『釘を刺す』
俺はそいつに何度も言った。おんなじことを、何度も何度も。
「どうしていつも適当なんだ!」
《《そいつ》》とは、俺の古い友人のことだ。そいつの経歴についてとやかく説明するつもりはないが、特に伝えておきたいのは、奴が借金ばかり作るような奴で、俺にすら集る様な奴だということだ。
今度返す。次こそ返す。耳をそろえて絶対に返す。
そんなこといって毎回ヒラリヒラリと返済を躱している。そいつに貸した金額は、もう幾らになっただろうか。
どうして簡単に貸しているのかというと、悔しいことにそいつに恩があるからだった。そして悲しいことに俺がどうしようもないお人よしだからでもあった。
ある意味では命の恩人だともいえる。俺が彼女に浮気され、罵倒されて分かれたとき、もう生きる気力すらなかった俺を励ましてくれたのはそいつだった。
そいつの激励がなければ、まだ若かった当時の私はそのまま気を病んで自ら命を絶っていたかもしれない。
それほどまでに俺は小心者で、言いたいことを口にできず、ただただ心の底に溜め込むことしかできないのだ。
だから、そいつに「金を返してほしい」と言うのも、毎回毎回が精いっぱいであった。か細い声で、なんとか絞り出して主張するのがやっとだ。
だが、そんな俺の気持ちは、今思えばそいつにとってはきっと、これっぽっちも眼中にないのだろう。
そうすると無性に腹が立ってくる。
金の無心をするのは、俺がそいつに恩があるってことを分かっているから、断れないってわかっているからではないか。
そもそもあの時慰めてくれたのだって、そうやって恩を作っておくことで断りにくくさせるつもりだったのではないか。
そいつには友達が多いから、もし貸さなかったりしつこく催促したら、根も葉もない噂を立てて追い込むのではないか。
そんなことを考えていると、だんだんと心が病んでくる。少なくとも昔の俺はこんな人間ではなかったはずだ。もっと本当は、人の心を、痛みを理解できるはずだったんだ。
それもこれも、全部そいつのせいなんじゃないかと思い始めてきた。そう考えると無性に、はっきりと物を言えない自分にも苛立ちを感じ始めた。
きっと変わらないといけないのだろう。一発ガツンと、そいつに釘を刺してやらないと。じゃなきゃ、俺もそいつもきっと、この先ちっとも変われないかもしれない。
俺は決意した。これで俺とそいつの間に何か問題が生じることになるとしても、やらなければ後悔することになるかもしれない。
しない後悔よりもする後悔の方がよっぽどましだろう。
そうして俺は、ありったけの思いを込めて、
そいつの顔写真が貼られた藁人形の腹に、五寸釘を打ち付けた。
雀の短編集 スパロウ @sparrow_akira0704
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