第一章 皇陵学園 六話「体力テストでの負荷」
俺はまあまあギリギリで教室に入った後、何もなかったかのように朝の会に出席した。
さて、HRが終了したところで学園指定のジャージに着替えた俺は校庭へ出る。普段ならそこいらで適当に時間をつぶすのだが、今日はそうともいかない。何故ならば、素晴らしいことに毎年この行事は学年全体で執り行うことになっているからだ。
ああ、かったるいったらありゃしない。
何故俺がそこまで体力テストが嫌いなのか……その理由として、力加減が難しいのだ。特に苦手なのはボール系統と立ち幅跳びで、ボールは一歩間違えると遠くに投げすぎるし、普通に立ち幅跳びや走り幅跳びをすると、砂場を飛び越えてしまう。なので極力体に負担をかけて計るのだが……これがまたつらい。自分で自分に負荷をかけるのだ。何故一度に2つのことをただの体力テストでしなければならないのか……
俺は別に、毎日運動をしているわけでも、何か特別なことをしているわけではない。逆に運動など全くせずに毎日だらだら過ごしているくらいだ。
だが、俺は幼少期のころから体をうまく制御することができなかった。何故か霊力の代わりとでもいうように持っている妖力に関係しているのだろうか。
名家の人間でありながら、妖力を持つことは禁忌。だから俺はこのことを家族にも言っていない。それに、この赤い瞳。忌々しくてしょうがない。
それに、体力テストよりも嫌なことがある。体力テストのあとにある実力テストのようなものだ。生け捕りにした妖怪を自分の力で滅するというものだ。こちらは力加減が難しいなどというわけではなく、単純に俺は向いてないのだ。
そんないくら嘆いたって仕方のないことを心の中で考えていると、こちらに向かって真っすぐに歩いてくる気配がした。
ポンッと肩に手が乗せられる。
「ねぇってば~。僕が来るのがわかってるのに無視はないでしょ~?」
「煩い。あっちいけ。ほら、お前を狙ってる
「え~? そんなこと言わないで~ほらほら~。出会ってすぐにデートした中でしょ?」
「あ?ぬかせ。何がデートだ。何が。まずそもそもお前を友達だとは……」
とまで言いかけて、俺は丁度いい事を思いついた。北条はいきなり文句を言うのを止めた俺に向かって小首をかしげている。
「どうしたの?」
「いや……なぁ、俺らは友達なんだよな? 他ならない友達の頼みなら、聞いてくれるよな?」
すると北条は俺から何かを感じ取ったのか、ニヤリと
「いいよ~。ほかならぬ親友の君のためなら。なになに~? 楽しい事?」
「ああ、楽しいことだ。俺のドーピングに付き合ってくれ。」
……こんなことをしていると、思わず笑ってしまいそうだ。いや、嗤うというのが正解か。少なくとも学園にいる間は絶対にそんなことをすることは許されない。もししてしまえば、俺は自分の目的に達することができなくなってしまう。
演じろ。学園では落ちこぼれを、式典などの行事では上にとって扱いやすい駒を。演じろ。愛想笑いを浮かべて。だが、本当に使われてはならない。それこそ運の尽きだ。そんなことになるなら、妖怪に殺された方がまだましだ。
さて、苓のドーピングを手伝うことになった
〔要するに、僕は君がテストを受けるときにペアになって、君自身に負荷をかければいいんだ。なるほどね~。いいじゃん。面白そう。その話乗ってあげる! まあ、バレたらバレたで僕も共犯だから一緒に怒られてあげる。はぁ~。僕ってば仏の鑑〕
〔知ってるか?自分でそういう奴は大抵の場合そんないい奴じゃないんだぞ?〕
酷い事言うな~。まあ、楽しいから別にいいけどね。今まで生きていて、君と一緒にいるのは結構居心地がいいと感じるから。
それにこの時間は彼も寝てるしね。本当に寝てるかどうかは知らないけど。
さて、2人で話し合ってから5分ほどたって、ようやくテストが始まった。計測の順番はランダム。好きなように並んで大丈夫みたい。2人組を作ってお互いに監視し合いながら記録を見ていく方針か。
「じゃあ先にドーピングしなくてもいいやつから消費しちゃおうか」
「そうだな。となると……」
そう話し合いながら僕たちはどんどん記録を取っていく。
「さあ、残りは2つだな。どっちが先に投げるんだ?」
「う~ん……僕が先に投げるよ。負荷の加減も知りたいところだし」
「わかった。さっさと行ってこい」
「それが人に頼む立場かな? まあいいや、行ってくるね~」
「ああ」
僕はそう言って苓と別れると、投球場所に立つ。さて、見た感じ右手側に見張りの教師が一人。多分個人の能力のみを測るためにいるんだろうけど……何かしらの霊力とかでテスト結果を
ていうか苓はこの条件下で僕に術を使わせようって言うの? 割と無茶ぶりじゃないかな……でも。逆に言えば苓は今までこの条件下で先生たちを出し抜いてたんでしょ? 一体全体彼はどうなってんだか。普通じゃない。まったくもう。今度聞いてみようかな……
そう考えながらも足元に散らばっているボールを一つ拾う。握った感じの周囲は約30㎠くらいで、重さは190gくらい。ゴム製だ。
新品のようだけど、僕が使う前に数人の生徒が使っていたので
ちらりと右手側にいる教師を見てから正面に視点を切り替える。左脚を軽く上げ、両脇を程よく締める。目線はやや高めに設定し、振り子の原理といっていたような気がするものを使って力みすぎないように注意しつつ投げる。
ブオンッっという音と共にボールが高く上がる。5mほど上に上がった後、ゆっくりと落ちてくる。
何m跳んだかなぁ~
目を凝らしていると、苓が指で30と示してくれた。周りの生徒たちが多少ざわめいている。苓はこれよりも低いほうがいいのかな?
僕自身も大分手を抜いたので、苓はもっと手を抜いた上に術を使うから大変そうだね……とりあえず僕は基準をこれくらいに設定し、残りの4球も投げる。全部30m前後。ばらつきがないと逆に怪しまれちゃうしね。
さて、ペアの僕が投げ終わると苓と交代しなければならないので、僕たちは互いに歩き直す。すれ違う時に一瞬僕の異能を使って会話をする。
〔さっきよりも飛ばないほうが助かるんでしょ?〕
〔ああ。頼んだぞ〕
他の人たちから見たら僕たちはただすれ違っただけのように見えているだけだ。
さぁ、僕たちのテストはこれからだよ。
北条は俺に一瞬異能を使うと、何事もなかったかのように俺がさっきいた位置に真っ直ぐに歩いて行った。
さて、足元に転がっているソフトボールの1つを手に取る。小等部の時よりも一回り大きくなっているが、俺も多少は身長が伸びたので、あまりわからない。ちょっと前までは成長痛に悩まされていたのにな。あれは中々に痛かった。
ギュッギュッと、ボールを握り、北条のいるところに自然をずらす。他のやつにはわからないよう、メデ合図を出す。
――――ダンッッ
何かを叩きつけるような音が耳元でなったような気がした。そして次の瞬間、体中に普段の数倍以上の重力がたたきつけられた。
しかし、ここで俺が何か異変を見せれば、すぐさま教師が飛んで来て北条の不正がばれてしまうだろう。よって俺は何食わぬ顔でこのクソ重い体をつかい、重いボールを投げなければいけないのだ。
しれっと恐ろしいことをしてくれる。これが俺でなかったらこの重力に耐え切れずに押しつぶされていただろう。確かに重いが、耐えられぬくらいではない。何故だろうか。俺の体はどうなっているのだろうか。自分でも恐ろしい。
この筋力、耐久力が欲しいというものがいるのならば、喜んで渡してやろう。俺はこんなものは要らなかった。できることなら今すぐ放り捨ててやりたい。
こんなものではまだまだ足りないくらいだ。だが、久々にしっかりと運動になりそうだな。
しっかりとボールを握って意識を集中させて投げる。
――――ブオンッッ!
1,2……6mほどの高さでボールがゆっくりと止まる。そして落ちた先が……
日本妖怪事変~交差するいくつもの世界~ 我儘エリー @mamawagaeri
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