顔のない私

 欲しかったものはひとつだけ

 他には何もいらなかったの


 みんなうわべばかり

 でもわかっていても何も出来なくて

 取り繕うように笑って

 底の方で気付いてと叫んでいる

 愚かで臆病な私


 やさしさなんてすべて偽善で

 だから本当にやさしい人を見た時

 子供のように大声で泣いてしまいたかった

 偽物のやさしさを褒められるたび

 小さな切り傷が増えていくみたい


 どうしたらよかったのかな

 普通や平均を選びとってきた地図には

 冒険するようなことは何もなくて

 決められた道すじを歩いていくだけなら

 私じゃなくても誰でもいいのに

 今更降りることは怖くて出来ない

 何もない空っぽな私


 やさしい人に縋り付いて泣いたら

 きっと許してくれるね

 けれどそれは傷を舐めてもらえるだけで

 誰もすくわれないのはわかってる

 苦しい 寂しい 誰か気付いて


 欲しかったものはひとつだけ

 たったひとつの居場所だけ

 私が誰かの唯一になって

 誰かに私の唯一になってほしい


 何をしても許して

 何かしたら叱って

 何もなくても傍にいて

 何も言わなくても愛していて

 本当は何だっていいの

 私をここに引き留めて

 必要だって抱き締めて

 私もあなたにそうしたいように

 ありのままの弱さで同じ場所にいて


 そんな人いない

 出会うことなんて無理だって

 淀んでいく

 疲れていく

 たすけてって

 私の声は出ないで

 空に溶けていく

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