第5話

あれから3年、


オレは17歳になった。



時の流れと共に

オレ自身も、オレを取り巻く環境も、

色んなことが変わっていった。


まずは高校への進学。


それともう1つ大きな変化は、

あるアイドルグループへ所属出来たこと。


受験と平行し相変わらず色んなオーディションを受けていて、運よくその中の一つが当たった。

高校1年、15歳の時だった。



環境の変化はそんなところで、オレ自身は



とにかく、嫌いなものが増えた。




夏が嫌いになった。



サイダーが嫌いになった。



小説が嫌いになった。



オーディションに落ちる度

自分には才能がないのだと言われているようで、


無能な自分が嫌いになった。



察しの悪い自分が嫌いになった。




廣瀬の事も、




廣瀬の事は、あまり考えないようにしていた。




後でダンススークルの仲間に聞いた話だが

どうも廣瀬の家は色々と複雑だったらしく、家庭の事情でダンススクールは

辞めざるを得なかったらしい。


オレはそんな事全く知らなくて

自分の事も、廣瀬の事も、

またちょっと嫌いになった。



嫌いなものばかり増えるのがいやで、考えないようにしていたのに




それなのに、


ステージの上から

あの頃と変わらない栗色の髪を見た時、


考えずにいた事

見ないふりをしていた事


全てが鮮明になって



一瞬であの夏に引き戻された。





メンバーとお客さんの声にハッとするのと同時に、

怒りがふつふつとこみ上げてきた。



突然消えたと思ったら、また突然現れて


本当に勝手な奴。




だから、




何か一言言ってやらないと気が済まない。








「最悪だったよ、あの小説」







バス停の側に設置してあるベンチへ座り、

1人本を読む廣瀬にそう声をかける。





「…久しぶりに会った友人に対する第一声がそれ?」




こちらを見上げる廣瀬と


目が合った。





「まず主人公の言動に一貫性が無くて何がしたいのか分からない、共感出来る部分が少なくて、オレは全然感情移入出来なかった」



「確かに一貫性に欠ける部分もあったね

けどきっと、どんな行動も主人公にとってはその時の最適解だったんだよ」

「それに、最後まで本当に大事なところはブレてなかった、ボクはわりと共感する部分があって読んでて楽しかったけどな」



考え方が真逆なのは、相変わらずのようで


「まぁ、綾ちゃんならそう言うと思ったよ

…ていうか、読んでくれたんだね、活字苦手だって言ってたのに」



「前はね、もう慣れた

今読んでる小説もかなり長いやつだし」



「すごい、どんな話なの?」



「えー…どんなって、」



思い返せば、自分の夏にはいつも廣瀬がいる。


初めて会ったのも夏で、いなくったのも夏で

…また会ったのも夏で。



何だか癪なので、こいつの夏にも自分を置いておくことにした。




「7月が終わるまでに教えてあげる」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏を巡る 水菓子屋 @re-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ