透明人間


 僕は透明人間

 誰も僕に気付かない

 僕は透明人間

 誰も僕を見付けない

 ざわざわと音に溢れた教室で 僕だけ違う世界にいるみたいだ

 

 淡々と止まることなく進み続ける日々の中で

 当たり前のように幸福を享受していた頃はもう思い出せない

 幼い頃からの友人の顔も 今となっては朧げで


 誰にも僕の姿は見えていない

 けれど小さな笑い声は通り過ぎずに澱んで詰まる

 毒を持った感情だけが僕を捕捉するように

 じわじわと追い掛けては首を絞める


 狭い世界

 長い人生の ほんの一時だと誰かは言った

 そのほんの一時が今の僕のすべてなのに

 それがいつまでも終わらないのに


 僕は透明人間

 誰も僕に気付かない

 僕は透明人間

 誰にも見付けてもらえなかった


 カシャリ、カシャリ。


 その音で僕の姿は捕捉されてしまった


 嫌になるほど近くで響き渡る笑い声

 体には赤色 灰色 増えるたびに僕は震えた

 そんなにも僕は悪いことをしただろうか

 僕が気付いていないだけで何かしたのだろうか

 けれどそれなら教えて欲しい

 教えて欲しかった






 ある日突然透明人間じゃなくなった僕は

 傷だらけの姿を晒されて僕は

 ある日突然謝られて

 そして終わった


 ごめんなさい

 ここまでするつもりはなかったんです


 そんな棒読みの心のない言葉で頭だけを下げられて

 謝っているのだから許してあげればいいのだと


 ある日突然透明人間じゃなくなった僕は

 顔も知らない誰かに笑われるのに

 消しても消してもどこからか流出する

 あのひどい写真の人だって


 謝られたら許さないといけないのだろうか

 僕は謝られたいわけじゃなかった

 どうして許さなければならないのだろうか

 消えない傷がばら撒かれているのに

 今もずっと痛いのに


 それならば

 僕は透明人間でいたかった


 同じ目に遭えばいい

 ただここにいるだけで笑われて

 体に傷をつけられて

 その姿を数えきれない人の前に晒されて

 思うだけならいいだろう

 同じ目に遭えばいいって

 そうしてやりたいって思うのに

 やり返せずに思うだけ

 どうしようもないくらいに

 だって僕はもう知っている

 その傷がどれほど痛いのか知ってしまっているから

 例えばもし同じ目に遭ったとしても

 ざまあみろなんて言えないんだ


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青い空、水の音 怪人X @aoisora_mizunoiro

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