それならまず、残りのメンバーをどうするか考えましょう」


 「メンバーか……サノちゃんたちの知り合いに、誰か参加してくれそうな人っていないかな?」


 「ん〜……誰かいるかなぁ〜?」


 「いそうな気はするけれど、確認を取らないことにはわからないわね……」


 「あたしは…………わりぃ、皆あたしを避けとるけん、心当たりなんて無かたい。恐喝すんのもなんかちげぇし……」


 「私のほうでも学級長仲間の何人かに聞いてみるけど、皆チームに入ってそうなんだよね……」


 「学級長は強い人がなるもの、そりゃあ皆欲しいでしょうね」


 「……最悪、『私が貴方をセイクリッド・ランスに入れてあげる』っていう売り文句を掲げておけば、1人ぐらいすぐに見つかるかもしれないけどね……」


 「そもそも、アリシアはあのパーティーに入りたいんか?」


 「……興味は無い、と言えば嘘になるね。そりゃ入れるものなら入りたいけど、別にそんなに勝ちに拘ってはいないって感じかな。でも……」



 先程の高飛車なお嬢様の顔を思い出す。あの少し憎ったらしい高笑いが頭の中で反響するからか、私は不思議とフォークを持つ手が力んだ。



 「……あのフローラとか言うお嬢様から見下されるの、凄く嫌なんだよね。しかも、負けたら私だけじゃなくサノちゃんたちも見下すと思うと気に食わなくて……だから、できるならあの人たちに勝ちたい!」


 「……アリシアの意志は把握したわ。正直私はアルタイル・バトルにもセイクリッド・ランスにも興味は無かったけれど……彼女のあの態度、確かに鼻につくわね」


 「あの人に勝ちたいって気持ちは私も同じだよ! それに、アリシアちゃんたちと一緒に勝ち抜いてみたいし!」


 「あたしも大体同意見だ。勝てるもんなら勝つ! そしてあのお嬢様の鼻っ柱もへし折ってやる!」


 「皆……それじゃあ、残りのメンバー探しと特訓、頑張ろうね!」


 「うんうん! その意気でございやすよ、姐さん!」


 「……えっ?」



 全員が声のしたほうを振り向く。するとそこには、なぜかキングが腕を組んで立っていた。



 「どうも!」


 「えぇっ?! キング……さんがなんでここに?」


 「も〜、さん付けはやめてくださいよ〜姐さん・・〜」


 (どの口が言うとるんじゃ!)


 「てめぇなんかお呼びじゃなか、とっとと帰れっ!」


 「まぁそう言わずに。で、あっしがここにいる理由、でしたっけ? 簡潔にまとめるのであれば、学校終わりに姐さんたちを探していたら、美味そうな匂いで腹が鳴って、釣られて来てみれば偶然姐さんたちがいたってわけです!」


 「そ、そうなんですね……じゃあその、カルマちゃんが足にかけた『凍結フリーズ』はどうやって……?」


 「そりゃあもう…………気合、デスョ」


 「気合、か……(チラッ)」



 彼の言葉を聞いた私は、気になって彼の足をチラ見する。


 彼の足は、なんと言うか……凄く、悲惨な感じだった。頑張ったんだな、っていうのが見て取れた。



 「……うん、その……なんか、ごめんね? とりあえず、『回復ヒール』……」



 見かねた私は、彼の足にそっと『回復ヒール』をかける。数秒もしない内に、彼の足は完治した。



 「そ、そんないいですよ! あっしも、ちょっと姐さんたちにしつこくまとわりつきすぎたかな〜って思ってたんで……」


 (あっ、自覚はあったんだ)


 「ところで姐さん、さっきの話聞かせてもらいやした! あっしに何か手伝えることはございませんか?」


 「手伝えることって言ってもなぁ……貴方に頼むことなんて特にな…………ん? 待てよ?」



 彼はイキリ散らしていた不良の元リーダーだから強い。それに以前の彼を知っている人は安易に彼に話しかけることができない。ということは……



 「……なぁアリシア、最後の1人、もうこいつで良くねぇか?」


 「……うん、私もちょうど同じこと考えてた。けど……」



 私とリナの2人は、そっとサノとカルマの顔をうかがった。



 「……? あっ、私は別にいいよっ! ただ……私たちに乱暴しないでね……?」


 「あい、勿論でございやすっ!」


 「……私は彼のことをイマイチ信用できていないけれど、まあ数合わせとして考えるならいいのではないかしら。それに彼は実力も伴っているようだし……」


 「2人とも、ありがとうございやす! これであっしも姐さんのチームに入れるんですねっ!」


 「あ〜……勘違いしないでほしいんですけど、実のところ私も貴方のことはほとんど信用してなくて。だからカルマちゃんの言う通り、あくまで数合わせとしてチームに入れるだけ。特訓も、私は貴方とやるつもりなんか無いですから」


 「……それはつまり、あっしは姐さんのお友達となら特訓してもいいってことですか?」


 「そ。そこのサノちゃんとカルマちゃんは魔法科だから、対接近戦想定訓練とかそういうのを優しく教えること。リナちゃんは剣術科だから、別に本気で相手してもいいですけどね」


 「お、おい、アリシア……?」


 「わかりました! しかし、なぜ姐さんとは特訓できないんですか?」


 「まあ色々とあるんですよ。色々と……」


 「は、はぁ……?」


 (私と特訓して、『お前の手の内は全部見切った、今度こそお前に勝てる!』とかいう感じで挑まれると面倒だからなぁ。そりゃあ警戒するわ)


 「……ともあれ、これでメンバーが揃ったわね。メンバー登録には本人の署名が必要だから、明日の朝“全員で”受付に行くわよ」


 「じゃあ明日、受付前で姐さんたちを待っていればいいんですね?! わかりました!」


 「…………(絶句)」


 「……多分だけど、『調子が狂う』ってこういうことを言うんだろうね」


 「うん……」

 「だな……」



 なんやかんやあって、私たち(と+α)の作戦会議は終わりを迎えた。そして私たちが学生寮の帰路についていた時……



 「パンケーキ美味しかったね!」


 「リナ、今日はどうだったかしら?」


 「もう最高たい! 3人とも、あたしを誘ってくれてありがとな! あとは……“コイツ”さえいなけりゃ完璧だったんやけどな……」


 「ん? 誰のことを言ってるでございやすか?」


 「てめぇだよてめぇっ! いつまであたしらに着いてきよるっつかっ!」


 「いやぁ〜、夕暮れ時に女性だけでは不審者とかで危ないですからね。こうやって姐さんたちを不審者の手から守ってるんですよ」


 「あたしらにとっての一番の不審者はてめぇじゃいっ! てめぇ痛い目に逢いてぇんかぁ!? ガルルルルルルルル……」


 「リナちゃん落ち着いて! どうどう……」


 「サノ、あたしを犬とかと一緒にすんなや!」


 (いや、リナちゃんだいぶ番犬っぽさ出てるけどね)


 「……まったく、落ち着きが無いのも困りものね」



 そんな感じのやり取りをしながら皆と帰っていると、私は道の向こう側でふとあるものを目撃した。


 それはパフォーマンスショーで人だかりを作っていた、元の世界で言うところの大道芸人だった。


 その大道芸人の周りには色々なものや道具が浮いており、おまけに自分自身も浮いていた。と言うより、飛んでいた。見たところ紐のたぐいは見受けられない。


 私はそれに夢中になり、そしてその場に立ち尽くした。そのせいで後ろにいたキングが、突然の私の停止に対応できずにそのまま私にぶつかってきた。



 「(ドンッ)いてっ……ちょっと、どうしたんですか、姐さん?」


 「あっ、ごめん。あれ見ててさ……」



 と言って私は大道芸人のほうを指差す。


 さらにこのやり取りを聞いていたサノとカルマの2人も、足を止めて私のほうを向く。



 「……アリシア? どうしたのかし…………あら? あれは……奇術師ね」


 「すごーい! 飛んでる〜! 面白〜い!! (ピョンピョン)」


 「サノ、あまり飛び跳ねないでちょうだい。それにしても、奇術師があれだけの人を集めているところ、私初めて見たわ」



 大道芸人……もとい奇術師の周りには、男女問わず子どもからお年寄りまでの人たちが沢山集まっている。カルマが言うには、これは結構珍しいことらしい。



 「……ねぇ、あれってさ、何したらあーなるの?」



 私は興味本位でカルマに空中浮遊について質問した。



 「……そうね、電磁力と念力の合わせ技かしら。もしくはハイブリッド?」


 (電磁力と念力……ということは、電磁浮遊とテレキネシス? なんかどっちも似たようなものの気がするけど……と言うか、“電気”と“超能力”って何属性に分類されるんだ?)



 私はさらにこのことについて質問する。



 「……ねぇ、さらに聞いてもいい? その電磁力と念力って、何か属性があったりするの?」


 「どちらも風属性の魔法だったりスキルだったりするわね。ただ修得にはかなり訓練しなければいけないけれど、あの人は2つとも完璧みたいね」


 「へ〜そうなんだ……」


 (いいことを聞いたな。“電気”も“超能力”も技の開発に応用しやすいし、あの人の技をよく見ておこう)


 「さ、帰りましょう。道草をしていても仕方が無いわ」


 「えっとね〜…………そっちの2人見てみ?」


 「……?」



 と言って、今度はパフォーマンスに釘付けになっているサノとリナのほうを指差し、カルマもその方向を見る。



 「……2人とも、完全に見入っているわね…………ねぇサノ、それにリナも、辺りが暗くなる前に早く帰りましょう」


 「あ、わりぃ。ほらサノ行くぞ」


 (ぐいっ)


 「うわーん待って〜! あと1分、いや30秒だけでいいから見させて〜! ググググ……」


 「がっ、こいつ、ここから動こうとしねぇ! おいアリシア、サノ動かすの手伝ってくれんか?」


 「お困りのようですね。あっしで良ければ手伝いましょうか?」


 「てめぇはお呼びじゃなかけん、とっとと失せろやぁ!!」



 この時、私は思った。


 なんか、呼び止めちゃってごめん。でも私は、悪くないよね?



 「……はあ。今手伝うから待ってて」



 こうして私たちは死闘の果てにサノを帰路につかせることができた。強情にもサノがあの場から動こうとしなかったので、私とリナはどっと疲れてしまった。



 「…………はぁ、はぁ、NKT長く苦しい戦いだった……」


 「……なぁアリシア、あたしらどうして疲れとるんやろうな……」


 「知らな〜い……」


 「おや、そろそろ姐さんたちの寮が近くなってきやしたね。それじゃ、あっしはそろそろおいとまさせていただきやすっ!」


 「あぁ、うん、お疲れ……」



 さすがのキングでも女子寮までは着いてこないようだ。まあ、着いてくる恐怖に怯えるのがそもそもおかしいんだけどね。


 明日からはいよいよ大会に向けて猛特訓。その期待と興奮を胸に、私は皆に励ましのエールを送る。



 「……よし皆! 明日からの特訓頑張ろうね!」


 「「「おーっ!」」」

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