蟻たちに運ばれ、アイスになって溶け出してしまう海の、悪夢的甘さ。

詩集「だから僕は制服を捨てた」の1作、「砂糖」。このレビューを書いている時点で本詩集は全1100話という圧倒的な作品数を収めていて、これは紙数を気にせずに書き継げるデジタルメディアのカクヨムならではの挑戦だと思います。さまざまな文体への挑戦が試みられていますが、「砂糖」は抑制のきいたソリッドな改行詩で、行ごとの言葉の飛躍の放物線がきれいです。

「砂糖のように甘い」海には蟻が群がり、遠方から蜜鳥や蜜蜂がやってくる。「砂浜には近づくな」という警告があり、蟻は仲間が死んでも平然と自分の仕事をこなしていて、ディストピアめいた雰囲気が作品を覆っています。現代社会を蟻に喩えること自体にはわかりやすさがありますが、海と蟻との取り合わせに妙があり、そのどちらにも無関心な子どもの残酷さ(大きく豊かなはずの「海」だったものが「溶け出したアイス」にまで矮小化させられる)が印象的です。


(「自由に補助線を引いて愉しむ、詩の特集」4選/文=大崎清夏)