第5話 駒村
椅子に沈んだレオはひどく落ち込んでいる。今まで己を
「大公、ひとつ提案なのですが、公国領の
レオは駒村の意図が分からず、首をかしげた。
「養子に出したところで、結局は上限制度に引っ掛かるだろう」
「いいえ。上限制度は『日本国における公国領の吸血鬼を4万人と定める』です。どこにも『日本国の吸血鬼』とは書かれていません」
「それは、
「そうかもしれませんね。けど、違反ではないでしょうし、
一時的な
「血液はどうする?」
「吸血鬼一人に対して最低二人の人間がいれば、つまり両親が
「いやいや、待て待て。そもそも君たち人間に、吸血鬼が育てられるのか?」
「あっ、やはり違いますか?」
「基本的には人間と変わらないが、やはり我々には『
駒村はごくりと
「なら、養子に出すのは無理でしょうか?」
「親のどちらかを吸血鬼にすれば、できれば、母親がいいが…」
「となると、人間と吸血鬼との『結婚』になりますか。うーん…」
『結婚』という言葉にレオは頭を悩ます駒村を見た。
「駒村、きみは今付き合っている女性はいるか?」
レオの突然の問いかけに駒村は反応が遅れる。再度訊かれたので、『いない』と答えた。
「では、将来を約束した相手は?」
更なる質問に駒村は困惑する。『いません』と答えるとレオは背筋を正して、ある事を申し出る。
「では、駒村。我が妹シャルロッテと、結婚してくれないか?」
「………はっ…
……………はぁっ?」
思わず素の反応をしてしまった。したり顔のレオに対し、目と口を開けて驚く駒村。
「なっ、何をおっしゃってるんですか?大公!」
「上限制度の逃げ道として、人間の家に
「えーとっ、いや…あの、そう言い出したのは私ですが、何も私とシャルロッテ様をくっけなくとも…そもそもっ!身分が違いますし、シャルロッテ様のお気持ちも…」
混乱する頭で考えた言い分けがそれだった。他にも様々な問題はあるし、何より大公の思い付きに振り回される公女が
「日本の
「えっ、そうなのですか?」
「君を何度も誘うよう言われたし、二人で
「あれは相談を受けていただけですよ!それに、私は30歳です。こんな冴えないおじさんと結婚だなんて…」
「駒村!」
レオの
「私は君以上に信頼できる人間を知らない。日本に来て右も左も分からない私達に、親身になってくれた君だからこそ、妹を
吸血鬼の未来を築くために、協力してくれないだろうか?」
レオは深く頭を下げた。駒村は
「ふと、大公と初めてお会いした時のことを思い出しました」
レオは顔を上げて
「大公は
何かを落としたのかと様子を見ていると、土を拾い上げそれを
「あの時、大公は
そのまま花壇に生えていたら、薔薇に栄養を吸いとられて枯れてしまうとレオは
「あなたは足下に咲いた、小さな花を守りたかったのですね。
私にもそのお手伝いができるでしょうか?」
その優しい笑顔は出会った時と同じだった。地面を見ていたレオに駒村はドイツ語で挨拶をした。立ち上がってレオが日本語で挨拶し返すと、彼の
レオは無言で手を差し出す。駒村はその手を握り、強く
「そうだ。ひとつ条件を出してもいいですか?」
「いいぞ。何でも言ってくれ」
「公も子供をつくってください」
駒村の意外なお願いに今度はレオがぽかんとした。
「差し出がましい事だと思いますが、公妃様が気にされているそうで」
「あっ、あっははは。君にそんな事を言われるとはな。そうか、私はどうも一人で抱え込み過ぎたようだ。ソフィアを不安にさせたのだな」
「すみません。こんなこと」
「上限制度が改定されるまでは、子供はつくらない気でいたが、君達が結婚するなら取り敢えずはいいとするか」
『はい』と
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