最終話 清算#2

 戦線が起こした一連の紛争は終結した。


 壊滅状態にあったリエト軍も、援軍が派遣されてきたことで戦力を取り戻した。

 住民たちも戻ってきて、街の復興を始めている。

 傭兵たちは新たな戦場を求めて、続々と街を発っていく。


 そしてそれは、シルビアとオリビアも同じだ。

 聖堂広場で、ルドヴィカはモニカと共に2人の見送りに来ていた。


「気をつけてね」


「はい、モニカも」


 モニカとオリビアが抱擁を交わしている。


「で、次はどこ行くのよ」


 それを横目に、ルドヴィカはいつも通りの口調でシルビアに訊いた。


「さぁな。とりあえず、戦線の連中を追いかけるつもりだ」


 今回の戦では、1人の男が姿を消していた。

 ジェラルドという、シルビアとオリビアの実父だ。


 つまり、ユリアの夫ということになる。

 それを聞いては放っておけなかったが、ルドヴィカにも傭兵団長という責任がある。今回の戦だって、自分の我儘に付き合わせて来たようなものだ。これ以上、彼らを付き合わせて、振り回すわけにはいかない。


「約束のことなら気にすんな」


 シルビアがユリアと交わしたをそれを指して言った。


「こいつは、娘のあたしらが負うべき役目だ」


 オリビアが頷く。


「あなたは、私たちをここまで育ててくれました」


 2人が見せた頼もしさに、不意にルドヴィカは目頭が熱くなった。

 つい最近まで自分の背中にくっついて歩いていたのに、いつの間にかこんなに大きくなっていたとは。


「そっちはどうすんだよ?」


 そんなルドヴィカの胸中など知らぬ、シルビアが尋ねてくる。


「決めてないわ。行き先は迷うくらいあるけどね」


 まだルドヴィカの目指す水準には至っていないものの、リュミエールの不死鳥はすでに最強と名高い。高い金を払ってでも雇いたい者は大勢いる。


「あたしも腕を磨いとくよ。お前の客を横取りできるくらいにな」


「ハッ、言ってなさい。もっと腕を上げたら団長でも何でも譲ってやるわ」


 笛が高らかに響く。乗合馬車が出発する合図だ。


「……死ぬんじゃないわよ」


 ルドヴィカは、どこかで言ったことがあるような文句を言った。


「また戦場で会おうぜ。味方としてな」


 2人が乗ると、馬車は広場を走り、通りへと消えていく。


「本当に、ついていかなくてよかったの?」


「バカ言ってんじゃないわよ」


 シルビアとの確執は消えたが、それと傭兵団全体との問題は別だ。

 ダミアンたち新参連中はシルビアの復帰など認めないだろうし、だからといってルドヴィカは抜けるわけにもいかない。


「あのね、私は本気で訊いてるのよ」


 そう言うモニカはまさに真剣で、それでもルドヴィカは「いいのよ」と流した。


「あんたが言う通り、あの2人は大きくなったわ。もう雛じゃない。私のいない間に、空の飛び方を覚えたのよ」


 雛鳥も巣も必要ない。


 これからは、自分たちの翼で飛んでいける。



 ――ねぇ、ユリア。



「……あんたの娘は、立派に育ったわよ」



 大聖堂の鐘が鳴る。



 双子の巣立ちを祝福するように。

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聖魔の姉妹 桜火 @PinkRathian

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