最終話 ナツミちゃんと冒険しよう

 僕はナツミちゃんと島探検に出掛けた。

 ゴツゴツとした岩場もナツミちゃんはすいすい歩いて行く。

「シュンくーん! こっち、こっち」

 彼女は幼い頃からおばあちゃんを訪ねて島に遊びに来ていて慣れているんだって。

 僕はそんなナツミちゃんについて行くのが精一杯だ。情けないな。

 照りつける陽射しを受け汗が吹き出し雫になって顔や体から流れてる。


 ジャングルみたいなガジュマルの木々やマングローブを見ながら、疲れるまでナツミちゃんのお気に入りの場所を歩き回って初めてカヤックにも乗った。

 黒糖カヌレやソーキそばを食べてガラスコップ作り体験をした。

 夕暮れ――

 島の灯台が建つ岬に二人で並んで水平線に沈む夕日をずっと見つめていた。

 静寂しじまの海辺の煌めくオレンジ色の波と、茜や黄金色こがねいろに染まっていく空に涙が流れた。


 僕はいつしか美しく厳かな島の自然にも、可愛くて元気いっぱいで人懐っこいナツミちゃんにも夢中になっていった。


 お母さんは旅先で僕に友達が出来たことを喜んで自由にさせてくれ、三泊四日の旅はあっという間に過ぎ去っていた。


 僕は別れの日、ナツミちゃんと約束をした。必ずこの島に戻るって。

「約束だよ、シュン君」

「うん」

 僕はナツミちゃんと作ったガラスコップを互いに交換した。


 きっと約束を守るから――


 僕は密かに誓う。

 あの島でナツミちゃんと出会ったから僕は人生の冒険をすることにした。

 島に住みたい。学校も変わりたい。

 東京に帰ったらお母さんに決意を伝えよう。

 反対されるかもしれない。

 でも、僕は知ってしまったんだ。

 楽しい世界があることを。

 広い世界があることを。


 僕の細胞こころが渇望している。


 部屋の仮想の狭い海から抜け出して、僕は本物の海のそばで暮らしたい――と。



     了



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君と出会った夏 天雪桃那花 @MOMOMOCHIHARE

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