何時か来るその日まで

蒼弐彩

第1話

窓から差し込む光に僕はふと目を覚ました。

さわさわ動くカーテンの狭間から見える抜けるような蒼穹あおぞら、風に揺れる木々のさざめき、ゆらゆら揺れる木漏れ日と新緑。


 そして、静寂。


壁にかけられた時計を見れば既に昼過ぎ、僕はのっそりとベッドから熱っぽい体を起こしてベランダへ向かった。

そして手を叩く。


返事をするものは誰もいない。昨日も一昨日もそうだった。

きっと、明日も明後日もその先もそうだろう。


何時からだったか、今から思い出せばとても昔に思えるのだが、そう遠く無い昔、たった三ヶ月前のことだったか。

隣国で流行ったとき伝染病がこの国でも流行り始めたのは。

医療技術が進んだこの世界で感染病が人を殺すなど誰が現実味を持って思っただろうか?

あっという間にその病は広まって、病院は戦場と化した。


今から思えばあの時ああしていればと思うところは多い。


遊ぶ為に外に出るのはダメだけれど、会社には行けとか、そんな二重基準ダブルスタンダードでみんなそんなのいうこと聞くわけないのに、そして今日、遊びに出かける人よりも仕事に出かける人の方が多いのに。


緊急事態だと政府が発表した時には既に戦場には死者が溢れかえって誰も戦えなくなっていた。


手を叩くのは医療現場戦さ場で戦い続ける白衣の戦士を讃える為に、病に斃れた人々を悼む為、そして何より今日まだ生きている己を讃え、感謝するためだ。


 だから僕は手を叩く。


たとえ誰ももうこの音を聴くものが、自分の他にいないとしても、誰も生きていないとしても。


何時か、そう遠くは無い未来、自分が人生を辞めるときまで。

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何時か来るその日まで 蒼弐彩 @aliceberte

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