罪に罰を罰に罪を
電咲響子
罪に罰を罰に罪を
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ひどく悩んでいるようだな。きみの
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はい、先生。僕は幼少期からおぞましい幻覚を
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悩みは解決したようだが。それでも私を頼った理由を教えてくれないか。
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はい、先生。僕は釈放されてすぐ元彼女の家に行きました。謝罪するために。ですが、親族に邪険に扱われ会うことすら叶いません。考えてみれば当然の話で、娘を暴行した相手を簡単に許すほうがおかしいのです。その後、僕は親を頼るも退けられ、名前は出せませんが某所でアルバイトをし安アパートに一人暮らしをしていました。ああ、ひどいものです! 僕の部屋の壁に、天井に幻覚が張り付き、まして目を閉じてもなお流れ込んでくる幻覚はもはや狂気そのものでした。が、不思議な点がひとつありました。幼少期から見ていた幻覚の内容を覚えていないのです。幻覚を見た、という概念だけが脳内に残り、肝心の内容を覚えていないのです。これでは妄想と同義と思われますよね。実際、誰に話しても妄想の産物と一笑に付されました。考えてみれば当然の話で、もし僕が知人にその
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君の悩みは理解した。だが解せない。きみは然るべき場所へ行くべきだ。何故ここへ?
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はい、先生。然るべき場所へは行きました。何度も、何度も、何度も…… 先生。あなたも薄々感づいているはずだ。僕がここに来た理由を。僕の両親はいません。幼少期の僕に撲殺されて死にました。鈍器で滅多打ちにされて死にました。動機は今なお不明です。僕はこの国の法律で罰せられることはなく、しばし施設に隔離された後一般社会へ戻されました。保護監察官は極めて事務的で、僕に対しあまりに冷たく、それはある意味心地よい対応でした。僕は混沌とした意識のなか義務教育を受け、仕事に就き、平凡な日々を送っていました。ですが。意識がはっきりするにつれて、はっきりするにつ、れて見え、るのです。例の忌まわしい幻覚、が。失礼。今も、今も見えています。空中に、壁に、窓に、電源の切れたテレビのなかに、先生の瞳のなかに。そして、先生が持つ鉄塊に。ああ、どうか。どうか終わらせてください。この世は地獄そのものです。僕の地獄を終わらせてください。
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いいだろう。しかし条件がある。これはきみに降り注いだ呪いそのものだ。億はもらわないと割りに合わない。きみの生命保険じゃとても足りない額だ。支払えるのか?
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はい、先生。僕の財産は、正確に計算したことは、ないのですが、軽く億を超えているはずです。臓器は高値で売れました。両親と、僕の、臓器は。ここに闇口座の情報を記した…… ああ、先生。はや、く、お願いし
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私は拳銃で彼の頭部を撃ち砕いた。粉々に飛び散った頭蓋が周囲を真っ赤に染める。彼の手からひらりと紙片が舞い落ちる。私は驚嘆した。よくぞここまで貯めたものだ。おそらく自身の罪に対する執念が彼を
<了>
罪に罰を罰に罪を 電咲響子 @kyokodenzaki
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