4
大したことが起こるわけでもなくときは過ぎて行く。数学の時間、若干名が悲鳴をあげていた。起こったことといえば本当にそれぐらい。そういう俺も満点をとったわけではないが八割ほど取れてるので及第点だろう。
時計を見れば、後二〇分程度で四限目が終わる。それを自覚すればグゥと静かにお腹が鳴った。
母に作ってもらっているお弁当に何が入っているだろうかと想像を膨らませる。まぁ、きっと朝食でも出てきた冷凍食品のおかずが入っているのだろう。それが嫌とかそういうことは決してない。作ってもらっているだけありがたいのだ。もう少しおかずが欲しいとかそんなことは思っていない。決して。それに加えてもう少し卵焼きを甘くしてほしいとかも思ってない。多分。
軽やかに授業終了のチャイムを聞いて伸びをする。ずっと机に座って話を聞いてるだけの授業になんの意味があるのだろう。
「
教室の入り口から雫の声が聞こえる。約束をしているわけではないがなんだかんだいつもお昼を一緒に食べている。
カバンの中から弁当の袋を取り出して立ち上がった。
「光、彼女が呼んでるぞ」
「彼女じゃねぇって」
「またまた〜」
茶化してくる奴らもいるがそんな人に構ってる暇はない。彼女と言われて豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をしている雫を引きつれて屋上に向かう。ここ最近の学校にしては珍しくこの学校は屋上を開放している。四階建ての屋上で吹く風はまだねっとりと暑さを帯びているが心地よい分類だ。
この時期の屋上は少し不人気で訪れている生徒は両手で数えられるぐらい。大人数がワイワイといるよりも隅っこでひっそりと過ごすのが好きな俺にとってはこの時期の屋上は極上の場所である。
お気に入りの隅に置いてあるベンチも空いてる。そこに雫と二人並んで座り弁当を取り出す。蓋を開ければフワッと弁当特有の匂いが広がった。
「………」
「…雫さん?何をそんな真剣に見てるんです?」
無言で見つめてくる雫の目線が痛い。ずっと無言で俺の弁当を見つめている。なんともシュールな場面。
「卵焼き…」
ぼそっと雫が呟く。
「あ、卵焼き?交換する?」
雫の母が作る卵焼きは若干甘めで雫の好みは甘くない卵焼き。一方俺の母が作る卵焼きは出汁を使った甘くない卵焼きで俺の好みは甘い卵焼き。
つまり、逆転しているのだ。交換するとお互い得なのは今さっき気づいた。
美味しそうに俺の卵焼きを頬張る雫を見てると自分が作ったわけではないのに嬉しく感じるのはなんでだろうか。身内が褒められると嬉しい的なあれか?
「そういえばさ、ノートの角っこが濡れてたんだけどなんかこぼした?」
雫の頭には疑問符が大量に浮かんでいる。これはなんだか分かってない感じだな。
「数学のノート貸したじゃん?戻ってきた時ちょっと濡れてたんだよ」
「え、嘘!?濡れてた!?ごめん!」
脳内で合点がいったのか急に慌て出す雫は今にも土下座する勢いだ。
「別に、そこまで迷惑ってわけじゃないから良いんだ」
「うぅ、ほんとごめんね」
食べ終わった弁当箱の上に手を置きやけに雫は落ち込んでいる。そこまで気にしていないので再度気にするなと声をかければ元の笑顔に戻っていった。
拝啓、空を飛んだ君へ 湊谷愛澄 @uruka0926
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