エピローグ.金色の迷宮

 俺はルーク。冒険者だ。

 生まれは農家の三男坊で、長兄みたいに畑を相続できるわけでもなく、次兄みたいに頭が良くて、商家に婿養子が決まるわけでもない。だから、剣で身を立てようと家を飛び出したわけだ。


 とは言え、いきなり魔物狩りに出るほど迂闊じゃないぜ。この春から始まった、エルトリアス王立の冒険者養成学校で、半年みっちり学んだんだ。教科書も良くできていた。なんでも、あの魔核戦争で冒険者たちが南から持ちこんだ、「勇者文書」と言うのが元になっているとか。

 ……まぁ、学費は丸々借金で、今後十年くらいかけて少しずつ返さなきゃならんけどさ。ちゃんと十年間生き延びて、レベルアップ出来てりゃ、問題なし。


 てなわけで、だ。

 養成学校の同期と「熱き吹雪」って名前でパーティー組んで、冬の間、魔獣狩りをやって来たんだけどよ。はぐれ雪狼とか幻惑銀狐とか雪穴熊とか。ちまちまちまちまと。

 でも、そんな稼ぎじゃ学費の返済したらたいして残らねぇし、何よりレベルが上がらねぇ!

 で、そろそろ冬も終わりに近づいた時だ。ちょっと大物の魔物討伐の依頼をこなして、酒場で打ち上げをしていた時だ。少し遅れてやってきた仲間の魔術師のオードリーが、面白い話を仕入れてきたのだ。


「今日、魔術師ギルドの方に顔を出したんだけど、そこで同期のデイヴィスと鉢合わせしてね」

 デイヴィスはすかした野郎で、戦士系の俺らを下に見ているようなヤな奴だった。

 でもまぁ、私情はやめとこう。うちのオードリーに色目を使ったとしたら許し難いが、彼女の様子ではそうでもなさそうだし。


「なんだか、この国の迷宮の一つが、最近、復活したらしいのよ」

 迷宮。良い響きだ。

 南のガジョーエン迷宮が有名だが、北にはほとんどない。過去百年で、各国の正規軍が徹底的に組織だって攻略し、魔物も魔素も枯れ切ってしまったと、そう養成学校でも聞いた。だから、南までの渡航費用が捻出できたら、迷宮探索に挑戦しよう、と皆で約束してたりする。

 でも、それがこの国の中にあると言うなら、今すぐにでも挑戦できるわけだ。なにしろ、活性化した迷宮は魔物と出くわす比率がめちゃくちゃ高い。森や山に分け入っても、せいぜい何日に一度だが、迷宮では日に何度。それらを倒したり、倒せなくても逃げおおせるだけで、経験がどんどん積み重なる。


 迷宮に挑戦して一週間生き延びて出てこれれば、普通に地上で魔物狩りするより何倍もの経験を積んで、レベルを上げる事ができる。というわけだ。

 あくまでも、その迷宮の難易度次第だが。


「その迷宮、レベルはどのくらいなんだ?」

 俺の問いかけに、オードリーは戸惑った表情をした。


「それが、要領を得ないのよ。レベルの高いパーティーだと、いきなり強敵が出てくるし、弱ければそこそこ。あんまり弱すぎると、いきなり迷宮の外に放り出されるとか」

 なんだそりゃ。


 魔族でも潜んでいるんだろうか? 奴らは人間を手玉にとって楽しむと聞いた事があるし。しかし、いきなり最強レベルの魔物の巣に放り込まれるよりは、よほどましだ。腕試しには丁度いいだろう。


「よし、明日、早速そこに行こう」

 俺の提案というか決断に、仲間たちは乾杯で賛同してくれた。


********


「そっちに行ったぞ!」

「おう!」

 袋小路に逃げ込んだゴブリンを、俺ともう一人の戦士、盾役のタルカスで仕留める。


「これで全滅ね」

 背後からオードリーの声。

「ミール! そっちは?」

 俺は斥候役のミールに呼びかけた。

「大丈夫だ。もういない」

 彼は後衛のオードリーの護衛についていたが、油断なく背後を見回しながら答えた。

 全て、養成所で教わった通りだ。


 迷宮に入ってすぐ、俺たちはゴブリンの群れと遭遇した。通路の先を伺っていたミールがまず気づき、うまく奇襲をかけることができたのだ。

 まず、オードリーの火魔法で群を分断する。逃げた奴を俺とタルカスで一匹ずつ追い詰める。戦術さえ間違えなければ、油断さえしなければ、勝ち進むことができる。


 タルカスとミールにゴブリンどもの魔核の回収を任せ、俺はオードリーに声をかけた。

「ご苦労様。対価の方は?」

 彼女は閉じていた目を開いた。

「まだ大丈夫。行けるわ」

 よし。

「それに、この風のおかげで、窒息を気にせず火魔法が使えるし」


 北国のエルトリアスに出る魔物は氷属性が多い。そのため、このあたりの魔術師は火魔法が得意だ。しかし、空気のよどんだ迷宮内で火を使いすぎると、窒息の危険が生じる。これも、養成所で学んだことだ。

 この迷宮に入るとき、オードリーはこの点を気にしていた。だが、それは杞憂だった。ここでは、迷宮の底から常に風が吹き上げてくるのだ。


「でも、この風……魔素が濃いわ」

 それはつまり、ここの奥底に、強力な魔物か魔族がいると言うことだ。

「レベルを上げながら、地道に進もう。やばくなったら引き上げて、また来ればいい」

 彼女も頷いた。

 そう。生きのこることこそ、冒険者の役目なんだから。


「魔核の回収、終わったぜ」

 ミールの声にうなずいて、俺はみんなに告げた。

「先に進もう」

 さらに下の階層へ。


********


「またこいつか」

 ミールが開いた宝箱の中にあったのは、この迷宮の地図だ。ご丁寧に、階段を降りるたびに、これ見よがしに置かれている。これがあるから、さっきのように相手を追い詰めることができたわけだ。

 ちょっと出来過ぎているが、今のところ嘘は書かれていない。魔族か誰か知らんが、あり難く使わせてもらおう。


 ミールに地図を持たせ、彼が斥候として通路の先を伺い、俺たちが付いて行く。

 そうしてしばらく進んだとき、曲がり角からミールが引き返してきた。

「どうした?」

 小声で尋ねると、押し殺した声で。

「あの先に、変な野郎がいるぜ」


 変な野郎? 魔物じゃないのか?


 彼について角の向こうを覗いてみると。

 ……一人の男が、床に腰を下ろしていた。

 黒髪に黒い瞳は珍しいが、南の大陸ではさほどでもないらしい。緑灰色のマントはあまり趣味が良いとは言えないが、それもまあいい。奇妙なのは、何も武器らしいものを持っていないこと。

 そして、極めつけは。

 その手に持っている、湯気の立つ金属性のカップだ。

 余りにもくつろいでる雰囲気なので、俺の警戒心もお留守になった。


「そこで何をしている?」

 声をかけて、曲がり角から出る。

 相手はちょっと驚いた顔をしたが、すぐに屈託のない顔で笑った。

「見ての通り、お茶してます」

「お茶って……」

「あら、良い香り」

 オードリーが鼻をくんくんさせながら。その後ろからタルカスもミールも出て来た。


「良かったら、飲まれますか?」

 脇に置いてあった鞄から、男はもう一つのカップと小さな壺を取り出した。そして、ツボの中身をさらさらとカップに入れると、オードリーに手渡した。

「……茶葉なんだけど?」

「今、お湯を出します」

 カップの上に蒼い魔法陣が現れ、その中央からお湯がカップへと注がれた。あたりに淹れたての紅茶の香りが漂う。

「あなた、魔術師なの?」

「ええ、まぁ」

 オードリーはあたりを見回した。

「あなたのパーティーは?」

「えーと、今は一人です」

 なんてこった。たまにいるんだよな、こんな馬鹿が。


「あのさぁ、あんた。ああ、俺はルークってんだけど」

「ルークさんですね。俺は……コジローです」

 名前も変わってるが、南には多いんだろう。

「養成所で学ばなかったか? 迷宮に一人で潜るなんて自殺行為だぞ」

「ああ……養成所って、そう言ったことを教えてるんですか」

 だめだこいつ。放っておいたら確実に死んじまう。


「良かったら一緒に行かないか?」

 俺の提案に、コジローは笑顔で答えた。

「そうですね。旅は道連れ世は情け、と言いますし」

 聞いたことないが、きっと南のことわざなんだろう。

 ミールが「経験の分配が減る」とブツブツ言っていたが、迷宮で孤立したり怪我をした冒険者を見つけたら助けろ、てのも養成所で叩きこまれたことだ。いつか自分が助けられる側になるかもしれないんだからな。


********


 トロールが棍棒を振り回しながら突進していく。

「コジロー! そっちに行ったぞ!」

 俺は叫んだが、あいつは逃げもせず立ちつくしてるだけだ。となりのオードリーは呪文を詠唱しているが、間に合わない。

 だめだ、やられる! と思った瞬間。


 コジローの掲げた掌に魔法陣が輝き、その中から眩い光が発せられた!

 斜めに位置していた俺でも、目が潰れるかと思った光量だ。まともに喰らったトロールは、棍棒を取り落として目を覆い苦悶した。

 すかさず、タルカスの剣が奴の背中に突き刺さる。

 何とか助かった。それは良いんだけど。


「おい、コジロー!」

 俺は詰め寄った。

「光魔法が使えるのなら、そう言ってくれよな?」

「あ、言ってませんでしたっけ」

 こいつの笑顔を見てると、腹を立てるのも馬鹿らしくなる。道すがら、養成学校で学んだことを教えてやったが、ずっと「それは大事ですね」とか頷くだけ。分ってるんだかどうか。


 が、オードリーはまだ睨んでた。

「今の魔法、無詠唱だったでしょ?」

 そう言えば、口が動いてなかった気がする。

「あ……忘れてた」


 忘れても発動するものなのか?

 専門じゃないから分らないが……オードリーは首を振ってるし。


 そうこうしているうちに、ミールから声がかかった。

「魔核の回収、終わったぜ」

 相変わらず、手際がいい。

「よし、じゃあメシにしよう」

 すぐそばに小ぶりな広間があった。こうした場所は安全地帯で、魔物に出会うこともなく休める。

 みんなで車座になって、固いパンと干し肉を分け合って食べながら。

「さっきも言ったけどな。スキルとかは教えておいてくれ。戦術の組み方が変わるから」

 俺の苦言にコジローはうなずいた。

「そうですね。じゃあ、食事時でもあるし」

 またお湯か。まぁ、敵に頭から熱湯を浴びせる攻撃は役に立ったが……。


「さっき、お湯が切れたと言ってなかったか?」

「ええ、今沸かしてます。もう少しなんで食後のお茶には間に合いますよ。で、その代りなんですが」

 カップを取り出し、魔法陣から湯気の立つ液体を注いだ。

「どうぞ」

「どうぞ……っておまえ」

 カップを満たしているのは、野菜と肉の微塵切りが入ったスープだ。


「ありえないわ」

 そう言いながらも、ちゃっかりとスープはすするオードリー。

 まぁとにかく、これだけでも迷宮での食事が随分マシになる。


 それは良いんだが……。


********


「なぁ、ルーク。どうも急に敵のレベルが上がったような気がするんだが」

 歩きながらタルカスがささやく。

「そうだな。さっきなんて、サラマンダーだもんな」

 俺たちだけなら、絶対に全滅か撤退だったはずだ。撤退にしても、無傷とは行かなかっただろう。


 しかし、コジローが大量の水をぶっかけて火を弱らせたおかげで、俺とタルカスの攻撃が届くようになり、かろうじて仕留められた。

 それでも、抜こうとした剣が熱くて、冷えるまでしばらく待たなければならなかったほどだが。


 取り出した魔核だけでも相当な価値があるし、はぎとった鱗も鎧や盾の材料となるから、ひと財産となるだろう。

 だから、正直な話、そろそろ引き上げても良いはずだった。実際、迷宮に潜ってからもう一週間になる。本来なら、食料が尽きているはずだ。それが、コジローの出すスープのおかげで、かなり余裕がでたのだ。


 それに、だ。

「ここ、なんだよな?」

 俺はミールに確認した。

「ああ、地図によるとな」

 目の前には、両開きの巨大な扉があった。地図では、この扉の向こうは大広間になっている。そして、そこから先はない。階段も扉もない、行き止まりだ。


 その扉の隙間から噴き出す風。

「凄い魔素」

 オードリーが呟く。

 俺たちは迷宮の最深部に到達したのだ。初めて潜ったのに。

「デイヴィスも、ここよりずっと上で引き返したと言ってたわ」

 なら、俺たちが一番乗りか。


「だったら、ここまで来て迷宮の主の姿も見ずに逃げ帰ったら、話にならんよな」

 皆がうなずいた。

「じゃ、行くぞ」

 俺とタルカスが扉のノブを掴んだ。目で合図し、同時に開ける。


 扉の向こうは、黄金に埋まっていた。

「これは……」

 誰もが呆然とした。あたりには山のように宝箱が積まれ、蓋が開いた物からは金銀財宝が溢れている。

 そして、大広間の正面、玉座のある壇上には……。


 玉座は無かった。

 代わりにあったのは、大きな執務机。その向こうに座る女性が小さく見えるほどの。

 そう、女性だ。金髪で整った顔立ち。瞳の色も金色で、こんな色は初めて見た。着ているものは簡素な一枚布で、体に巻き付けて肩のところで留めているだけ。


 書き物をしていたらしい彼女は顔を上げ、俺たちを睨みつけた。

「まったく、なんて事」

 冷え冷えとした声でつぶやくと、彼女は立ちあがり、段を降りてくる。

「ようやくここまでたどり着く者が出たかと思えば、こんな低いレベルでは話にならないわ」


 突然、赤い光が彼女を包んだ。輝く体は見る見るうちに大きくなり、大広間の天井に届きそうな巨体となった。


 そして、光が消えて現れたのは、魔族。

 金色の肌を覆う真っ白な羽毛、鳥のような足首。背中には純白の鳥の翼を持つ、美しい魔族だった。それはもう、女神だと言われれば信じてしまいそうな。


 その金の魔族は、俺たちを指さし、告げた。

「出直して来なさい!」


 やばい。

 踵を返した途端、足元の床が消え失せた。

「逃げろ! コジロー!」


 落ちる寸前に見えたのは、扉の向こうのコジローの姿……


********


「いててて。みんな、無事か?」

 起き上がりざま、声をかける。

「何とか……」

 オードリーが腰をさすりながら答えた。

 ミールもタルカスも返事をした。


「コジロー……コジローは?」

 オードリーの声に、俺もあたりを見回した。

 てっきり、落とし穴に落ちたのだと思ったが、違う。見覚えのある森のはずれだ。すぐ向こうに迷宮の入り口が見える。

 そして、コジローの姿はない。


「あいつ……一人だけ、取り残されたのか」


 変わったヤツだった。それでも、良い奴だった。

 助けに戻りたい。しかし、今からでは食料が持たない。


 そう。生きのこることこそ、冒険者の役目。奴のために無理をして俺たちが全滅したら、元も子もない。

 ギルドに戻って魔核などを売り払い、それで武器や防具など装備を整えて、またこの迷宮に挑戦しよう。何度でも。


 そして、いつかまた、あの金色の魔族のところまで降りよう。助けが間に合わないとしても、せめてコジローの骨くらいは拾ってやらないと。


「戻るぞ」

 皆にそう言って、俺は立ちあがった。

 既に陽は傾き、西の空が赤くなっていた。


 夕日に照らされて、俺たちは帰路についた。


********


 ミリアムが怒ってます。

 ヒトの身体に戻るときに、全裸の姿をこの目に焼き付けてしまったから?

 心の中で「YES! YES!」と叫んでしまったから?

 空中から取り出した布を体に巻き付け、肩のところで留める仕草を見て、「キューティーハ〇ー」とか呟いたから?


「全く、一体さっきのは何のつもり?」

 ……違ったみたい。


「だって、急に訪問したら怒るじゃないか」


 この迷宮は、普段は結界に守られていて、遠隔視や遠話などが使えない。しかし、日に何度か、メンテナンスのために彼女が結界を開くことがある。

 前回はその時を待って彼女の前に転移したんだが、余程驚かせてしまったらしい。

 大広間が丸焼けになるほどの火炎旋風フロガアネモストロヴィが吹き荒れたのだ。同時に、遠隔視を防ぐ結界まで張り直されたから、亜空間鎧に閉じ込められて何も見えなくなり、危うくそのまま窒息するところだった。


「だから、今度はちゃんと入り口から入って、普通に階段で降りてくるつもりだったんだよ。魔物もなるべく殺さないように気を付けて」


 ここはミリアムの「殺さない迷宮」だ。いずれまた現れる魔王とその軍勢と戦えるように、冒険者を鍛えるための。そのためにバランスよく配置されてる魔物だから、殺さないでアイテムボックスで捕まえて、下の階に降りる時に解放してやってたんだ。

 この魔物も、ミリアムがあちこちから捕獲リクルートしてきた連中だ。


「そうしたら彼らに見つかっちゃってさ。気の良い奴らだから、一緒に来たんだ」

 必死に弁明したんだが、彼女は納得してくれなかった。


「バカね! 折角、冒険者のレベルに合わせて魔物の強さを調整してあったのに。あなたのおかげでぶち壊しだわ」

 レベルが不足していたら、少し強すぎる敵を出して退却させる仕組みなんだろう。その際には、道すがら「毒消し草」とか薬を拾えるようにして。

 今回なら、サラマンダーのところで引き返すように仕組んであったわけだ。帰りの宝箱には氷だな。


「悪かったよ……出直せば良かったんだけど……早く君に会いたくてさ」

 ミリアムはため息をつくと、表情を和らげてくれた。

「バカね。それに、コジローって誰よ?」

「……ムサシのライバル」

「ムサシって、あなたが身代わりにした勇者でしょ」

 はい。ミリアム先生にはお見通しです。


「で、エリクサーはどう?」

 いきなりヤクですか。いいけど。

「ああ、今年の分の二十本なら、手に入ったよ」

 アイテムボックスを開き、その中から一本を取り出す。

 青い液体の瓶を受け取ると、彼女は言った。


「ありがとう。どうしても、無茶するのがいるから」

 退却せずに全滅しそうになるパーティーが、今までにもいたらしい。

 前回、一本欲しいと頼まれて、ようやく手に入ったわけだ。

 彼女からの頼まれごとは以上だが、俺の方に用事があった。


「ミリアム、君に紹介したいんだけど」

 別なアイテムボックスを開く。

『まぞくのおねえちゃん、はじめまして』

 子犬サイズの電光トカゲアストラサブラがお辞儀をした。


「この子……もしかして?」

「うん。エレとロンの子、ニュートだよ」

 あれから一年、ロンもすっかり大きくなり、前から「エレおねえちゃんを、およめさんにする!」とか言ってたのを、いつの間にか実行に移してたわけだ。


 今でもDTどーてーなパパは、子供たちが先に大人への階段を駆け上ってしまって、寂しいです。


 ちなみに、名前の由来はニュートリノから。「ニー」じゃなくて「ニュー」だからね。

 ニュートは、子供の頃のロンとそっくりで、好奇心旺盛。そのため、最近は連れて歩いている。

 一緒に埋まれた妹がリノだが、この子は両親にべったり甘えているので、お留守番だ。


「それに、春にはアリエル、夏にはランシアも出産予定だからね。ムサシとアイリもそろそろだろう」

 周り中がお目出度の連続。一人、取り残されてる俺。


 ムサシは勇者の代役を終えると、アイリと二人で旅に出た。どうせイチャラブしてるんだろうから、子供ができるまでの新婚旅行だな。


 ミリアムが優しい表情でニュートを撫で、話しかけてる。

 ……俺にもその愛をわけて。

 なんて言えないから。


「じゃあ、そろそろ引き上げるよ。またそのうちに……グインとアリエルの子が産まれたころに来るから」

 と、ニュートが入ったアイテムボックスを閉じたんだが。

 ミリアムにガッチリと腕を掴まれた。


「バカね……今夜は帰さないんだから!」

 え? え?


 そのまま引きずられる。強制連行だ。

 宝箱の山の裏側に回る。そこはミリアムの秘密の寝所だ。

 遂に……DTから卒業? 勇者だけでなく、魔法使いも妖精も廃業?

 嬉しい。だけど、涙が出ちゃう。男の子だもん。


 でもでも、肝心な時に、魔核が余計なことささやかないよね?

「……お手柔らかに、願います」


 魔族変化したミリアムの尻に敷かれたら、竜に寝押しされるより死ねるから。


異世界のプログラマ ―完―

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異世界のプログラマ 原幌平晴 @harahoro-hirahare

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