とりあえずステータス!

 三日程前だった。デイルトンのギルドに所属していた私は、スライムの討伐依頼をこなすため近隣の森へと出かけていた。そこへ、運悪く普段は出没しない強力な魔物が現れたのだ。

 勿論、異世界転生者であれば強力な魔物であっても、チートスキルでお茶の子さいさいだ。

 

 問題があるとすれば、私がある程度の規模を超える魔術を制御が出来ないという点にある。


 結果。手加減出来ないくらいには強かった魔物は跡形もなく消し炭となり、結構な範囲の森も消し炭となった。


 幸い町への被害は無かったが、森は貴重な資源の宝庫。その周辺で生活する者からしたら、自分たちの家を焼かれたのと同じなのだ。


 挙句。私は、寡黙なギルド長の地面にめり込みそうなほどの必死の土下座をまえにして、親の土下座している姿を見てしまった時の子供の様な申し訳ない気持ちになりながら、深く謝罪をし、そのギルドを去っていったのだった。



 ※※※



 藪から蛇であった。まさかラジオもテレビもスマホも無いこの世界で(妖精通信というものはあるが)、自分の噂話が約30Lcrエルクラン(約30㎞)も離れている辺境の町にまで流れてくるとは思っていなかった。

 

 「やっぱりそうだっか。なぁにが“ぎくッ”だたわけ!田舎の情報網をなめるなよ。いいか、俺は、寛大だから今までお前がどんな人間だったかは問いはしない。だが、これからは違う。俺とギルドに迷惑が掛からないよう、容易くチートスキルなんぞ使わせんからな、覚悟しておけ!!」

 「そんな人を疫病神みたいに言わないで下さい」

 「ふん。貴様らはもっと自分の持つ力について関心を持つべきなのだ。そうすれば、少しは世の為人の為に……、おっと――、そろそろか」


 気が付くと、樹海に入ることができる獣道に着いた。


 「よし、ここから樹海に入るぞ。その前にこれを身体に吹き付けておけ」


 オズさんは荷物袋からなにやら霧吹きのような物をを取り出して、私に渡した。


 「何なのですか、これは?」

 「虫除けだ。知らんのか田舎者が」


 どちらがですか……。


 「それでしたら私は、“虫除けの加護”を持っているので必要ありません」

 「――?お前に付与されていた加護だったら、さっきの決闘で剥がれただろうが、パリンって音がしていたろ、気付いていなかったのか?」

 「ちょ、ちょっと待ってください!初耳なのですが!!」


 そういえば、パリンとは聞こえた気がした。どうやらそれは加護が剥がれる音がだったらしい。

 というよりも加護って剥がせるのですか……。


 「当たり前だ。今言ったからな」

 「どうして、そのような大事なことを……」

 「俺にとってはどうでも良いことだ」


 オズさんは、悪びれも無く答えた。


 「そんな無責任な……、“情報開示ステータス”」


 私はそう言って、正面に手をかざす。

 すると、何もない空間に半透明の光るウィンドウが現れた。




 能力値 筋力A+(Ⅾ)魔力EX(B)知力A(B+)敏捷S(C―)幸運C+

 魔導紋 星竜の魔導紋

 特殊技能 毒耐性S

      梟の魔眼A+

      魔導鑑定の魔眼B

 加護 なし

 保有チートスキル 領域開放グロリアス・オーダー

          多重式展開魔術クライムアンドパニッシュメント

          無限収納アイテムボックス

 習得魔術 ブラスティア・ボルト

      アクシオン・ボルト

                ・

                ・

                ・




 「うわぁ……、本当に加護が何もなくなっているではないですか」

 「どれどれ――、いつ見ても貴様らのチートスキル名はなんというかアレだな……」

 「――って何、自然に覗き込んでいるのですか!セクハラですよ!!セクハラ!!!」


 私は咄嗟に、現在の本名やスリーサイズなどの重要な個人情報の部分を手で隠す。


 「何が“せくはら”か!こちとら未だに時代遅れの封建社会じゃ、“せくしゃるはらすめんと”の“せ”の字も存在しないわ!!」

 「……あの、……見ましたか?」

 「――?何のことだ?」


 この反応は、私が皇女だということは、バレていないようだった。

 もし、バレでもすれば、流石に面倒事を嫌うオズさんに今度こそ追放され兼ねないのだ。

 それはそうと、何かがおかしい。僅かな違和感が背筋をなぞった。


 「……オズさん。なぜ日本語が読めるのですか?」


 そう、私のステータスは、日本語表記なのだ。と言うか先ほど私が口走ってしまった“セクハラ”という単語にも反応をしていた。

 たまに、うっかりこの世界に存在しない概念の言葉を使うと、皆頭に?を浮かべた感じになるのだ。


 しかし、オズさんは。


 「ふふん、俺にかかれば日本語くらい朝飯前に決まっているだろう!それと自慢では無いが、嗜む程度に英語・どいつ語・らてん語もいけるがな!!がははははは!!!」


 ドヤ顔でそう答える。


 「ええ……」


 チート乙。と、口からこぼれそうだった。

 未だ謎多きこの青年は、異世界転生者なんかよりも異質な存在なのは間違いなかった。

 ただ頭の中に?を抱えるよりも、最早、在るがままを受け入れた方が精神衛生的には良いのは、間違いなさそうだった。

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異世界転生者は無双ができない。ー魔法使いの金言ー ぷ。 @onion700

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