第3話 道の石ころも蹴られ続ければエンタメになる

 ロックなスター性は、肝のデカさで決まる。

 ファンの送迎を任されたオレは、雨が降ろうと、照明が降ろうと、ビビるわけにはいかねえ。

 たとえ幼女が大貴族のお嬢さんでも、異世界に城持ちなんざごまんとステイさ。

 城っつっても、木造ジャパーンのやつじゃねぇぞ。

 もっとこう石造りの、お高くとまったメルヘンなやつだ。


 入城チケットはナッシング。

 送迎は門前でシャットダウン。

 幼女からの、さよならハートだ。


「ポエマーよ、ここまで送ってくれて感謝なのじゃ」


 伝えておくぜ。感謝に感謝を――。

 センキューッ!! と。


「あの、ポエマー様」

 誰だあんたは、ヴァッ!! テ、テメェは!! オレのゲスト参加を邪魔あつかいしやがった護衛の剣士だなッ!?

「そ、その節はとんだ非礼を、お許しください」

 やりなおッし。

 心がこもってねぇ。定型文じゃねーか。攻めろよぉっ! 本気のポエムを見せてみろシャ――――ィッ!!

「は、はいッ!!」

 ロックじゃねえ!

 しかも声が高けぇ!!

 あと1オクターブ下げろ。いいか、つぎは無礼講だ。

 キサマは悪逆あくぎやくの限りを尽くした、反省の色などまったく見えん、ダークロードのつもりでぶちかましてこい、おらぁ、お嬢様を悲しませるなっ! ロックだ!! 間が持たねえぞ! 早くしろヤぁ!!

「はっ、ハぉ、おう! ぐわははは、たかがゲストめが飛び入り参加せずとも、我が謀略をもってすれば野党ごとき一網打尽であったものを。ぐわははは」

 よぉーし、アビスなビートを感じたぜ。

「あ、ありがとうございます」

 台無しだろぁバロめぇぃ!!

「お、おのれ、次があるとは思うなよ!? ぐわははは!」


 よし。

 さらばだ。


「お待ちください、ポエマー様」

 なんだしつこい護衛だな。

「じつはお嬢様からお願いがございまして」

 いくら幼女の願いでも、そうファンの要望をポンポンと聞き入れちまってはポリシーに反する。

 だいたいオレみたいな、どこの骨とも知れんダークホースに、いったい何を要求するつもりだ?

「いえ、詳しくは城中でお伝えしたいのですが――」

 オレが、たとえツアーを支えた関係者だろうと、無料で入城するわけにはいかん。

「で、では、入城料を銅貨一枚として」

 NeeeeeeeeeeeeYo!!

 オレは金がねぇんだ。

 ついでに、この世界じゃATMすら期待できねぇ。

「え、ATMがいかような物かは存じませんが、道中の護衛料をお支払いしますので」

 オレは護衛じゃNeeeeeeeeeee!!

 くそがぁ! やっぱり騙しやがったなぁ、あぁ?!

「やや、誤解です! 間違いました、すみません」

 さっきから謝ってばっかりだな。

 もっと肩のバラストを解放しろや。

「は、はい。では、姫さまの送迎に対する謝礼をお支払いするため、せめて一晩だけでもご入城いただきたく。ああ、もちろん、入城料、宿泊費、お食事代などは、謝礼から差し引かせていただきますが」


 ほう。


 ハングリーは心を鍛える。

 だが、体にはベリーバッドだ。


 世話になるぞ。

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ポエマー転生 ほねうまココノ @cocono

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