4-13.青の探究者

「……ムサシ!」

 エリクサーでよみがえった少女は、ムサシ少年に抱き着いて号泣した。少年も、しっかりと彼女を抱きしめてる。


 良かったよかった。


 しかし……何だか俺の回り、カップルだらけになってるぞ。俺なんて、相思相愛のはずなのに、ミリアムに話しかけるだけで命がけなのに。

 実に理不尽だ。この理不尽世界ファンタジーワールドめ。


 ちなみに、このエリクサーはトゥルトゥルに持たせた分だ。持ってることを忘れてて、魔核爆弾を作るときに渡し忘れたらしい。


 ムサシが俺を少女に紹介した。

「アイリ、こちらがオレたちを助けてくれた、勇者タクヤだよ」

 勇者は休業中だけどね。あ、もう廃業していいんだよな?

 少年の言葉で、ようやく少女はこっちに気が付いたらしい。真っ赤になって礼を言ってくれた。

 可愛い彼女さんだな。チクショウ。


 アイリとムサシは剣士で、一緒に修行をしていて親しくなったとか。こういうの、姉弟きょうだい弟子ってのかな。何でも、最初は彼女の方が年上で、アイリがムサシをかばって死んだのだと。

 髪の毛と瞳は茶色で、美少女というよりランシアの妹版って感じだ。あ、見た目だけのトゥルトゥルとは違って、中身の方ね。


 そのムサシやアイリから見ても、俺の仲間たちの多様さは気になったらしい。確かに、ケンダー、ブラウニー、レプラコーン、マーメイドと豹頭族なんて組み合わせなんて珍しいだろう。

 俺はみんなを二人に紹介した。

 ギャリソン、グインとアリエル、ランシアとジンゴロー。


「それで、こいつがトゥルトゥル」

「ご主人様と熱愛中です♡」

 とんでもないことを言いやがるので、赤毛から覗いたちょっと尖ってる耳を掴んで引っ張った。

「痛い痛い痛い!」

「デマを流すな。迷惑だ」

 二人は笑ったが、アイリが真顔に戻って尋ねて来た。

「それで……そちらの方は?」

 彼女の視線をたどると。


「ああ、マオがいたっけ。いや、忘れてたわけじゃないんだよ」

 俺の言葉に、彼はため息交じりに答えた。

「そうでしたね。あなたはそんなお方です」

 前にも聞いたセリフだが、かなりニュアンスが違うぞ。


 マオは、オーギュストなんとかとフルネームで自己紹介した。なんとかの部分は聞き洩らしただけだ。覚えてないわけじゃない。思い出せないけど。


「マオというのは……?」

 ムサシが怪訝な顔だ。


 俺は懐かしの日本語で答えた。

「オルフェウスの前の魔王だからね」

「ああ、大和言葉。懐かしいな」

 やっぱり日本人か。


「しかし、魔王だからマオとはね……って、魔王?」

 気づくの遅いし。

「昔のことさ。まぁ、あとでおいおい話すよ」

 あとは、エレとロンだが、まだ寝てるから後にしよう。


 そう言えば……。

「アリエル、御美脚はどうした?」

 ずっとグインにお姫様抱っこされてる。グインなら疲れ知らずだろうけど。

「はい、実はさっき揺れた時に……」

 なんと。好きで抱かれてるんだと思った。いや、好きなんだろうけど。


 ジンゴローの方に目を向けると、何か言う前に彼はうなずいた。

「合点承知でさぁ」

 そこで、ちょっと困った顔に。

「工具と材料が……」

 ああそうか。

 目を閉じると、キウイの対価処理はまだ振り切ってた。何日かかるやら。


「しばらく、アイテムボックスは使えないな。アリエル、悪いけどもう少し待って」

「問題ありませんわ、ご主人様」

 彼女は微笑むと、グインと見つめ合った。チクショー。


 そうだ、アイテムボックスと言えば。

「これは、君に返すのが筋だろうな」

 ムサシの魔核が入った球体を彼に渡す。ついでに、その魔核の特性も伝えた。

「なんか……これがあったら剣振るうまでもなくね?」

 彼は呟いた。

 そうかもね。魔物だろうと魔王だろうと、それに触れたらイチコロだ。まぁ、防御魔法や闘気で弾かれるだろうけど。


 そのとき、マオが俺に向かって告げた。

「クロードが目覚めたようなので、見てきます」

 おう。こっちは本当に忘れていた。

「まだいるんだ、仲間」

 ムサシがマオの入って行った戸口を見ながらつぶやく。

「どんな方なんですか? クロードさんて」

 と、アイリ。

「そうだな。若くてハンサムで、まぁ一言で言うと……皇帝だ」

「「……皇帝!?」」


 うむ。目が点になるよな、そりゃ。


********


 ひとつ問題がある。

 迷宮の入り口が溶岩で塞がってしまったから、ここから外に出るには、転移を使うか、アイテムボックスで掘り進むしかない。つまり、キウイが目覚めるまでは自力では無理。

 マオは、目覚めたクロードを連れてさっさと転移で帰ってしまった。皇帝がいつまでも不在じゃ、戦後処理もままならないだろうし。それに、俺たち全員を連れて行くと、対価が気になるし。


 てなわけで、もう一晩待ってみたんだが。一向に対価の処理が終わる気配がない。一週間分くらい使ったのか。一カ月分か。

 することもないので、時刻は昼間なのにベッドで横になってると、ロンがじゃれついて来る。可愛いんだけどね。


『よいしょ、よいしょ』

 今、探検家のロンは、おとう山脈を縦断中だ。足元から胸元まで。あ、こら、股間を踏まないで!

『パパだ~』

 はいはい、パパですよ。

 そして、回れ右して足元へ。だから、股間はやめて! ……子種なくなったらどうするの。


 と、寝室のドアがノックされた。

「あ、どうぞ入って来て」

 ムサシだった。


「タクヤ、そろそろ食料も残り少ないみたいじゃないか?」

 ギャリソンがそんなことを言っていたな。

 オルフェウスはかなりのグルメだったらしく、ここには最上の食材が揃っていた。しかし、配下はここに置いてなかったらしく、量はさほどでもない。八人ではそろそろ心もとなくなってきた。なにより、エレとロンの生肉が真っ先に足りなくなるし、グインは二人前食うし。


「まー、キウイ次第なんだよなぁ」

 俺の言葉にムサシは胡乱な表情だ。まぁ、仕方がない。喋る魔法具だとか、魔法具が勇者だとか。キウイがこんなだから証明できないし。


 すると、ムサシが銀の球体を懐から取り出した。

「なんなら、これでオレがみんなを連れだしてもいいんだが?」

 俺は飛び起きた。腹からロンが転げ落ちる。

『わぁ!』

「あ、ごめんよ」

 抱き上げて、胡坐をかいた膝に載せる。

「そうだな、その手があったよな」

 キウイが使えない状態で外に出る不安もあったが、ムサシのアイテムボックスにお邪魔すれば済む話だ。


 善は急げだ。俺は昼寝をしていたエレを起こすと、全員を引き連れてムサシのアイテムボックスに入った。もちろん、キウイを入れた通勤カバンをしっかり抱えて。


 まずは、オレゴリアス公国の都へ。流石に、あんな戦争の後で魔獣を連れて街には入れないから、エレとロンにはムサシのアイテムボックスに残ってもらう。キウイに充電しながら。


 で、新たな問題が発覚。

 よく考えたら、金目の物は全部、アイテムボックスの中だった。ムサシの方に入ってるのは南の貨幣で、しかもトラジャディーナとは違う王朝だったらしい。当然、こちらでは使えない。骨董品的価値は高いのだろうけど、売るにも伝手つてがいる。


「すまない、みんな。小銭でもいいから、供出してくれない?」

 情けない話だ。奴隷から金品を巻き上げる主人。

 何とか宿代は工面できたので、泊まる場所は確保できるはず。しかし、あれこれ足りなさすぎるので、みんなで買い物にでた。特に、アイリの服だ。エリクサーで傷は治ったが、衣服の方はズタズタなので。

 まぁ、一応、トゥルトゥルが才能を発揮して繕ってくれたけど、年頃のお嬢さんはもっと着飾って良いはずだし。


「……本当に良いんですか? こんなにお金を使っちゃって」

「いや……大丈夫だよ、ハハハ」

 この世界、衣服は結構高価なんだった。忘れてた。

 でもいいさ。質素なワンピースだが、似合ってるし。ムサシがちょっとどつきたくなるほどニマニマしてるし。

 しかし、これだと夕食とか食う金もなさそうだ。折角だから打ち上げとかしたかったのに。


 その時、城門の方が騒がしくなった。見ると、一目で冒険者だと分る連中が一群になって入ってきたところだ。

「都だ都! さぁ、今夜はパーッとやるぜい!」

 リーダー格らしい男が呼びかけると、威勢のいい返事が返ってきた。

 景気が良いなぁ。俺のおかげなんだけど、だからってたかるのはやだし。


「あの……タクヤさん」

 と、ランシアが懐から名刺大の銀色のプレートを引っ張りだした。

「あ、そうか。徴用証」

 自分で配っておいて、すっかり忘れてた。俺自身は褒美なんてもらうつもりがないから、持ってない。そもそも、奴隷に持たせるわけにいかないから、本来なら人数分を俺が持ってるはず。

 無欲すぎるのも問題かな。

「ありがとう、使わせてもらうよ」


 と言うわけで、俺たちも王城へ向かって進んだんだが。

 なぜか、一緒に歩く冒険者たちから注目を浴びている。そのうち一人が話しかけて来た。

「あの、ひょっとして勇者さまですか?」

「え、ああ……はい」

 なるほど。グインは目立つし、勇者が人魚や小人族を連れてるのは何人もが見てるからなぁ。

「やっぱり! 俺っち、ギルドでのあの演説聞いてからずっと、勇者様の大ファンで」

「……そうなんだ。うん。頑張ったね」

 そう答えながら、勇者は戸惑いの顔を俺の方に向けた。


 勇者ムサシが。


 で、俺は閃いた。

 なるほど、そうだよな。どう見たってムサシの方が本物の勇者に見えるよな。いや、正真正銘の本物だし。魔王を倒したのが何百年か前だというだけだ。

 なら、マオやクロードと口裏を合わせておけば、今後は勇者ムサシに頑張ってもらい、俺の方は無事、勇者は廃業出来るわけだ。


「なぁ、タクヤ」

「はい、何でしょう、勇者さま」

 ムサシ、薄い目だ。


「勇者はオマエだろ?」

「何をおっしゃいます。ムサシさまこそ勇者ではないですか」

 ガシガシと頭を掻くムサシ。

「いやまぁ、そうだけどさ」

「見事、魔王を討ち取りましたし」

「……相打ちだったけどな。それに」

 眼光が鋭くなる。


「オレが殺したのは、あの下衆野郎の方だ。ルフィを倒したのはオマエだ」

 この辺は確かに、微妙だろう。オルフェウスとは親友、いや命を預け合った盟友なのだから。

「オレは魔人化した時に、ルフィに殺してくれと願った。魔王になったあいつも、オマエに打ち取られて良かったんだろうよ。だから、その辺は納得してる」

「だったら、いいじゃなですか。別に嘘をつくわけじゃないし」

 ムサシは天を仰いだ。

「なんつーか、凄く居心地が悪い」

「……まぁ、こんなオッサンの身代わりなんて嫌だろうけどさ、そこは何とか」

 ハハハ、とムサシは笑った。


「何がオッサンだよ。タクヤ、オマエいくつだ?」

 えーと。俺の誕生日、十月だったんだよな。ペイジントンに居たころだ。こっちは数え年らしいから、祝うこともなかったけど。ちなみに、こっちの一年は春に始まる。まだ先だけど、日本式に計算してみるか。

「数えで二十九歳」

 うーむ。ますますアラサーだなぁ……。

 ……あれ? なんでみんな足を止めてるの?


「そんな……全然そうは見えませんね」

 アイリちゃん。お世辞だと分ってても、オジサン嬉しいよ。

「本当です。私はてっきり、自分より下だとばかり」

 アリエル。ありえねーって、それは。

「誤差の範囲だよ、ご主人様♡」

 こう見えて、トゥルトゥルは百歳越えてるもんな。……って、ジンゴローやギャリソンも何か納得してるし。まぁ、日本人が年齢より若く見られるってのはよくあることだけど。

 しかし、ムサシも日本人だろうに。

 あ、時代がかなり違うのかな?


「じゃあ、あれか。日本にカミサンとか子供とか……」

 皆まで言うなよ、ムサシ。

「居ても良いはずですが、未だに独身です」


 ついでにDTどーてーだけど、それは秘密です。


「ご主人様には、ミリアムさんがおりますから」

 アリエル、ばらしたな。

「ああ、やっぱり良い人がいたんですね」

 アイリちゃん。オジサンは微妙に胸が痛いよ。

「国にいるのか? 今度、紹介してくれよな」

 いえ、迷宮に引きこもってます。遠話も普段は着信拒否されてます。


 ……大体。

「殺されちまう」

 他の人間を連れていったら、絶対に死ぬほど叱られるな。

「え? 何だって?」

 ムサシが聞き返してきたが、答えようがない。


 そんなこんなで、王城についた。早速、城の庭に作られた受付でランシアの徴用証を渡し、報奨金を受け取ったのだが。

「私……大金貨デカミナなんて初めて見たわ」

 袋から取り出した大ぶりの金貨を眺めて、ランシアが呆然としていた。


「いや……俺もだ」

 魔族退治でもらった時は、金貨ミナにしてもらったからな。そもそも、こんな高額貨幣、一般の商店では使えるわけがない。一枚で日本円に換算すると約百万円。商人ギルドでの大商いとか、国家予算とかでないと使わない。

 まぁ、帝国が払うのだから国家予算なわけだが。


 袋の中にはこれが十枚。二万人が参戦して、大半が生きのこったはずだから、二千億か。帝国でなかったら、国が傾く金額だろう。本当に太っ腹なのは皇帝陛下だな。クロードはスリムマッチョだが。


 で、城の門前にずらりと並んでるのは、屋台ではなくて両替屋だった。さすがに目ざとい。

 ま、そのおかげで、宿に戻ってからは盛大に打ち上げができたわけだ。


 実際には、エレとロンは畜舎に入れろとか、ヒト族以外はダメだとか宿が言って来たんだが、ランシアが金貨ミナ一枚を叩きつけたら、瞬時に大人しくなった。

 で、その晩は宿を全部借り切って、道行く人にも無制限に酒を奢る大盤振る舞い。どうやら、都の至る所で同じような宴となってるらしく、今夜は素面の人口の方が遥かに少ないようだ。


 久々にグインにも飲ませたので、アリエルが魔法の手で二階に運ぶことになった。さすが、レベル二十のメイドは強いぞ。

 ちなみに、彼女の方は自分で空中を泳いで行った。


 それを見上げて、ムサシが腕組みして言った。

「なんつーか、今夜は色々、すげぇもの見せてもらったわ」

 それって、アリエルの空中遊泳や魔法の手のことだよね? 下から遠隔視とかで覗いていないよね?

 覗いてたら殺されるぞ。俺じゃなくて、アイリちゃんに。


 そして、翌朝。

 ようやく、キウイの対価が処理しきった。


********


「じゃあ、元気でな、タクヤ」

 満面の笑みで、勇者が俺の手を握った。

「ああ、君らもね、ムサシ、アイリ」

 俺は勇者ムサシの手を握り返した。

「一段落したら、結婚だろ? 式には呼んでくれよな」

 俺の言葉に、ムサシはニヤケやがった。チクショー。


 王城の庭からいきなり転移するのも何なので、みんなを連れて門まで歩く。その間ずっと、二人は手を振ってくれた。

 ここ数日は目が回るほど忙しかった。主にムサシが、だが。次から次への帝国や王国や公国の要人との会合、式典などがあり、全て彼に出席してもらっていた。


 そんな中、時々ムサシには分らない話題が出るので、そうした時だけ遠話で彼に助言。大抵はマオにも分ることだが、俺が南の冒険者ギルドでやったこととかは分らないから、仕方がない。

 だが、ムサシにも意地があるのか、彼は決して自分の名前を名乗らなかった。俺を差し置いて、自分の名前が歴史に残ることに、我慢がならなかったのだろう。なので、記録にはただ「勇者」としてのみ記されているようだ。


 俺はと言うと、その間ずっとあの魔王の書斎にこもって、蔵書を片っ端からキウイに取り込む毎日だった。

 青魔核変換の術式。それを得るためのアカシックレコード、イデア界にアクセスする方法。少しでもヒントになるものがあればいいのだが。


 そうした中で、見えてきたこともある。

 どうやら、西の暗黒大陸にいくつもある廃墟に、行ってみる必要がありそうだ。

 あの、「全てを喰らうもの」の黒スライムが封印されていた場所とかが、非常に気になる。古竜のジイサンに聞いてみたところ、まだ竜との盟約が生きているほど古い時代から、あそこには大都市があったらしいのだ。

 それにしては、古竜はあの黒スライムを知らなかったようだし。単にボケてるだけかもしれないけど。


 王城の門から出て、仲間たちと路地裏に入る。そして、全員をアイテムボックスに入れて、転移ゲートを開く。向かう先は帝都。奴隷たちを解放し、ジンゴローの工房やトゥルトゥルの服飾店を開く準備をしないと。

 それに、ギャリソンに管理してもらう家もね。執事は家に使えるものだって言うから。


 あと、ランシアには打ち上げの時に出してもらったお金をキッチリ返した。これから、いくらでも必要だろうからね。

 そのお金は、やっぱりクロードから。なんか、受け取らないと酷い事になるとか、脅迫された気もする。多分、口止め料みたいなものなんだろう。


 報奨金と言えば、今回の収入を契機に、冒険者から足を洗うものが結構いるらしい。

 なので、彼らからかなりの数の量産型ミスリル剣を買い取ることができた。グインはミスリル鋼の剣が気になっているようなので、機会を見て鉱人族ドワーフの里を訪れ、これで彼のために特製の剣を鍛えてもらおう。


 その冒険者たちだが、かなりの数がこの北の大陸に留まることにしたらしい。

 皇帝がこの戦争での彼らの貢献に注目し、百年ぶりに冒険者ギルドを復活させることにしたからだ。迷宮の殆どは枯れ果てているが、魔物の脅威はいまだに根強くある。

 半面、今回の装備で迷宮に挑みたいと言うものも数多くいるため、エルベランから南へ向かう船は冒険者でいっぱいになったらしい。それもあって、どの国もどこの街も冒険者たちが落とす金で潤い、ちょっとしたバブル景気になっている。


 だが、金貨を現金で持っていると窃盗とかのリスクがある。

 実際、それで刃傷沙汰も多発しているので、マオに「銀行を作ったら?」と提案してみた。そうしたら、あれこれ質問攻めにあう羽目になった。こっちにはまだ、銀行なんて概念がないんだっけ。

「よくわかりました。後は任せてください。悪いようにはしません」

 マオはそう言ったが、アイテムボックスがある俺には関係ないぞ?


 とは言え、近日中に帝国銀行が設立されることになったようだ。


********


 そして、季節は春。

 アフロディエル神殿で、神の加護の下、三組の結婚の儀式が執り行われた。


 グインとアリエル。ジンゴローとランシア。それぞれ、異種族間での子宝を願って。

 それから、ムサシとアイリ。こちらは、普通に夫婦愛和と安産を願って。

 言うまでもなく、式で祝福の祈祷を行ったのは、真実の愛の巫女様だ。

 素晴らしい式だった。全俺が泣いた。涙の勇者、ここにあり。


 その式も、結構、すったもんだだった。

 ジンゴローは、「これだけはやっとかねぇと」と言って、キウイの修理をしてくれたのだ。式の直前まで。ランシアが切れそうになってて、俺はハラハラし通しだった。

 お前はトーマス・エジソンかよ? 確か、発明に夢中で結婚式をすっぽかしたんだよな。

 修理と言っても、もちろん液晶パネルは作れない。代わりにミスリルの薄板でパネルだけ作り、本体に残ってたヒンジに取りつけてくれた。外れたキーもなんとかはめ直せた。

 加えて、壊れたパネルから外したWebカメラもこのパネルにはめ込み、きちんと配線もつないだ。なので、これでみんなの結婚式の記念撮影もできるわけだ。

 毎年の結婚記念日には、遠隔視V2のパネルで見せてあげられるな。

 あと、液晶画面の所に遠隔視パネルを出せば、全く普通に使えるんだな、これが。まるで魔法のようだ。いや、実際(略

 ちなみに、カメラの配線は純金。隠れた贅沢w


 そして、式の後は夜を徹した披露宴。どこにも話してなかったのに、何故かマオとクロードまでが「お忍びで乱入」というという言語的に矛盾した暴挙を行ってくれたせいで、とってもカオスになった。

 で、例によって酔い潰れたグインを魔法の手で「お姫様抱っこ」したアリエルが街を練り歩いたりしたもんだから、さらにさらにカオスなことに。

 さて、宴たけなわだけど、そろそろ抜け出すか。


 別れ際に、マオに俺自身を鑑定してもらったら、久しぶりに変化があった。

「クラスから『異世界』が取れて、ただの凡人になってますね。あと、称号は『匠』となってますよ」

 なるほど。俺もようやく、この世界になじめたのかな?

 あたりを見回して、楽し気に騒いでる、みんなの様子を眺める。


 もう既に、仲間への挨拶は済ませてあった。なに、ちょっと暗黒大陸に飛んで、下調べをしてくるだけだ。

 みんなの生活が安定してきたら、また一緒に旅ができるかもしれない。

 とりあえず、それまではソロで色々見て回ろう。


 青魔核変換の術式を探究する者。

 青の探究者とか、ちょっとカッコいいな。泣き虫勇者より、ずっとマシだ。

 で、見事この術式が手に入ったら、晴れてミリアムを迎えに行ける。

 ミリアムの、心からの笑顔を見る事ができる。


 ペイジントンで見せてくれた、あの朝日に輝く笑顔を。

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