モノクローム

 使い古した黄ばんだ紙に 新しいインクをこぼしたような恋だった


 僕は世界の終わりを何の感慨も持たないまま眺めていて

 それだけで何だか疲れてしまっていたから

 色鮮やかに見えていたはずの景色に

 いつの間にか数えきれないほどの色が落とされていて

 空の青は青ではなく 雲の白も白ではなく

 淀んで混じって汚くて 綺麗なものはどこにもなかった


 穏やかに眠るように死んでしまいたい

 明日が訪れることが疎ましい

 僕はいつからこうなってしまったのか

 もうわからないけれどそれでもいい

 淡々と 淡々と 適当に筆を滑らせる日々は

 別に死ぬほどつらくはないし

 生きていたいほど情熱はない

 どうしたって僕は人間にはなれない




 使い古した黄ばんだ紙に 新しいインクをこぼしたような恋だった


 僕は世界の終わりを何の感慨も持たないまま眺めていて

 それだけで何だか疲れてしまっていたから

 色褪せて見えていたはずの景色が

 いつの間にかじわじわと君の色が混じっていって

 空の青は美しく 雲の白は眩しくて

 道端の雑草がわずかに花を咲かせていたところで

 君の人生には何の関わりもないのに


 穏やかに眠るように死んでしまえたら

 明日が訪れることを知らずに眠れたら

 軋んでいくことが嫌でたまらない

 綺麗なものを思い出したくなかった

 淡々と 淡々と 描き続けたつまらない景色の中

 君は確かに異物だった

 僕にとっての琴線だった

 僕は人間にはなりたくなかった




 世界の終わりのその景色を忘れられないほど鮮やかに染めるなら

 僕より先に筆を折るなんて

 そんなことは絶対に許さない

 身体中ひび割れるように痛むのに

 穏やかに微笑む君を許さない

 使い古した黄ばんだ紙にいくら色を塗り重ねても

 結局淀んだ黒にしかならないはずなのに

 僕はこんな痛みを知りたくなかった

 僕はこんな涙を知りたくなかった

 褪せたままの世界でいたかった

 それなのに


 君が好きだと話していた美しい空を

 そこに流れる眩しい雲を

 立ち止まった時の道端の花を

 夢のような綺麗な色で君の好みに描き上げる

 僕はきっと後を追えないのだろう

 君のいない世界で淡々と

 君のいない景色を褪せた色で描くのだろう

 君といた僕は恐らく人間だった

 新しいインクは時間とともに劣化して

 使い古した黄ばんだ紙に馴染んでいく

 そのうち僕が役目を終えた時には

 また懲りずにインクをこぼしてほしい

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