ポエマー転生
ほねうまココノ
第1話 ポエマー転生
手持ちの金がねえ。
そうなりゃ郵便局に駆け込むしかねえ。
「おい、金を出せっ! このバッグに札束を、詰め込めるだけ詰め込むんだ、はやくしろっ!!」
どこのどいつだ。
奥のフロアで、黒い
オレは、出入り口付近にあるATMから、預けた金を引き出しているところだ。あの様子なら、オレが立ち去っても、わざわざ追ってはこまい。
だが、浮かんじまった。幼い少女を救うフレーズが。
あのギャラリーの注目をかっさらう、熱いスキャットが。
オレは、ダイナミックかつビューティフルに、カウンター正面まで転がり込んだ。ああ、そうさ、
ヴァーララララ! ボォーララララ!
その引き金 うごか す の
ファクターッ!! ファクターッ!!
ジャララッ!
お まえーの ファクターッ!!
それは
強盗は、ビクッと肩を震わせて、ステージに上がり込む。
「なっ、なんだテメーはっ!?」
ふぅ……台詞のチョイスがロックじゃねえ。
オレは、モーダルなビートを抱きしめて、首を二度ふり。
血の花びらは 望まねぇー
つぼみはいずれ 花咲くぜぇ
いまは
果・て・は
にやり。
キメ顔をつくってやった。
「ぷっ!」
強盗のツバっ気が、幼い少女の頭上から散布された。
すっげー嫌そうな顔だ。かわいそうに。
強盗は、口のまわりを腕でぬぐった。
「く、くっそ、てめぇ、ふざけやがってぇ――ッ!!」
バキィィ――――ン。
乾いた破裂音が、ボリュームMAXを超えて衝撃波となった。オレの薄っぺらな鼓膜は、今のでぶち破れたらしい。
いや、違うぞ、これは、意識が遠のいていく……。
オレは、片道切符なヘブンに、早くも招待されちまうのか。
「ようこそ天界へ」
黄金の雲を背に、女神らしき女がぼんやりと浮かんできた。
なぜか、人質にされていた幼い少女とそっくりだ。
「神々には、これといった姿がありませんから」
しかし口調は大人びている。
この違和感、音楽性の違いか?
女神といえば、もっとぼいんぼいんで、白いローブをまとっていて、羽がふぁさぁーって、ラ、ラ、ラ、おおっと、天使なメロディーが喉から
「あなたは生前、多くの人々の心を、愛と笑いで満たしました」
センキュー!! と叫んでおいた。
「こほん。よってあなたには、お望みのチート能力が一つ与えられます。異世界に転生できることも、先ほど会議で決まりました。おめでとうございます」
チート能力? 一体どんなビートだ。
「あらゆる世界の法則をねじ曲げる、絶大な力のことです」
そいつぁいただけねえな。
「いただいてください。でなければ、わたくしが困ってしまいます」
うぅむ。
世界の法則をねじ曲げる、か……。
オレは胸に手を当てて、問いかけた。
いらねーな そんなチート
女神の顔がひきつった。
「い、いいでしょう。あなたがチート能力を望まない、ということでしたら、代わりに、わたくしが異世界までお供する方向で、話を進めさせていただきます」
ん?
なんだと?
おいまて、しかも、幼い少女だった女神が――。
ぼいんぼいんな、グラマラス女神に急成長しやがったぞ!?
おい、そのトランスは、ドミナント戦略をぶち壊すぞ。
まさか、オレを試しているのか?
いいぜ、教えてやるぜ。
Ahー Ah すてらんねーな オレのビート
つれてけねーな おんなチート
メガミ ぶらさげ
そいつぁ スキャンダル
「スキャンダルですか……。はぁ~。では、うーん――。あっ、ありましたよ、ポエマーさん。いま、もっともポエムが求められている、攻略難易度インフィニティ++な異世界がっ!! あそこでしたら、どのようなチート能力も、あなた自身の力には遠く及びません!」
聞き捨てならないワードが差し込まれた。
それは、いつも、オレの心のシンメトリーを、ずたずたにぶち壊しにくるワード。激しい
オレは オレは オレは
ポエマー じゃ ねぇ――――――っ!!
ロック! ロック! ハードロ――ック!
オレは ハードな ハードロック!!
シン ガァァァ――――~~~~っ!! センキューッ!!
「ぷっ!」
女神が、妙にムカつく笑顔で、吹き出しやがった。
オレは本気だぞ。
「そろそろ転生の時刻です」
別に転生はかまわんが、できればイカサマのない人間でいつづけたいものだ。今と変わらずにな。
「転生とはすなわち、別の形で生まれ変わることです」
知るかそんなもの。
「チートはいらない、女神もいらない、ついでにビートも捨てたくない」
ああ、飲み込みが早くて助かる。
「でしたら、もう打つ手がこれくらいしかありません」
おい、余計なことはするなよ? なっ?
「来世でも、ポエムの力で、皆さまを笑顔にしてください。ね? ジョン・ポエマーさん」
おい、へんな改名はよせっ! あ、やめろっ!!
うっぐっ、ぐぉわぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁ――――っ!!
自称ハードロック・シンガー。
前世の名前は、ジョン・ロック。
オレは、本名を『ジョン・ポエマー』と改められて、どこぞ異世界に転生させられちまった。
◇ ◇ ◇
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