ムーンウォーカー


 苦しくなるのはいつも夜で

 それでも不思議と僕は夜が好きだった


 太陽は思ったよりもずっと

 大きな役割を果たしているんだろうな

 友人と会うのはそれなりに楽しいし

 仕事はそこまで苦痛でもない

 少なくとも笑っていただろう

 別にそれは居心地の悪いものではなかったし

 そうやって生きていく人は大勢いる

 それでも


 月はただとても静かで

 夜は驚くほど親密に寄り添う

 世界にひとりきりになったような孤独と解放感

 意味もなく泣きたくなって

 どうしようもなく叫びたくなって

 静寂と歓喜がないまぜになった

 ぐしゃぐしゃの心を人間らしいと思った

 夜のたびに生まれ直すように

 夜のたびに抱きしめられるように


 明るみに出されてしまったら

 この夜の間の僕はすべて否定されてしまうのだろう

 どうして、どうして、って

 わかるのなら僕だって知りたい


 窓から差し込む月明かりはやさしく

 真っ暗な空に安堵する

 照らされた銀色の刃が鈍く光って美しい

 痛いのは嫌いだ

 でもあたたかいものは好きだ

 欠けた心が体を傷つけることで

 じんわりと満たされていくことがわかる

 増えていくばかりの傷はじくじくと

 幽かな罪悪感とともにくすぶるけど

 愛しくてたまらなくなる

 同じくらい苦しいのに


 ずっと夜のなかにいられたらいいのに


 月はただとても静かで

 意味もなく泣きたくなる

 どうしようもなく叫びたくなる

 寂しくて嬉しくて苦しくて許してほしい

 ぐしゃぐしゃの心を抱えて 今夜も

 生まれ直すように傷をつけて

 抱きしめられるようにあたたかさに微睡む

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