強い雨の日

雨世界

1 心から、君のことを愛しています。

 強い雨の日


 プロローグ


 心から、君のことを愛しています。


 本編


 みんなが幸せになる物語。……そういうのって、なんかすごくいいよね。


 その日、私は初めて人前で涙を流した。

 絶対に泣くもんか、と思っていたのに、……どうしても涙を我慢することができなかった。

 失恋が、こんなにも辛いものだとは、私は十六歳になる今日まで、まったく知らなかった。

 学校からの帰り道、二人は電車に乗って、移動をした。(青色の電車だ)

 いつもの(見慣れた風景であるはずの、でも、今日はどこか遠い場所に思えてくる)駅に着くまでの間、二人はずっと無言のままだった。


 電車を降りて駅に着くと、二人はそのまま駅を出て、駅前のところで、少しだけ立ち止まって、あなたは私に「さよなら」を言った。


 そしてあなたは、そのまま私の前からいなくなった。


 あなたが見えなくなるまで、私はずっと駅の前に立っていた。

 そして、空からは雨が降ってきて、私はその雨の中でわんわんと子供みたいに泣いた。

 ……また、大勢の人がいる前で泣いてしまった。(でも君はいつものように、すぐに私を助けに来てはくれなかった。それは当たり前だ。もう私たちは恋人同士ではないのだから。ただの友達。……ううん。きっともう、他人なのだから)


 そのまま私は雨の中を泣いたままで、家に帰ることにした。

 

 その日は、本当に強い雨が降っていた。


 今まで生きてきた中で経験する一番の強い雨だった。本当に、強い、……強い雨だった。


 嫌なことや辛いこと、というものは、重なるものなのかもしれない。

 その日の帰り道で、私は車に道路の水をはねられて、猫に威嚇をされて、そして、ずっと大切にしていたあなたからもらった手首に巻く、可愛い小さな花や木の実がついた、草木で編まれたようなデザインのアクセサリーをなくしてしまった。


 泣きながらずっと歩いていた私は、なんだかそんな風に嫌なことや辛いことが続いて、無性に腹が立ってきた。(なんだかすごく私は怒っていた)


 私は思わず、雨の中を走り出した。

 たった一人で、ずぶ濡れのまま、強い雨の中を全速力で走り続けた。


 周囲にいる人たちはそんな私のことを、この子はいったいこんな強い雨の日に傘もささずになにをしているだろう? といったような顔で見ていた。(うるさい。傘は持ってこなかったんだよ。だって、もし傘がなくたって、絶対に一緒に入れてもらえると思ったんだから、と私は思った)


 私はそのまま、自分の家まで全速力で走り続けた。


 そして「ただいま」と暗い声でいって、家の玄関のドアを開けた。

 ずぶ濡れの私を見て、お母さんはすごびっくりしていた。なんでびしょ濡れなの? 傘、途中で買ったりしなかったの? と聞かれたので、「別れたから。ちょっとむしゃくしゃして、走ってきた」とお母さんが手渡してくれた真っ白なタオルで髪を拭きながら私はいった。


 するとお母さんは「まあ」といって、ひどく悲しそうな顔をした。

 それから私は「ずぶ濡れになったからお風呂に入ってくる」といって、そのままお風呂場に直行して、あったかいシャワーを浴びて、熱い湯のお風呂に浸かった。(お風呂はすごく気持ちよかった)


 それからたくさん晩御飯を食べて、そのまま早い時間にベットの中に潜り込んで、長い時間ぐっすりと眠ろうと思った。


 明日、笑顔で「おはよう」って、あなたに言うために。


 なるべく早くに、……いつもの、私に、(あなたと付き合う前の私に)戻るために。


 雨は今も、真っ暗な夜の中で、激しい音を立てて降り続いている。


 ……目を閉じた私はそんな強い雨の音を聞きながら、負けるもんか。絶対に負けるもんか。と心の中で強く、まるでうまく眠れない日の、ぐっすりと、よく眠るための子供のころのおまじないのように、なんども、なんども、そう思った。(そして、私は眠りについた。安心できる眠りの中に、……ゆっくりと落ちていった)


 その日の夜、私はあなたの夢を見た。


 強い雨の日 終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

強い雨の日 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ