第2話 大自然と異分子のクロスオーバー

 木を見て森を見る。

 生い茂った雑草のうえで、オレはボーッと晴天を眺めていた。

 歌うか?

 いや、まだだ、心が震えてねえ。

 震えてねえなら、揺さぶり起こすっきゃねえ。

 オレは、あおむけの姿勢から、首に体重をのせて。

 跳ね起きるッ。


 シャァァァ――ィッ!!


 たまらず叫んじまった。

 長年の夢が、ネックスプリングが成功しちまった。

 っぱねーぞ、この体。

 メタボなファットがミリも震えねえ。

 身軽すぎる。

 よく見りゃ、肌がすべすべだ。

「きゃ――――ッ!!」

 乙女の悲鳴により、清麗せいれい葉音はおとがかき消された。

 路上ライブかっ!?

 オレは現場へと猛ダッシュした。

「ヴェェーイ!! 金を出せぇ~~~ィッ!!」

 おいおい、デジャブどころじゃねーぞ。また強盗さまかよ。

 今度のやつらは、ハードロック系のモヒカン肩パッドだ。

 やたらブルジョワな馬車を狙って、徒歩でブイブイと群がっていやがる。

 くっ、あの世紀末なセンス、もったいねえッ!

 ヴィジュアルに気を遣える集団なら、徒歩じゃなくて、古代ローマ風の戦車くらい持ち出せよなっ!

 馬車と木々との間では、護衛の剣士たちが少数精鋭で、倍近い数のモヒカンをさばいていた。

 オレは、戦場の風を一身ひとみに受けるため、ライブステージの設営ゾーンを精慮せいりよする。

「お助けください、勇者さまっ!!」

 馬車の窓から声がかかった。

 あれは……あのキャストは、どういうこった? おい女神よ、異世界までは付いてこないって約束だったろ?

「……ドコ ノ ドナタデス? メガミヨ さん? ああっ! わかりましたっ! 女神のように美しいお嬢様ですねと、褒めてくださったのですね?」

 認めちまえよ、隠す気なんざ微塵もねーんだろーが Yo。

 気がつけば、三度目の出会いさ。

 なあ、幼女な女神よ、あの成長したぼいんぼいんはどうした。

「ふふっ、小さなおっぱい夢いっぱい、と言うではありませんか」

 どこのポエムだ。

「それ、ポエマーさんにだけは言われたくなかったです……」

 で、なにが目的だ、ストーカー女神め。

「ストーカーとちがいますぅ~。わたくし、ひまつぶしで地上に降りてきたダケですぅ~」

 オレのライブが恋しくなったか?

 どすッ。

 護衛の一人が、オレの背中にダイブしてきた。

 あやうくヘッドのモーメントが膨張して、窓から女神にキッスを見舞うところだった。

 別の護衛が、

「おいっ、アンタ、邪魔だからあっち行っててくれ!」

 飛び入りゲストを邪魔あつかいとは、ロックな奴だな。

「う、うぎゃあぁー、お、俺の腕がぁ――――っ!!」

 また別の護衛が、争いの果てに骨を砕かれた。

 だめだ、見ちゃおれん。

 オレの名は、ジョン・ポエマー。

 人類に、愛と笑顔をもたらすシンガーだ。


 ヴェェ――――イッ!!

 その鉄球 イカしてんなぁー

 小者 臭ぇが イカツイでんなぁー


 歌いはじめたオレに、ボスらしきモヒカンが反応した。

「あぁん? 誰だあの細マッチョは、さっさと片付けろっ!!」

 やや貧相な雑魚モヒカンが向きなおり。

「はあぁ? 丸腰じゃねーか」

「ぶぉクッせぇ、いきなりクッせぇ風が吹いてきたぜ!」

 それは、あんたの体臭だ。

 オレが注目を集めているうちに、ひらひらした白衣の美女たちが現れて、傷ついた護衛らを癒やしはじめる。

 女神のしわざか。

 ほかの奴らにどう映っているのか知らんが、美女たちの頭上に光の輪が浮かんで見える。

「へっへ、ボーナスじゃねーか。オラ、てめぇら、あのヒーラー美女どもは、まとめて連れて帰っぞっ!!」

 ちっ、面倒なことになった。

 どうも嫌な予感がする。

 とどけ、オレのバイブレーション!!


 Urgent Voiceアージエント ボイス 荒くれどもよ!

 Gobble Voiceガバル ボイス 心の友よ!

 ヤツの殺気か Ia Iaイア イア 狂気なShadowシャドウ!!


 死ぬなViceヴアイス 同士たちよ!

 生きろViceヴアイス ロックの子らよ!

 ヤツらたぶん ヒーラーなんかじゃ Neeeeeeeee!!


 ライブ閉幕を待たずして、ヒーラー改め天使たちは、氷槍ひようそう爆炎ばくえん、ライトニングをまき散らし、賊どもを震撼しんかんさせた。

 オレはその激しさをバックに、ジャケり気分を味わいながら、Tシャツを肩に引っさげて、人里までひとり歩くことにした。

「ちょちょちょ待ってくださいよ、ポエマーさんっ!!」

 どうした。リズミカルな女神よ。

「こちらにも事情がありまして、この幼い少女の体をやむなく借り受けましたが、わたくし、そう長くは下界に滞在できないのですよ。ポエマーさん、せめて次の街まででも、この少女の護衛を引き受けてはもらえませんか? ねぇ?」

 あの天使どもに命令すればよかろう。オレが知る限りでは世界最強クラスのデスメタルチートだぞ。

「ええ、存じておりますとも。ですがこの世界では、天使たちもそう長くは活動できないのです。あなたのポエムこそが、無制限にして最強の武器となるのです」

 おいテメェ、ポエムを武器にするだと?

 なにを寝ぼけたことを。

 ガチで口にしたんなら、オレはあんたを巨大スピーカーの前に立たせて、Gibsonギブソン ES-345をアンプに直結せねばならんぞ。

「言っている意味が、わかりませんが……」

 イッツジョーク。

 知らぬが仏ってやつさ。

 それにオレは、ギターはやってねえ。ヴォーカルOnlyオンリーだ。

「ええ、ヴォーカルで構いませんので、どうかポエムで護衛を」

 …………。

 オレは、エンターティナーだ。

 雇い兵はやってねえ。

「そこを、どうにか……」

 争いは、ノーサンキュー。

 Butバツト――。

 ファンサービスであれば、送迎を考えんでもない。

「ありがとうございますっ! では、親愛なるポエマーさんに、女神の加護を――」

 おい、やめろ。

 チートはいらんぞっ、ごふぁっ!?

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